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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
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人魚

とはいえ、いきなり攻撃というのも…?


相手は泳いでいるだけなのだ。

何かするつもりなのは確かだろうが、してもいない罪で責めるというのも違うように、福は感じた。


とはいえ、見過ごしにも出来ないよなぁ…。


仮にも、今、福は内調に所属しているのだ。

治安維持も、仕事の一つと言っていいだろう。


隅田川は、夜でも船舶の往来が絶えない。

行楽の屋形船や水上バス、釣り船や、たまには水上バイクやカヌーなども通っている。


個人所有の小型ヨットなどというものもあり、賑やかにパーティーをするセレブな人間も中にはいるのだ。


この影繰りが、もし人を襲うつもりなら、対象はいくらでも向こうからやってくる、という訳だ。


こうして水の中から見ていても、大小の船底がのんびりと動いているのが判る。


人魚は、その船底の一つ、手こぎボートらしきものに向かって進んでいた。


ビニールタイプのもので、乗れば二、三人は並んで乗れるのだろうが、釣りを楽しむためか、一人で乗っているのがビニールのへこみから見てとれる。


人魚が容易に転覆させられる規模の船だし、水に入れてしまえば、ライフジャケットを着ていようがいまいが、人魚には敵わないだろう。


だが…。


何故、ただの釣り人を影繰りが襲うんだ?


福は中学だったため、誠たちが顔泥棒を追っていることも、中居たちが透過窃盗犯を捜査していることも知らなかった。


内調で戦い方を習って、帰宅してアジを釣る。


そんな毎日が続いていた。


福や大が水中行動のエキスパートなのは判明しているので、いずれ何かの仕事はするのだろうが、さすがに千葉の漁師をいきなり影繰り事件には当てられない。


水の中だけ、というような仕事は、なかなか無いからだ。


福も大も、格闘が弱いわけではないが、影繰りとの戦いとなると、基本だけでもいくつもの学ぶべき技術があるし、法律など座学も必要だった。


誠は簡単にクリアした部分だが、福や大はてこずっていた。


とはいえ、水の中なら俺だべ。


と、福は戦闘には迷いは無いのだが…。


あの安そうなゴムボートの持ち主が暗殺対象とは思えないし、何故人魚の標的なのか、いまいち福には理解できない。


ただし、水に落とされた人間を庇いながら、影繰りと戦うのが、いかに厄介なのは、福にも判った。


人魚が、容易に潰れるゴムボートに接近する以上、何かが起こる前に阻止するのが福にとっても一番戦いやすいのだが…。


それが狂暴そうなサメだとか、明らかな化け物だったら、ここまで福も悩まないのだが、それは長い黒髪を水に揺らめかせた、優美な人魚なのだ。


上半身は白いドレスのようなものを着ていて、女性の柔らかい曲線が、あからさまには見えなかったが、それは映画で見るような美女の人魚だった。


無論、影繰りに決まっているし、影繰りが何かを意図するとしたら、慈善事業のはずは無いのだが…。


と、しても意味が判らない。


一見、ろくな船も持てなさそうな釣り好きを、何かの理由で暗殺するのだろうか?


だが、みすみす目の前で人を襲わせる訳にはいかなかった。


福は、加速して、ボートと人魚の間に入り込んだ。


うわっ!


後ろから見ると、綺麗な女性のようだったが、前に回ると、長い黒髪に縁取られた顔面は、まるで鱗の無い魚のようだった。


耳元まで避けた口が、カマスのように長く延び、目は顔の左右に飛び出している。


これ、影繰りなのか?


逆に、福は思った。


何か、影繰りが変身したにしては、異様にリアルな怪物なのだ。


人魚は、不意に進路を遮った福に激高したのか、巨大な口を開けて、襲ってきた。


直線的な攻撃だ…。


福も、戦闘訓練でよく言われるので、そう思った。


フェイントも、何もない。

ただ鋭い歯の並んだ口で、福に噛みついて来る。


こういう敵には、福には必殺の毒があった。


水中に毒の幕を張る。


カマス顔の人魚は、大口を開けて毒に突っ込んだ。


ガボゥ!


魚は、口から水を入れて、エラから出す。


そのエラに、酸素を捉える器官を持っているのだ。

だが、酸素の代わりに、人魚は福の毒を吸収してしまった。


目が白目を向き、人魚は血を吐いて、身をよじり、事切れた。


そのまま、人魚は死んだ魚のように浮いていく。


あれ?


影繰りなら、死んだら人間に戻るはずなんだけど…。


人魚は、そのままプカリと隅田川に浮かび、ゴムボートの若い男は、不意に浮いてきた巨大魚に驚いて、あっさりボートを転覆させた。


何しろ二メートル近い大物であり…。


よく見れば、長い黒髪を水にひらめかせ、白いドレスを着こんだ、巨大魚なのだ。


顔はカマスに似ていたが、鱗は無く、むしろ人の肌に、近い質感の皮膚を持っていた。


「福君?」


初音さんが、福を心配して追って来てくれていた。


これはまずいな…。


福は、防水のスマホで、内調に通報した。

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