表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
40/153

40粘菌

高田類は即死だった。


永井は警察に、狙撃された、と必死に語ったが、しかし監察医の検視では銃器の傷ではないという。


「なにかの獣に嚙み切られていますね、首の動脈を。

ほぼ即死と思われます」


「動物って、熊とか野犬の類ですか?」


警官は訊ねた。

都心の真ん中で熊というのも信じがたいが、一瞬で人を殺す獣となると種類は限られる。


「さあ…、私は獣医じゃないので、歯型を専門家に問い合わせているところです」


しかし、いずれにせよ人を殺す獣が出たのなら、すぐに周知しないと都心の真ん中ではどれほどの被害が出るかわからない。

杉並警察が唸っている頃、吉祥寺では井の頭公園でザリガニや鯉が人を襲った、というあり得ない事態で暴動に近い騒ぎが起こっていた。


「池から急に、殺人ガエルが上がってきたんだ!」


「サリガニが、弾丸みたいに飛んできて、人の脳みそを食らうのよ!」


口々に皆、井の頭池から化け物が出現した、と述べた。


吉祥寺駅に人々は殺到したが、ホームに入れる数は限られる。

と、言って悠長にバスなど待ってはいられなかった。


歩けば、三鷹も西荻窪も、そう遠いわけではない。

無論、井の頭公園駅のある京王線は問題外だ。

が、三鷹へ行っても都心に帰るのならば、西荻に人々が向かうのは当たり前だった。



その吉祥寺と西荻窪の間にあるのが善福寺池だ。

井草八幡にほど近く、児童公園なども併設された善福寺池は、一帯を一つの森林地帯と捉えるのなら、夜は全く静かな場所だったが…。


その池のほとりで、水の中から、ジリ…、ジリ…、と生物が陸に進み上がっていた。


ウシガエル、イボガエル、ザリガニ、静かだった池が波打ち、これら生物たちの行進を静かに見送っていた。




「え、殺人動物?

ザリガニが空を飛んで人に突き刺さる??」


入浴中に電話で呼び出された誠は、家族の前でタオル一枚で電話に出た。


永田やアクトレスなら、誠のデバイスに電話をくれるのだが、彼らも常に本部にいるわけでもない。

今は、オペレーターが、古い情報で誠を呼び出したらしかった。


むろん、影の手を伸ばせば事足りるのだが、家族には見えないので困った事になる。


警察は事件を捜査していたが、その過程で内調にも連絡は入る。


「影としか考えられない事件だ。

少し探ってくれ」


風呂から出たところだぞ、とも言えない。


判りました、と述べて衣服をつけたが、探るといわれても、高円寺の獣だけでも、誠には探す力はない。

虫も嫌いだが、子供を含めた小動物全てが、誠の嫌悪するものなのだ。


まあ、使える影繰りなので勇気たちはいいとして、殺人動物など近寄りたくもない。


「まー坊やは空で安全にしてりゃいいよ」


と裕次。

彼は白井が帰りに殺した二人の高校生、早川と早田、ならびに白井の姿を取り戻すため殺した五人の十代の若者のうち、男子の田中と国河を颯太と共にまとめ上げていた。


中学生カップルの幸也とミホは、お姉さんの中村が、ギャバ嬢アサミ、真面目な横山、大友、マリエと共にまとめており、微かな影能力を持つ職人大家や、ギャル男の中学生ハルは、美容師の高橋とまとまった。


ど変態の偽警官は、何故か誠と話が合う。


「あーゆー奴は、狙った相手と話を合わせるもんなんだよ」


と田辺が注意するが、まあ霊なので、覗かれようが触られようが、誠には毛ほども感覚もない。

正直に言えば真子がたまになにも言わずに観察している、とかよりは、気分的にはましだった。


それら幽霊たちが、影の体を使って、高円寺を探す。

が、大型の獣など、野犬さえいないようだった。


「誠、そっちは保健所が罠を仕掛けるから、吉祥寺に向かって!」


誠は、美鳥を影の手に持って、青梅街道を西に向かう。


美鳥は、青梅街道をバイクで走ってきたのだが、路肩に愛車を止め、上空に舞い上がった彼女は異様な物を見る。


北から、まるで巨大な亀のようなものが、道を前進して来るのだ。


こんもりと盛り上がった半円型の巨大物体は、上下三車線の道路一杯に広がり、高さは信号機をはるかに越えている。


だが、これが亀ではない、いや、それどころか、物体かどうかも怪しいのは、全てのもの、車も信号機も歩道橋も、飲み込んでは、背後に吐き出すように、まるで巨大な粘菌かなにかのように全てをすり抜けて前進している様から気がついた。


「なによ、あれは!」


得体が知れない。


特撮映画の怪物のように、それはゆっくりと進んでいた。


「ともかく、西荻窪へ向かう行列にぶつかってしまいますね」


人々は高架線をたどって、西荻窪へ長い行列を作っていた。


その横腹に、怪物はぶつかる。


「ちょっと待って!

あいつ、ヤバいわよ!

車が、みな、止まってるわ!」


小山のような怪物に飲み込まれた車は、その後、怪物の通過と共に吐き出されてはいる。

だが、よく見ればフロントガラスは粉々に割られ、車は動きを止めていた。


逃げられる車は、みな逃げようとはしていたが、渋滞がおき、脇道に逃れようとしたトラックは道幅が狭すぎたのか、道に刺さって動けなくなった。


運転手は車を乗り捨てて、走って逃げようとしていたが、突然倒れた。


それきり、運転手は動かない…。


「なにかを放っているのでしょうか?」


誠の目は、透視はできるのだが、望遠鏡にはならない。


一定距離の先は、普通の視力になる。


(見てきてやるよ)


颯太は気軽に接近したが、


(やベーぞ誠!

背中にウジャウジャザリガニが刺さって、背骨が見えてる…)


聞いただけで酸鼻を極めた光景なのが判る。


おそらく、止まった車の中でも、同じような惨劇が起こっているのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ