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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
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錦糸町、光が丘

良治たちとユリがおやっさんと共に住む東大島でも、緊急通報が内調から電話された。

東京各所で異常が起こっていたが、近所の錦糸町でも騒ぎが起こっているらしい。


早速駆けつけてみると、錦糸町の街は逃げ惑う人々で大混乱だった。


「怪物が出た!」


と言った類の事を、みな、口々に叫んでいる。


限定解除の大型バイク二台が轟音を上げて進んでいくと…。


ぎゃあぁぁ!


ロングヘアのOLが、片腕を根本から千切られて、道路に転がった。


「カッパがぁ!」


血を吹き出しながら、OLは叫んだ。

確かに、緑色のマッチョな怪物が、巨大な嘴で女性のもげた細腕を咥えて、血に染まりながら奇怪な叫びを上げていた。


「おいおい…」


バイクを止めたバタフライが驚いた。


「兄貴、あの女も、見えてやがるぜ!」


良治も言う。


二人が驚いたのは、怪物に対してではない。

普通、影繰りは一般人には見えないのだ。

影が、文字通りの暗闇となり、一般人の網膜には映らない。

だが、OLははっきりと、カッパ、と明言した。

つまり、あの化け物は影繰りではない、ということになる。


ユリは良治のスクーターの後ろに乗り、手から羽虫を飛ばした。


ユリの羽虫は数匹付けば心臓を止めるほどの破壊力のある影だが、手加減すれば、麻酔に近い作用もする。

また、同時にOLの手から噴き出していた動脈血も、勢いが衰える。


誠に影響を受けたユリは、自身でも治療ができないか、現在研究中だった。


とはいえ、腕を引き千切った化け物の前で麻酔は、あまりに無防備だ。


が。


良治がナイフを投げると、カッパの首は吹き飛んだ。


「死んでも人間に戻らねーのか。

こりゃ、新種の動物かなんかなのか?」


バタフライも首を傾げるが。


「おそらく学生連合の影の薬で、体のDNAから改造されてしまった元学生です。

しかし、人を襲う以上、狩らねばなりません」


竜吉が私服で基地に到着し、指示を出し始めた。

おそらく彼女のピッピが運んだのだろう。

まだ高一の上、誠並みに小柄で幼顔の竜吉だが、首筋にキスマークが生々しかった。


正直、良治は羨ましすぎたが…。


「竜吉君、この人は?」


ユリは、おそらくキスマークの意味も知らない。


「すぐに救急に通報します。

皆さんは怪物を狩ってください。

まだ、二十近く、周辺で暴れています」


「こんなのが二十かよ!」


駅はまだ先だが、きっと酷いことになっているだろう。





光が丘は、その昔は公団が作った団地を中心とする都市だったが、今は大量の人口を抱える都内のベットタウンという様相だった。


八方にバス路線が伸びているから不便はないが、電車は大江戸線が練馬に向かって伸びているだけで、大江戸線は環状線という構想だからか、その先はない。


成増なり、高島平なりに延びれば、この周辺の地図は、まだ大きく変わる余地を残していた。

人口は12000。

都内としても、町の規模はかなり大きな部類だ。


当然、学生連合アプリもそれなりに広まっており、今、電話が5件の家庭に鳴り響いていた。


が…。


勇気はトイレに籠っていた。

もし、みんなにお漏らしがばれたら、と思うと震えるほど怖い。

自分は、戦隊の赤であり、リーダーだと思っていた。


だが…。


川でズボンを濡らしてしまったときには、絶望感とともに大きな喪失感に勇気は襲われたのだ。


俺、もしかしたらヒーローじゃないんじゃないか…?


心の隙間に、そんな声が響いていた。


今まで、何でも一番になってきた。

学校の勉強と図画工作は苦手だったが、それはヒーローにはままありがちな弱点だったから、いいのだ。

重要なのは、かけっこと体育、喧嘩。


ここで他人に劣ったことはない。


だが…。


もしかしたら義郎は、本気でやれば俺より強いんじゃないか、とか、弱気になると勇気はいろいろ不安が湧いてきた。

誠さんなら笑って治してくれるかと思ったが、不安は消えない。


俺、ヒーローから脱落しようとしているのか…、そう思うと夜もなかなか眠れない…。


いろいろ考え、たどり着いた答えは、トイレだった。


誠さんも、立ちションしないといけない、って言ってた。


確かにこれからも、貯めたまま戦うのは限界であり、いつかみんなに惨めな姿を見られ、リーダー脱落になるのは必至だった。


だから。


立ってやろうと思うのだが、やってみると、なんかいつものようには出ない。

それで、トイレに籠っているのだ。

十分近くたっており、楕円形の便器を見つめているのだが、勇気のそれからは兆しすらみえない。


俺は駄目なのか…。


絶望するほどの事ではないのだが、心が重くなり、勇気は項垂れていく。


「勇気、電話よ」


お母さんが言っていたが、それどころではなかった。


電話がなにかを話し、


「見ないから、電話を中に入れるわよ」


渋々、勇気はズボンを引き上げ、トイレを開けた。

電話の子機が差し込まれる。


「あ、勇気君ですね、竜吉です。

今、光が丘に妖怪が出て、人を襲っているのです。

緊急出動してください」


妖怪!


ズボンを履いたのに、なんだか出そうになってきた。


「あ、誠さんから伝言です。

自分で仲間のみんなに、座ってオシッコをする、と話した方がいい、と言っていました。

もし、30分以内に戦わないなら、誠さんから仲間に話す、とのことです」


「ダメ!

ダメ!

俺が話すから!

言わないで、って誠さんに伝えて!」


電話も切らずに、勇気は座って、やってみた。

気持ちよく、水流が飛び出した。


俺、みんなに言わないと!


だがそれよりも先に…!


勇気の目に、好戦的な光が宿った。


妖怪なんて、みんな俺が倒してやる!

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