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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
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48トー横ギャング

誠と美鳥が粘菌の山を前に途方にくれている頃、ダンサーチームは復興途中の新宿にいた。


新宿通りに巨大な穴が空き、何千人という死者が出たことは大きな社会問題になっていた。


が、内閣総理大臣鳳大悟は、穴をそのままに壮大な地下都市空間を建設する、という大胆な計画を発表した。


およそ四十兆円をかけた大規模開発であり、複数のデベロッパーが血眼になって参画を希望していた。


「東京こそ、最新の通信機能を備えたハイパーシティになるべき街なのです!」


穴は、ハニカム構造でデザインされた壁、兼、商業ビルで覆われ、その中を透明チューブに入った地下鉄が幾重にも横切っていく。


地下百メートルには緑地公園が作られ、ハニカム構造の外壁の一部から滝が流れ、地底の川に流れ落ちる。


この滝は水力発電でもあり、地下都市の電力の一部を担っている。


新宿通りは透明素材で再生せれ、地面を失ったため取り壊さざるを得なくなった建物は、ハニカム構造の外壁から伸びる七十近い高層ビルに連結され、巨大広場を見下ろすことになる。


この透明素材の広場は多くの樹木を植えてあるが、土は使用していない。


いわば道路から三十メートルの透明広場は内部で水耕栽培が行われる苗床であり、それが滝の水にも利用されるという。


完成すれば、新宿は中国、上海を上回るような近未来型都市になるのだ。


この透明な広場を間に挟んだ地下と高層ビルは、有人ドローンで高速移動出来るという。


華々しい政治的花火ではあったが、その膨大な工事のため、新宿は今や、迷路のような路地を人々がさ迷う、日々変化する九龍城のようになっていた。


「竜吉君、こんな細い道を通るのかい?」


ミオは困惑する。

ミオも豪華なタキシード姿だが、隣のレディは清楚なシルクのドレスをまとっているのだ。


その二人が立ち止まり、竜吉に文句をつけているのは、それほど細い道ではなかった。


ただし、道の左右には屋台が出て、ビールケースのテーブルに丸椅子を並べ、仕事を終えた工事労働者とサラリーマンが仲良く酒に酔いしれていたため、歩ける幅は二メートルも取れなかった。


「残念ながら、そこが最短ルートなんです」


申し訳なさそうに、竜吉が答える。


二人は、なんとか崩壊を免れた歌舞伎町で暴れている影繰りを倒そうとしているのだが、そこに通じる道は、全て工事のため車両通行止めで、二人は徒歩で、現在、およそ職安通りの新宿側まで、なんとか進んでいた。


が、この先は、同時に作られる地下都市の建設のため、カオスが広がっていた。


「なんか、ゲロ臭いんだけど…」


バッチリメークのレディは、今は可憐な乙女にしか見えない。


いやがる誠に、無理やり喉仏だけを若返らせる施術をさせたレディは、人形のような細い首と、美しいソプラノの声を蘇らせていた。


「まだ、僕にも何が起こるか、全く判らないんですよ!」


釘を刺す誠だが、レディの美への憧憬は、もう押さえられなかった。


「まー、仕方ないわ。

ミオ、先を急ぎましょう」


二人の頭上を、工事資材運搬の大型ドローンが働き蜂のように無数に飛び交っている。


車は全て塞き止めて、今の新宿はコンピューター制御のドローンにより、昼も夜もなく、地下都市が建設されているのだ。


「それにしてもエスニックな臭いだな」


ミオは賑やかに酔いしれた男たちを見渡す。


おじさんの酒の友、煮込みや醤油臭い焼き鳥などはここにはなく、香草やピーナツバター、ココナツ、中華スパイスの香りが充満している。


「ほら、すぐ新大久保だから。

その辺の店が勢力を伸ばしてる、ってニュースでやってたわ」


事の他ビールや日本酒、焼酎にこれらのつまみが合うらしい。

おそらく、新大久保で培った、飲食店の工夫も大きいのだろうが、男たちは大いにエスニックフーズを楽しんでいた。


「二本?

二本じゃ足んねーよ!

この、ピーナツの焼き鳥を四本だ!」


「お客さん、時間かかるよ」


そんな会話も飛び交っている。


空中、なにもない場所に巨大スクリーンが浮かび上がり、相撲中継の再放送をしていた。


画像を突き抜けて、資材ドローンが飛んでいく。


「やかましくてかなわんな。

急いで抜けよう」


ミオは叫ぶように言って、か細くなったレディの肩を抱く。





新宿東宝ビルが見下ろす広場は、いつかトー横と呼ばれていた。


一事は家出した子供たちが集まっていたのだが、今は日雇いに近い工事関係者や様々な国籍の人々が集まり、賑やかな一帯になっていた。


元々女性を揃えた店や、ホストクラブも多い上、奥の二丁目には同性相手のバーやスナックもあり、今やそれぞれトー横に手を伸ばしていた。


今、ここではホゥン和也と呼ばれる影繰りが、次々と男たちに喧嘩を売り、周囲は大乱闘になっていた。


店は慣れたもので、シャッターを閉め、内部にバリケードを作っていたが、ホゥン和也と、彼の率いるヤンキー軍団は、元々店に迷惑はかけないので有名だった。


今は、新開発に群がるヤクザやチャイニーズマフィアを、トー横、ひいては歌舞伎町から追い出そうとする戦いだ。


白井芳一も、和也に呼ばれて、ヤンキーに薬を渡しに来ていた。


別に荒事が苦手な訳でもないので、付き合いで関西人らしいヤクザを数人片付け、どさくさ紛れに顔でも盗もうか、と思ったとき…。


「お前、祐介じゃないか?」


福地祐介。

今の顔泥棒の本体の名前だ。


白井と似ている所は無いはずだが、戦うと、どうしても骨格から、動きは似てしまうものらしい。


福地の記憶も持っているので、


「ああ、中島さんか?」


白井から福地への変身は、同い年のため、微かな変化だ。


福地になって、中島を見た。


中島は冴えない小男で、何度か福地を買っていた。

ろくに会話もしたことはないのだが、何故か福地を覚えていたようだ。


「お前、ギャングになっていたのか」


トー横ギャング、と和也の組織は名乗っていた。


「あ、ギャングって言うけど悪いことはしてないんだよ。

ヤクザもんや中国人がトー横に入り込むのを押さえているんだ」


そうか…。

と中島は俯きながら上目遣いに頷き、ただ福地のズボンのポケットに万札を入れてきた。


「俺、店は止めたんだ…」


体が、暴れだしていた。

白井は、体を押さえるために、薄く汗ばんだ。


中島は、


「今夜だけ、いいじゃないか…」


さらに数万円をポケットに入れる。


今度は前ポケットに奥までお金を入れる。


つまり福地の体に返答させる、というわけであり、白井がなんと言っても、福地は既に臨戦状態にあった。


「あ…、あの…、俺、実は脱毛しちまって、今は熊じゃ無いんだ」


毛深い男を熊と呼び、それが好きな男が集まる。

福地は、それで売っていた。


「いいじゃないか。

若いんだから脱毛くらいするべきだよ。

お前、お金が貯まったら脱毛して仕事を止める、って言ってたもんな」


そこまで白井の記憶には無かったが、元々、布団の中の会話などは、本人もあまり覚えていないだろう。


しらずに白井は、福地の夢を叶えていたことになる。


白井の記憶が、その一言で途絶えた。

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