最初…。
うまく行けば、短期集中連載、みたいにしたいです。
永井知哉は上機嫌だった。
テストの成績はトップに近い。
親には、最新のデスクトップパソコンを買ってもらうことにした。
やはり、これからはプログラミングに詳しくないと、仕事にあぶれることになる。
家に向かった永井だが、途中のコンビニに不快な奴がいた。
高田類。
中学の同級生だが、頭は悪いくせに、世界は自分を中心に回っている、と思い込んでいる馬鹿だ。
スポーツはそこそこ出来るが、かといってそれで進学できるほどではない。
と、言うよりは、真面目に部活などやりたくても出来ない、ただ腕力だけに秀でた原始人だ。
遠目に見ても、クロマニオンか北京原人か、というようななりなのだが、女にはモテる。
無論、まともな女子は近寄りもしないのだが、喧嘩が強ければ惚れてしまうような類いの女が、寄ってくる。
やがて馬鹿を見るのだろうが、世の事が判らないのだからしょうもない子供だ。
避けて横道に行こうと思ったのだが、高田は、目ざとく永井を見つけた。
「よー、秀才君じゃねーか?
ちょっと金を貸せよ」
同じ不良でも、もう少し頭のいい奴は、金の部分は他人に聞こえないように言う。
だが高田は馬鹿で、世界の中心は自分だと思っているから、警察に捕まる、など考えたこともないのだ。
口も聞きたくなかったが、無視などすると、それだけで襲ってくるので、
「やあ高田君。
残念ながらお金は無いんだ」
ポケットを叩く。
判りやすくした方がいいだろう、という配慮だった。
「ん、じゃあ、そこのコンビニ襲って、二、三万、貸してくれよ」
こいつはドラッグでもやっているのだろうか?
あまりアホ過ぎて、目を見ても、正気かラリっているのか判断がつかない。
「悪いな。
僕は喧嘩も弱いから、そんな乱暴なことは出来ないんだ。
君がやってくれよ」
可能な限り友好的に語ったのだが、高田は、目に異様な光を宿した。
「テメェ、なんで俺がコンビニを襲ったって知ってる!」
マジかよ!
昨日、北通りのコンビニが強盗にあったとか聞いたが、こいつがその犯人か?
に、しても、秒でゲロってどうする、と思うが、それが原始人高田類なので、仕方ない。
「し、知らないよ!
僕は断っただけだよ!」
この、目に光を宿したときの高田はヤバい。
学校で上級生三人を病院送りにしたのも、こーゆうときだ。
「ふざけるな!」
もはや、理屈も何も通らない。
ひぃ、と永井は身をすくめるが…。
その瞬間、永井の耳から獣の口が飛び出てきて、高田の喉笛を噛み切った。
あの、獰猛な高田が、きゃ、と少女のように叫んで、血を吹きながら、背後に倒れた。
身をすくめ、目も閉じていた永井は、何が起こったのか判らない。
銃か?
不意に思った。
回りに、永井と高田しかいなかったのは確かだから、たぶん離れた影から、高田を狙ったのだろう!
僕は、体を小さくしていたので、助かったのだ。
だが…!
「警察、救急車!」
永井は叫んで、コンビニに飛び込み、高田が銃撃された、と教えた。
滝田と大川は陸上部の代表に選ばれた。
区の大会を勝ち抜ければ、都の大会。
その後は国体である。
ハッキリ言って三年など、体がでかいだけで、動きの鈍いことは笑ってしまうほどだ。
二人は薬を飲む度、タイムを上げており、高校記録に迫ろうとしている。
上機嫌で吉祥寺で遊び、モデルのように美人の女の子と知り合った。
彼女は、友達二人と服を買いに来たのだが、すぐに五人は仲良くなり、ランチを食べてカラオケに行った。
美人の七瀬ちゃんに、お嬢さん風のヤスカちゃん。
背の小さい、おしゃべりな楓子ちゃんも、なかなか可愛いかった。
「区大会は見に来てくれよな。
きっと優勝するぜ!」
滝田が言えば、大川は、
「俺は四百だからな。
河原高校の山口は強いが、タイムは俺の方が上だ」
カラオケの時間は終わりそうなのだが、離れがたい。
とはいえ、一介の高校生であり、部活に打ち込んでいるので、バイトもしていない。
お金に余裕はない。
「ねぇ、井の頭公園に行ってみない」
楓子ちゃんの提案に、五人は一も二もなく頷いた。
通りは、カップルや若者で一杯だ。
小さな、お洒落な店も多い。
そんな店を眺めながら、賑やかに五人は井の頭公園に入った。
森と池のある落ち着いた場所だが、若者で一杯だった。
ピエロの格好をした大道芸人が、お手玉をしていた。
派手なボールを空中で踊らせる間にも、面白いことを色々言って、回りを笑わせる。
「ほーら、今度は五つ同時に回すからね。
成功したら、盛大な拍手を!」
言って、大道芸人はボールを投げたが、頭でヘディングしてしまう。
お約束の落ちなのだが、面白くて、大川は吹き出した。
と…。
ピエロの顔面に、血が吹き上がった。
そういう演出なのか、と集まった客も唖然とするが、なんと大道芸人の左目には、生きたザリガニが突き刺さっていた。
「ザリガニだぞ!」
滝田が叫ぶが、その口から真っ黒い鯉が飛び出し、七瀬ちゃんのこめかみを砕いた。
悲鳴が上がり、人々が逃げ惑うなか、大川はポンポンとザリガニを撃ち込み、人々に襲いかからせた。
滝田の腕は、いつの間にか、巨大なカエルの顔になり、近くの人間を頭から齧り、砕いた。
「あー、薬だね、待ったかい?
ゴメンゴメン」
白井は笑って、スケボーを抱えた三人の少年に近づく。
スケボー専用に作られた公園だ。
まだ、都内でも多くはないから、多くのフリークが集まる。
別に大会ではないのだが、ここで派手な演技を決めないと、チームに入れないのだ。
ワールドカップに出るような選手は、皆、強いチームのメンバーだった。
少年たちは、白井の渡した錠剤を、素早く口に運ぶと、いきなり派手にパフォーマンスを始めた。
大きくジャンプしたり、回転したり。
おお、と注目が三人に集まった。
白井は、会場から去りながら、
「へー、思ったより薬が回るのが早かったね」
彼の肩には、小さな雀が乗っていた。
「これから、次々に連鎖が始まる。
和也も、動き出すぞ」
「へー、あの、暴力馬鹿が暴れだしたら、楽しいパーティーになるね」
白井は、無邪気そうに笑った。