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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
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シド

白井は、テレポートは諦め、バスで新宿に向かいながら、帰宅途中の男子学生の後ろの席に座った。


少年は、白井の存在なと気づかずにスマホを見ていた。


背後から手を伸ばし、首筋に触れる。


少年は、瞬間、驚くが、すぐに顔が萎れ、穴になった。


死体を隠す体力はない、と自信を失った白井は思い、次の停車場で降りると、地下鉄に乗り、同じように音楽をイヤホンで楽しんでいた少年の顔を盗んだ。


駅で降り、薄暗い階段を登っていると、階段の中央にカラスがいた。


「ケケケ、死にかけたみたいじゃねーか」


鳥を使う影繰り、タイランだった。


「なあ、整形に幾らかかる?」


タイランは、ツカサの上司なのだ。


「バーカ、これからって時に、お前を病院に入れられる訳無いだろ」


「いや、でも俺…、このままじゃ仕事なんて出来ないよ…」


白井は涙声で哀願した。


「やれやれ…」


カラスは羽根の手入れをして、


「お前に、ポレホレの種を入れてやる。

そうすれば、その顔と体が、お前の本当の体になる。

お前は、これから自分の顔と体を選び、これだ、と思った奴を殺し、種を作れ。

その種を、俺がお前に植える。

それで万事解決だ、そうだろ?」


白井は、狂喜した。






もう、化け物の顔も、老人の体もお別れだ!


街を歩き、ルックスのいい元気そうな少年を見つけた。


女、の体も考えたが、使い慣れている分、やはり少年の方が暮らしやすい。


スカジャンを着た、小柄だが、なかなか運動性も高そうな少年だった。


「なんだ、お前…」


路地で不意に出てきた白井に、スカジャン少年は、不良らしく威嚇の声を上げた。


白井は、声も気に入りながら。


不意に、殴りかかった。


少年は、プロである白井のパンチを右手で避け、アッパーを狙ってくる。


なかなかのもんだ。


白井の片手は、小型ナイフを少年の心臓に突き立てていた。


ドサリ、と少年は即死して、路面に倒れた。


すぐに白井は、少年の顔をポレホレの種に変えた。


バサリ、とカラスが路地に降りてきて種を受けとると、


「正体を出せ」


嫌だったが、タイランには逆らえない。


白井は素っ裸になり、色を失うように老人となって醜い体を路地に横たえた。


カラスは老人のヘソに、無造作に種をこじ入れた。


老人は、ブルッと、震え、そのまま息絶えた。


と、隣のスカジャン少年が立ち上がり、蔑むように醜い老人を見て。


「こりゃ酷ぇや!」


と甲高い声で言うと、カラスが。


「血だらけの服は、元の体に着せるんだ。

お前は、脱いだ服を着て、早く変身しろ」


体に、力が漲っていた。


どっちみち、あの老人の本体では、壊れた充電池のように、いくら殺してエネルギーを貯めても、すぐに力は逃げてしまっただろう。


白井に戻った顔泥棒は、新しい体を見て、


「タイラン。

まずエステに行かないと、ツカサになれないよ…」


と、意外に毛深かった体を批判した。





つぶれた下北沢のカラオケ店では、警察が科学捜査を入念に行っていた。


毛髪、歯、精液、尿まで採取された。


「これだけあれば、ある程度の犯人像が絞れますな」


警察は自信を深めるが、それが四谷の路地で死んでいる老人のものだ、とは思っていない。


その頃、白井は新しい姿で、系列の病院で医療脱毛と美肌エステを受けていた。


その夜のツカサの生放送は、大成功だった。





十人以上の人を殺し、しかも遺体を隠しもしなかった顔泥棒は、結局のところ、どこへともなく姿を消した。


まさか…、という驚きと共に誠は、再び魂を集めなければならなかった。


(颯太、悪いけど、今度お払いに行ってくるよ…)


オカマの少年やら、老人やら、美人だがキャバクラのお姉さんなどが大量に集まってしまったのだ。

カップルのまま悲嘆にくれる同級の中学生もいた。


まさに満員御礼状態だ。


顔泥棒のおぞましい姿は、キャバクラのお姉さんが克明に見ていた。


少年の平凡な変身が解けると、化け物のような老人の姿が現れた、という。


とにかく似顔絵を作ったのだが、なんと、その老人は、何故かスカジャンを着て、四谷の路地で死んでいた。


外傷はないが、即死だったらしい。


ただ、この老人の服は、第一にキャバクラのお姉さんの言う服装と全く違い、第二に、下着は、新宿二丁目の男娼しか使わない類いのものだった、という。


誠は、一旦仕事は忘れて、どこで魂を祓ってもらえるのかスマホで調べることにした。


「馬鹿だな。

それはお前の影能力だ。

お払いなんて出来ないぜ」


夜の高円寺の公園で、不意に誠は、声をかけられた。


「え、君、もしかしてヤギョウの?」


今は、ごく普通のポロシャツを着た少年は、しかし確かに、あの蜘蛛の足を背中から生やした学生服の少年だった。


「その名前は言うな。

命に関わるかもしれないぞ。

俺の名は隼人だ」


「隼人くんって言うんだ…」


むしろ、普通の名があり、普通の服を着ているのが異様な気がする。

少年は、ハーパンにサンダル履きだった。


化けたキツネを見るように、誠は隼人を見た。


「お前は、ちょっと変わった影を身につけた。

それをAは神の力、と呼んだが、俺たちはシドと呼ぶ」


「あ、あの人形使いもシドと言ってた!」


「冥土の冥に人と書いてシドと呼ぶ。

影繰りよりは、俺たちに近い力だ」


「そういえば、君、僕が幽霊と話しているのを聞いてたみたいだったよね?」


「幽霊ではない。

お前は、死者の魂に、影の体を与える力を身に付けている。

それはお前の、黒い翼や影の手を、より正確に、より強くする。

だが、それと共に、その魂の性格も引き受けなければならないのだ」


えー、と誠は露骨に嫌がった。


元々、一人が好きなのだ。

一人旅がしたい、と思っているのに…。


「なに、やがてシドは、お前が空で出会ったシドと交流させてくれる。

ま、そうなったら、お前も俺の弟分だがな」


「え、今の仲間は?」


「ヤギョウは、全ての国家、組織を超越している。

だから、別に、今の仲良しとは、そのまま仲良しでいたらいい」


そうなのか…。


なかなかメンドクサイ立場に誠は立ってしまったようだ。


「つまり、やがて僕が、君の仲間になるから、それを教えてくれるのかい?」


「まあな。

と、同時に、お前が今、戦っている相手は、俺たちの外部組織のようなもので、まあ、今までの影繰りと思っていると大変なことになる。

あれらは、妖怪なんだ」


またしても、誠の苦手なワードが現れた。

影繰りなら殺せるが、妖怪は死なないのではないか?


そう考えれば、顔泥棒も、たぶん古い肉体を捨て、新しい姿で、たぶん今も生きているのだろう…。


「死なないことはない。

現に顔泥棒は力を使い過ぎて、死にかけ、新しい肉体をなんとか手にしただけだ。

今ごろは、新しい肉体に困惑していることだろう」


くくく、と隼人は笑った。






確かに白井は、新たな悩みに頭を抱えていた。

彼は二丁目の男娼の体を乗っ取ってしまったのだが、肉体を入れ換えるのは、顔を盗むのとは訳が違った。


確かに白井の体は、男にしか興味がないのだ。


そして、乗っ取った白井よりも、本体の性の思いは、強力だった。


ツカサの時にも、美男アイドルに目を奪われ、逃げるように白井になっても、気がつくと男子を見ている。


しかも、この肉体は、この白井には新しい、男同士の世界をよく知っており、合図を送る男は、すぐに気がついた。


問題は、この繊細な世界では、白井が気づいたことは、相手も察してしまう、ということだ。


しかも男の体は、口で否定しても、明確に反応する肉体ですぐに嘘がバレる。


まだツカサに戻って、豪華マンションに籠れればいいのだが、白井は、学校で薬を売るために、むしろ校内を忙しく歩き回らなければならなかった。


煙になれれば、それもだいぶ楽にはなるはずだが、一度、エネルギー切れの恐怖を味わった白井は、あまり煙は使いたくなかった。


また、あれになったら、今度出てくるのは男娼なのだ…。




メールが入る。


白井は、なるべく男を見ないように場所を移動し、煙にならないために、用意した服に着替えてマッチョになった。


「よう、待たせたな」


永井時哉は、急に公園に呼び出されたので、


「どうしたんですか?」


と、当たり前な質問をした。


マッチョは、


「まあ、今までの仕事は俺が大変な思いをしていた。

わかるだろ?」


ごく普通、というよりは永井は、不細工の部類に入る。

だが、新しい体は、このぶよぶよの受験生が、何故か気に入ってしまったらしい。


と、言って白井のそれは、相手を死ぬまで痛めつける、アブノーマルなものだ。

体を喜ばすことは出来ない。


まして、永井は、すでにポレホレに体を蝕まれた、カモだった。


公園に呼び出したのも、永井の私室では、永井は下手をすると下着で勉強したりしていたからなのだが、公園に呼び出して、ピンクのTシャツにハーパンの永井を見ても、体は反応してしまう。


白井は文字通り、体に鞭打って、仕事を切り上げた。





「あー、みんな聞いただろ。

一人に一つずつ、影の体がある。

だからみんな、自由に使ってくれ。

僕は宿題があるんだ!」


誠は、一ダースの魂たちに言った。


だが、エヘヘ、と颯太が笑って誠に言った。


(残念だな、誠。

確かに俺たちは体もあるが、しかし)


颯太は、生きていた頃はただの馬鹿だったが、今は結構、知恵が働く。

誠の脳細胞の幾ばくかを使用しているのかもしれなかった。


(アレが出来るのはお前だけなんだ)


誠は、深いため息をついた。


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