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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
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47シーツァの花

五反田のワン商店はアジアン雑貨と、奥にはアジア露店風の食事も出来る飲み屋になっており、平日の昼間だったが、結構アルコールを取っている大人も混じっていた。


みな、それなりにアジア通を気取った人々だ。


エスニックの香辛料の香りが、店に充満しており、猫やハマユも、そちらに引き寄せられているようだった。


「おい、俺、あの臭い草は食べられないぞ…」


芋之助は香草が苦手のようだった。


「まーまー、とにかく中に入って調べるのがあたしたちの仕事ですからぁ」


とグイグイ猫は、嫌がる芋之助を引っ張っていく。


強面の芋之助が可愛いアジアンに二の足を踏んでいるのが面白いらしい。


簡単なテーブルと丸椅子が並び、お酒を飲む大人も結構多い屋台村に行くと、焼きそば風のものからカレーらしき物まで、あらゆる料理が客席をくの字に取り囲むように広がっている。


「ほら先輩、テサ アラムですよぅ」


キャッキャと猫が焼き鳥台のようなところに芋之助を引っ張って行く。


「なんだそれは」


芋之助にすれば、まるでRPGの魔法の呪文だ。


「見て分かるでしょう、焼き鳥ですよぅ」


ケタケタと笑う猫。

確かに焼き鳥のようなものを焼いているのだが、匂いが絶対的に違った。


うーむ…、と芋之助は脂汗を滲ませた。


ハマユはソムタムにあれこれトッピングをしていた。


俺たちはワン商店を探りに来たはずなんだが…。


芋之助は思った。


決定的に人選を間違えてないか…?


とりあえず香草が入っていないのを確認し、芋之助はテサ アラムとチキンライスをオーダーした。


猫はデザートばかり5皿も頼み大満足だ。

フォーとソムタムをハマユは注文し、従業員の声が聞こえる席を選んだ。


が、聞こえてくるのはアジアの言葉ばかりで、芋之助には全く判らない。


しばらくはアジア料理の鑑賞会のように、美味しさを語り合うだけの時間が過ぎたが。


急に店の者たちが慌てだした。


「空気が変だな」


芋之助が囁くと、猫が。


「シーツァの花が咲き始めた、と言っています。

予想より数ケ月早いようで、ここも危ない、と話しています」


「なんだ?

危険な花なのか?」


せめて日本名が分からないと芋之助には判断ができない。

有毒の植物というのは色々あるだろうが、花がそれほど毒、というようなものがあっただろうか?


と、賑やかに宴会を開いていた20代か30代ぐらいの集団が、急に叫び始めた。


中央の男の右腕が、みるみる捻じれながら伸びていき、同時に手が、まるで植物のように硬質化していった。


集団は明かに日本人だったが、叫びはだんだん異国の言語に代わってきた。


「あれが、シーツァなのか?」


芋之助は早合点するが、猫が、


「花と言っています。

あれは幹か枝でしょう」


冷静に言った。


外の席の人間も、あるものは叫びながら倒れ、隣の女性は一瞬で全身、茶色い体毛に覆われた見かけない姿の猿に変身した。


「おい、店員たちが消えているぞ!」


「どうやら、この店の食べ物に、何かが仕掛けてあったようですね」


猫は、半分食べたエッグタルトを、席の中央に押しやった。


芋之助もチキンライスを半分ぐらい食べていたが、慌てて中断する。


一方、悲鳴を上げながら店から逃げる人々もいた。


茶色い体毛の猿は、日本猿などより一回りは大きい。

音もなくジャンプし、逃げようとしていた女性の編んだ髪の毛に指を入れた。


グキッ…。


一瞬で、女の細い首は、枯れ枝のように折れた。


人々は、苦しみながら、怪物に変化していく。


髪の毛がヤマアラシのような針になり、二メートルを越える巨大な獣となった男は、隣の、植物化した男性を片手でへし折った。


「あいつら、影繰りって訳じゃ無いよな?」


一般人を傷つけるのは、無論、禁じられている。


ただ影の攻撃と立証はできない場合、法で影繰りは縛られない。


「この場合、襲われている人を守るためなら、許されるはずよ!」


ハマユは教えた。


「なら、やるか!」


と立ち上がった芋之助だが、猫が止める。


「ここは敵の本拠地ですよ。

我々が影を使うのはマズイですよぅ」


「いや、しかし…」


猿は、子供のような体型の男に飛びかかり、喉笛を噛み千切った。


「猫の言う通りです。

シーツァの花が咲いた、と言う情報を聞き出しただけで、充分です。

三人は怪我の無いよう脱出してください」


影能力で三人の会話を聞いていたらしい竜吉がスマホで語った。


むぐっ、と芋之助は奥歯を噛み締めるが、猫とハマユに引かれて、店を出る。


ヤマアラシが襲ってきたが、猫が置いてあった氷水のタンブラーをぶつけると、怯んで逃げた。


「ささ、早く逃げましょう!」


雑居ビルの汚い階段を走り降りるが、猿が叫びながら追ってきた。


「ちっ!」


芋之助は、護身用に屋台村から持ってきた食事用ナイフで猿の右目を貫いた。


猿は、悲鳴を上げながら、階段を落ちていく。


これは、誠たちが小山のような怪物に出くわす日の、午後遅くの話だった。





「シーツァの花が咲いた?」


怪物を目の前にし、誠は首を傾げた。


「ネットには情報はありませんでしたが、民俗学の先生に聞いたところでは桃源郷に生える木のようです。

なんでも、動物や人間も果実のように生るのだそうですよ」


「なんだか桃太郎みたいな話ですね」


誠がいうと。


「あの話自体、元々、中央アジアに源流を持つ話らしいですね。

原典では桃太郎だけでなく、猿、雉、犬もシーツァから生まれた超人のようなものだったらしいです。

キビだんごも元々はポレホレの実、という超人的な力を授ける薬だったようなんです」


「あー、確かに、なんでキビで作っただんごが、そんなに重要そうに語られているのか、子供の頃から疑問だったんですよ」


誠の微かな疑問が解消されたところで…。


「水を差すようで悪いけど、あの怪物、どうすんのよ」


美鳥が怒ったように突っ込んだ。

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