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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
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1顔泥棒

ネットでその妖怪アニメを、誠は見てみた。

誠もよく知るロングランアニメだった。


それは海外の妖怪で、吸血妖怪であり、頭と、僅かな内臓だけの姿で、耳が巨大で羽ばたいて空を飛ぶのだ、という。

まさか耳が羽ばたいたところで、80キロの速度は出ないと思うが、妖怪なので、そういう理屈は通用しないのかもしれない。


とはいえ、伊豆の山中にそんなものが出るとは思えないが。

確か、妖怪は出る地域がかなり厳密に決まっていたはずだ。


と誠が難しい顔をして考え込んでいると、不意に小百合が、誠の前の椅子に座ってしまう。


「小田切」


小百合には、誠に敬称を付ける気は全く無いようだ。


「あんた、もっと真子を大事にしなさい」


「えっ?」


いわれの無いセクハラを告発されたように、誠は驚いた。


「あんたは言ってみれば、半分真子なのよ!」


「ええ?

どういう理屈?」


「だから性器や胸は男だとしても、素肌は真子には違いないわ!」


そんな事を言われても、誠は戸惑うばかりだが…。


「具体的に言ってよ、小百合さん」


「だから、男子更衣室で、あんたは何げなく裸になっているだろうけど、あんたの裸は真子の裸、とも言える訳だべ!」


無茶苦茶な話だ。

誠は更衣室でも特に人に裸を見せたりしていない。

誠がそう言うと、真子が出て来て、


「カブトさんは捲って見てたわ」


「あ、カブトは仕方ないし、真子ちゃんの事も彼の頭には無いよ…」


囁くように誠は言った。


「私も、あなたの頭にある事は知る事が出来ます」


それの方が、かなりセクハラなんじゃないか、と誠は思うが。


「あんた、この肌だって男の肌とは違うのよ!」


え、そう? と誠は己の手を見た。

まあ、あまり日に焼けてはいないが、特にどうとも思わないが。


誠がそう言うと、


「それは手入れを怠っているからだべ!」


と、また怒られた。


「えー、そんなお手入れなんて出来ないよ…」


今から学習するつもりも、誠にはなかった。

なぜならレディさんが喜びそうだからだ。


「手入れは私がします」


真子が言い出す。


「えー、僕が化粧品売場で乳液とか買ってるところ、誰かに見られたら…」


「そんなのポチればいいべ!」


「あー、まー、それはそうだけど…」


「真子ちゃんの時間も作るべきだ、って言うのは判るけど、言ってくれれば、別に僕は真子ちゃんをないがしろにする気は全然ないよ」


なんとなく、この道の先にレディさんへの道が見え隠れして、誠は陰鬱になった。




とにかく、真子ちゃんと小百合は、誠のスマホで楽しそうに化粧品をポチり始め、さらに服も購入した。

小百合もユリコも真子を気に入っており、誠にとっては強烈な圧力団体になりそうだった。




「誠くん、小百合さんと仲が良いのね」


科学室への移動中、不意に誠は、背後から静香に囁かれてしまう。


本来、誠にとって小百合は怖いだけの存在であり、決して仲など良くなかったが、確かに真子とはマブな雰囲気を漂わせていた。


それが外見上は誠そのもの、というのは到底静香に説明は不可能だった。


追い詰められた誠だが、


「別に仲良し、って訳じゃないよ。

ただ、相談したいことがあって乗ってもらってただけなんだ」


「なんの相談?」


「それは、秘密」


なんと誠は自分で愕然としたが、悪戯っぽい目で静香を見ながら、輝くような微笑を漏らした。


真子が、誠に変わって出てきたのだ。


(え、どうするつもりなの?)


うろたえる誠に、真子は、


(静香さんの誕生日は5月12日ですよ。

そのくらい、覚えてないとダメよ)


なるほど、そういうことか…。


格闘では颯太に助けられ、女性関係では真子に助けられた。

こんなんで良いのか、と思わないではないが、窮地を脱したのは確かだった。





男性用トイレの洗面台は大概2つである。

その一つを若者が占領していた。


デートでもあるのか、せっせと前髪を整え続けている。

残りの一つを、列を作った男たちが使い、または、あきらめて通過していく。


「やあ、納得できない様子だね」


若者が顔を上げると、すぐ横に男とも女ともつかない、短髪で痩せ型の人影が立っていた。


「癖っ毛を矯正しても、前髪を理想的に垂らすのは難しい。

毛の根元からやらないとダメだよ」


若者はアドバイスに従い、根元を作って、思うようなカーブを作り上げた。


「うん、なかなか良いよ。

ごく普通なのが、何よりだ」


若者は、相手が恩人なので、ちょっとディスられたようだが、とにかく感謝の言葉を口にしようと、顔を上げた。


はじめ、若者は望洋とした広い空間を眺めており、駅のトイレ特有の匂いもしないことに気がついた。


足に、水がかかる。


え、と足元を見ると、若者はガラスのような水面に立っていた。


そこに裸の若者がいた。


自分であることは確かだ。


足の脱毛状態や股間の、少々悩みに思っている形も、自分の知っている通りだから、自分の体なことには間違いがない。


右太ももに、やや大きめの痣があり、そのため若者は小学生時代から長めのボクサーパンツを愛用していた。

家族以外には知らない事実。


だが…。


顔がなかった。


目は、大きな穴だ。


まるでえぐられたように、鼻も口も、無かった。


髪は、アドバイスを受け、やっと決まった前髪が、そのまま垂れていたが、その下には、大きな穴が空いているだけだった。


「ああ!」


若者は叫んで、顔を触るが、夢でもなんでもない。

大きな穴を、指先に感じた。


足に水がかかる。


だんだんと、若者は水の中に沈んで行くのだ。


「死ぬ!」


若者は叫んだのだが、口がないので、


「あああっー!」


としか、言えなかった。


若者は、どことも知れない水の中に、極めてゆっくりと沈んでいった。



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