33代々木公園
誠と美鳥は空を飛んで代々木公園を目指した。
誠の中には、中三の少女さやかと共に、高二の裕次も加わっていた。
(くそっ、ライブのために、新品が欲しかっただけなのによぅ)
裕次が毒づくと元不良の颯太が、
(お前、ツルツル君の癖にイキがるよな)
と嘲笑った。
(ばーか、知らねーのかよ。
ギタープレイの最中に、毛があると、皮にはさまったりして痛てーんだよ!
坊主みてぃに趣味じゃねぇ!)
(趣味じゃないよ!)
誠も怒る。
頭の中の不良なら、殴られることもないし、誠も強気だ。
ププッと高橋は笑い。
(剃るぐらいでいいじゃないの。
不良仲間にバレたら、カッコ悪いわよ)
(ばーか、中坊からの仲間だし、みんなで風呂入ってるわ!
ボーカルの山崎なんて、マジで生えてねー何て言ってるけど、前に寝てるとき脱がしたら、生えかけだったぜ!)
結構、不良の人も、そんな感じなんだな…、と誠は思った。
結局、颯太と裕次はすぐに仲良くなった。
(こいつ、ヘタレだからさ、俺が代わりに戦ってやってんだ)
痛いところを突いてくる。
(まー、俺もやってやるから安心しな)
戦闘力は、影の力とは別のところで、格段に上がった誠だった。
(あたし、柔道なら自信があります)
さやかも話した。
お茶の水から代々木公園は、遠いように思えるが、実は数キロしか離れていない。
回りの道が蛇行しているため、思うより近いのだ。
皇居をカスっていることも、道が歪む原因だった。
影繰りは目視できないため、皇居の上の飛行も問題はない。
だが、代々木公園は新宿御苑や神宮の森より広大な、都会の森林地帯だった。
樹海のように濃密に木が繁っているわけではないが、上から人を探せる場所でもない。
田部は、遺体は探せるが、見ず知らずの顔泥棒を探すことは出来なかった。
公園に降りて、幽霊の力も借りて、誠は人を探すが、平日の昼間でも、公園には多くの人が溢れていた。
「テレポートが出来なくなっている事と顔泥棒に関係があるのなら、奴はまた人を襲うはずです」
誠は言うが、顔泥棒の事は、何も判っていない。
何故、顔とテレポートに関係があるのかも、理解不能だ。
おそらく関係あるから、死体の処理が出来ないのだろう、と推測するだけだが、全く別の目論見、という可能性もあるのだ。
襲われた二人も、急に背後から襲われた、としか判らないようだ。
まだ、さやかちゃんはツカサ似の男を見たようだが、裕次はギターの演奏に夢中になっていて、人がいることも判らなかったらしい。
(判ればムザムザやられやしねぇよ!)
いきがるが、裸はあまり筋肉質でもなく、どちらかと言えば誠並みに小柄だった。
ただし本当に強い人が、ムキムキの筋肉質ではないことは、誠も学習していた。
戦いはある程度、気持ちとテクニックだった。
その意味では裕次は強いのかもしれない。
僕の場合、気持ちと運動神経に難があるんだよなぁ…。
白井は、のんびり散歩を楽しんでいる風を装って、歩道を歩いていた。
できるだけ何かに没頭していて、人目につかない場所にいる人間が都合がいい。
カップルの覗きをしている変質者なども、いいカモだった。
とはいえ、真っ昼間の平日では、カップルがいても、猥褻行為に及ぼうとまでは思ってはいない感じであり、それを尾行するような変質者も見当たらなかった。
ダンスの練習やスポーツのトレーニングを個人でする人間は多いが、彼らは人から隠れようとはしない。
原宿方面に抜けるかな…。
白井が考え出した頃、
「君、そのズボンは学生服だね?
こんなところで何をしている?」
補導警官に白井は見つかった。
白井は、警官を見上げた。
大抵の警官は、武術を習得しているし、銃も持っている。
が、早く獲物探しを再開しなければ、最悪、ツカサは死んでしまう…。
「あの…、お巡りさんですか?
僕、困ってたんです。
こっちへ来てくれますか?」
あまり補導警官と対面したことは無かったが、白井が小柄で華奢なせいか、簡単に木陰に入った。
「で、何に困っているのかね?」
白井はもう、演技をする必要はなかった。
元々、戦地のラオスで生まれた白井は、見た目より長い人生の中で、常に十代か二十代であり、訓練も欠かしてはいなかった。
振り向き様に、警官の眉間に靴の爪先を突き刺し、一瞬で警官を昏倒させた。
「なんだ、偽物か…」
偽警官が、気弱そうな男子学生に何かをしようとしていたらしい。
それがエロい行為なのか、暴力なのか、白井の知ったことではなかった。
偽警官は一瞬で顔を盗まれた。
(人が死んだ!)
田辺は不意に、話し出した。
田辺の不思議な嗅覚は謎だが、誠には貴重な才能だった。
田辺に誘導されて、誠は歩道から森に走り込み、直線で現場に向かった。
ドウダンツツジの茂みの影に、二十代か三十代の男が、顔を盗まれて倒れていた。
近くに、警察の帽子が落ちていた。