5空気を読む
例えばマネキンの顔をドローンにつけ、プロペラ音を消すために奇怪な鳴き声を流す。
おそらくアキバにでもいけば数時間で揃うのではないか?
それなら、怪物が距離は近いが別の山に現れた訳も解る。
内蔵カメラで見ながら、追っているのだ。
芦ノ湖周辺に、何かあるのだろう。
誠は考えるが、颯太が。
「ここ、有名な観光地だろ?
神社とかテレビで見たぜ」
「多分、その辺は外れた場所なんだよ。
湖って、外周は以外と広いからね」
と、誠は推理した。
美鳥のバイクの後ろで脳内会議をしていた誠だが、
「なあ、俺どーなるのかな?」
なんと、颯太が連れてきた被害者の霊が誠の中に入っていた。
「えっ、困ったな…」
さすがに徐霊するしかないのだろうが、颯太や真子が失われると、誠はかなり影繰りとして弱体化する。
「俺、緑山大学の二年なんだよ。
君の勉強ぐらいなら見れるよ」
男、田辺和広は誠に訴え始めてきた。
「ファッションアドバイスもしようか?」
それは誠にとっては余計な出費以外の何者でもなかった。
「まぁ、しばらくは犯人の顔を知る人物として置いてもいいのではないですか?」
真子は言い出した。
颯太は、偶然とはいえ誠が殺したのだから仕方がないし、真子ちゃんも色々助かるからいいのだが、見知らぬ大学生が自分の頭にいる、というのは…。
誠は難色を示すが、現状、彼の追い出し方を誠は知らなかった…。
本部に帰ったのが昼前であり、食堂で昼食を取った後、誠は学校に戻った。
午後一は英語の授業だったが。
誠は、不意にネイティブな英語を操り始めた。
「俺、こう見えても帰国子女なんだよ」
誠の中で田辺の評価が急速に高まった。
発音は諦めていたのだが、田辺が居れば、外人とも会話が出来るのだ。
やがて本部で練習を始めると、田部は水泳もかなりの実力ということが判った。
「な、俺がいると便利だろ?」
という田部の言葉に頷きながらも、こんなんでいいのか、誠は悩んだ。
「しかし、死体が発見されるようなヘマを顔泥棒がしたのが不思議ですね?」
誠は言うが、井口が。
「あそこはバス釣りの名所なんだ。
多分大物釣りの釣り針にでも引っ掛かったんだろう」
と話した。
誠は小百合に怒られてから、極力、水泳用Tシャツを着けて泳ぎ、素早く着替えるようにしていた。
真子がボディケアをするようになり、誠の肌は白く艶やかになった。
田部のアドバイスもだんだん慣れて、今までよりはお洒落な服を着るようになっている。
田部は、確かに有名大学の学生としての学力もあり、誠は勉強の上でも助かった。
家庭教師が常時頭の中にいるのなら、週何日か習うより確実に力はつく。
やがて中間テストの時期になったが、誠はトップの成績を手にすることになる。
一年二組の体育でも、誠はカブトや川上と遜色無い力を発揮し、ユリと共にとても目立っていた。
「ちょっと面白くないな」
呟くのは、陸上部の滝田だった。
「あの、カブトと川上はヤバそうじゃないか」
と、同じく陸上の大川。
当然、二人より小柄で、ひ弱に見える誠とユリに二人の視線は熱を帯びた。
昼食は、誠は学食で済ますことが多い。
味はイマイチだがワンコインで済み、ヤカンに入ったお茶は飲み放題だ。
その日は誠とユリが、一緒に学食に行き、帰りに校舎裏を通った。
「よー、小田切、ユリ」
滝田と大川が、声をかけた。
「ああ、滝田君、大川君」
誠は、クラスの名前は全員覚えていた。
誠たちが足を止めると、二人は誠たちの肩を抱えた。
小柄な二人は、運動部の男に抱えられると、スッポリおおわれてしまう。
「お前らさ、空気とか読まない?」
滝田が誠を覗き込む。
「空気?」
誠は、中学時代、友達ゼロで生きてきていた。
「陸上部より、足が早いとか、お前らになんの意味があるのか、ってさ…」
大川が、
「お勉強で頑張ればいいじゃんか?
体育とか、お前らオールAとか、なんか意味あんのか、ってことだよ。
助け合おうぜ」
ここまで言われれば、さすがに誠も理解できた。
が、
「誠、こいつら、何が言いたいの?」
ユリは、学校に行くのも始めてで、評価Aなど意味が判らない。
誠は穏便に済ませたかったので、
「あ、ユリは僕が言っとくから。
気が利かなくて悪かったよ。
僕ら、別に体育の評価は要らないから」
と、笑ってごまかしたが。
「君たち、悪いことを誠にしようとしてるね…」
ユリは、まさに空気など読めなかった。
大川に肩を覆われていたが、逆に大川の脇腹に、ユリは肘を撃ち入れた。
大川は吹き飛んだ。
「あ、ユリ、止めなよ」
誠が止めるが、ユリは弾丸のように頭から滝田に突っ込む。
小柄なユリの頭突きが、アッパーカットで滝田に刺さり、滝田は生まれて始めて失神した。
このまま暴力事件になってはマズかった。
と、不意に誠の頭に、白人の姿が現れた。
マッドドクターだ。
「やれやれ、困ったようだね。
君に簡単な催眠術を伝授しよう」
滝田と大川の脳の一部に、誠は影の手を入れる。
そして、二人の耳元に囁いた。
「この事を喋ったら、お前らは終わりだ。
解るな。
空気を読むんだろ?」
それを済ますと、誠はユリを引っ張るように、その場を後にした。