37変貌
やっぱりグロくなってしまいました…。
飛ばし読みにしてください。
ただ、今後の展開があるので、グロくても書くだけは書かないと…。
ごめんなさい…。
白井が、ユズの待つ自称カフェに戻ったのは、十数分後だった。
ある程度、彼女を痛めつけたら、不意に白井は絶頂を迎えてしまった。
用心深く、衣服は脱いでいた。
が、だからこそ、彼女には失笑された。
まるっきり、体をピカピカに光らせた真性包茎の中学生にしか見えないのだから、年相応ぐらいに思われたのかも知れなかったが。
白井は、変態ではあるが、同時にコンプレックスも重篤に抱えていたので、女の失笑に逆上し、白のスニーカーで激しく、女を蹴った。
女は悲鳴を上げた。
すると白井は、奇跡的に、二度目の絶頂を向かえた。
それ自体は、幸運であるはずだったが、白井のエネルギーは、性の放出と共に、本人も驚く程、失われていった。
あっ、と思ったのは、足から一瞬で艶が失われた時だ。
まるでファンデーションが溶けたように、白井の足は色を失った。
肌の張りが衰えると、医療脱毛した毛穴も見えてくる。
醜い、毛穴だらけの己の足を見て、白井は短く叫んだ。
それも、かなりのピンチだったが、全く艶が無くなると、肌も灰緑色になり、ぼこぼこと毛穴が浮かぶ老人の体に、白井の全身は一瞬で変貌した。
ぎゃあ、と白井は、まだいきり立ったままで、悲鳴を上げた。
その衝撃が、再度の精液の放出に繋がってしまった。
突然、白井は、白井芳一であることも維持できなくなった。
医療整形を受けていない白井の本当の顔は、二目と見られない怪物的なものだ。
数十年前の爆風で鼻はもげ、口の皮膚もただれて裂けている。
悲しいことに、頭髪も、加齢で半分以下になっており、しかも灰色に変色している。
女の悲鳴が聞きたかったので、口は塞いでいなかったが、本当の顔を見られての女の悲鳴は、白井をことのほか傷つけた。
こんな無様は、初めてだった。
だが、白井はサディストであるのと同時に、重度のマゾヒストでもあったので、ここで四度目の絶頂が、老人の真性包茎から吹き上がった。
もはや、それはある種の拷問だった。
頭の禿げ上がった、少年体型の、鼻のもげた怪物が、野太い男の悲鳴を上げながら、股間を押さえた。
が、まだいきり立ったままの棒のような包茎から、再び白い液体が吹き出た。
ボロボロと歯が抜けた。
灰色の髪も、猫の毛が散るように抜け落ちていく。
再度の白井の悲鳴は、悲劇的に、ツカサによく似た裏声になっていた。
まさか、ここまでエネルギーを失うとは、白井も思っていなかった。
こんなに何度も何度も放てるとも、思っていなかったのだ。
関節が軋む。
体には、医療脱毛の穴が無数に浮かび上がっている。
股間など、無惨なほど穴だらけだった。
顔にも、医療脱毛の髭穴が浮かぶ。
焼けただれた皮膚に、無数の髭穴が浮かんだ姿は、より怪物的に、白井を見せた。
死ぬかもしれない…。
白井は不意に思った。
ツカサを失ったら、ポレホレの計画自体が崩壊する。
そして、それ以上に、白井は、己が考えていた以上に、自身の死を恐れた。
白井は、恐怖のあまり失禁しながら、生き長らえる道を、咄嗟に選んだ。
女の顔を盗んだのだ。
エネルギーは、回復したが、白井に変身できるほどではない。
とてつもなく苦い味が口の中に広がった…。
(誠、人が死んだ!)
これも一種の影なのではないか、と誠が疑う正確さで田辺が教えた。
すぐに美鳥に連絡し、誠も向かう。
焼けただれた顔の老人が、よろよろと若いカラフルな下着を着て、中学生の衣服を身につけ、防空頭巾をかぶり、老人なりの必死の速度で、つぶれたカラオケ店の階段をすがるように下りた。
早く、顔を盗まなければ、ツカサが死ぬ。
何年もかけて育てた人格の死は、老人には恐怖だった。
と、廃墟の扉が開き、少年が飛び込んできた。
凡庸な顔の少年だが、若さに輝いて、老人には見えた。
飛びかかるように少年の顔を盗んだ。
手に、若さが戻ってくる。
が、艶はない。
エネルギーは、本当に底まで使い果たしてしまったのだ。
少し、確かになった体の動きで、少年の開けた出口に向かうと、仲間なのか彼女なのか、平凡な容姿の少女が立っていた。
少女は、老人の怪物的な顔に凍りつき、悲鳴も上げられなかった。
老人は、即座に顔を盗む。
手に、艶が戻った。
白井に、変身してみた。
手鏡には、なんとか少年には戻った顔が映った。
果たして、それが白井なのか、白井にも判らなかった。
薄く、医療脱毛した髭跡が浮かんだ、しかし艶やかな不自然な子供の顔だ。
白井芳一が童顔なだけ、髭穴が異様で、醜い。
早く三人目を盗まなくてはならない!
白井は、扉を蹴るように外に出た。
「なんなんだ、これは…」
中学生ぐらいの男の子と女の子が、顔を盗まれていた。
が、衣服は着たまま、ただ顔が、大きな穴になっていた。
上階に飛ぶと、全裸で、結束バンドで拘束された成人女性が、やはり顔を盗まれていたが、衣服や持ち物は周囲に散らばっていた。
それだけでなく、女性は、あちこち傷つけられていた。
(誠君、この臭い…)
中村が言う。
何か生臭くにおうのは判ったが、誠には、何の臭いか、まではわからない。
(精液の臭いよ)
こんなに臭いのかな?
何しろ男性陣は誠の快感が己の快感なため、度々そそのかすのだが、自分では臭いは判らない。
(いえ、君のは、ある種の花のような臭いだけど、年齢を重ねると、臭くなってくるのよ)
あ、やっぱりバレてた…。
中村に、自分も知らない自分の臭いを知られるのもショックだが、やがて大人になると、こんなに臭くなるのか、と思うと、それも嫌だった。
「と、言うことは、顔泥棒は、少年に化けているけど、本当は…」
かなり薄気味悪い話だ。
脂ぎった中年が、少年に変身し、顔を盗んでいるのだ。
(いえ、見てください!)
真子が影の手で指差したのは、黄ばんだ歯と、半ば白髪に色の抜けた無数の頭髪だった。
「え、老人…?」
誠が驚いたとき、美鳥が上がってきて、
「顔泥棒は大人だったのね…」
と、一瞬で理解した。
あ、美鳥さんは判るんだ…。
と誠は微かに赤面した。
それから五人の若めの人間を殺し、なんとか元の白井隆夫に戻れた、と確信してから、白井はカフェに戻った。
たぶん、見た感じでは、殺したのは全員十代だ。
白井の手は艶を取り戻し、顔もスベスベに戻っている。
ホッとする反面…。
あの醜い本体は、この世から消滅させなければならない…。
白井は決心していた。
整形手術を受け、人口の純白な歯を入れ、真っ黒で艶やかな髪を頭に植えるのだ。
決心した白井がカフェに戻ると、ユズはマスターに手紙を託して、帰っていた。
[友達に呼ばれたから、先に帰るね。
ホー君、今度の日曜、十一時にここに来て、待ってるから]
白井は、己の真の姿が現れてしまったことで、すっかり自身を喪失していた。
防空頭巾を取って、フサフサに戻った髪を撫でるが、ギグ、と手を取ると、そこに、白髪が大量に張り付いていた。