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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
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24学生連合

誠は、何故か海野と青山と共に、警察に連行された少年の取り調べに立ち会っていた。


と言っても、テーブルに向かい合って話をするのは、警官と少年であり、誠たちは隣の部屋で、モニター越しに話を聞いているだけだ。


青山はむろん、少年の精神を影の力で見ている。

海野はベテラン刑事の直感で少年を探っているのだが、誠は自分がいる意味も判らない。


まあ、せいぜい話とシンクロして血管や内蔵の動きを観察する程度しか、できない。


「だから、向こうが殴ってもいい、って言ったんだよ。

一万で一分間。

全然構わないぜ、って笑ってんだよ。

だから、喧嘩ですら無いんだって、これは」


「しかし相手は重症で入院している。

複数の骨折もある」


警官は紙を見ながら話し、奥の人間がパソコンに会話を記録していた。

音声記録は、机にレコーダーが乗っていたから、おそらくタイピングしているのだろう、と思うが、その音は誠には聞こえなかった。


「そりゃ、偶然、当たりどころが悪かっただけの話でさ、故意じゃないし、遊びだったんだよ!」


「遊びで済む被害じゃないよ。

れっきとした傷害罪になる」


「やめてくれよ。

奴に聞けば判るはずさ」


「あいにく、意識不明でね。

今日は家には帰れないよ」


「マジかよ!」


誠は、尋問には役に立たないが、意味なくここに同席したのではなかった。


デバイスで竜吉と繋がっており、間接的に竜吉は指令室にいると共に、この部屋にいるも同じ、になるのだ。

リーキーの作ったデバイスは、スマホの何倍も性能が良いので竜吉も助かるらしい。


「誠さん、彼のズボンから微弱な影の反応がありました」


竜吉は、パソコンに己の影を重ねることで、とてつもない情報収集能力を発揮する影繰りだが、影の気配も探知できるようだ。


ズボン…?


影の手で少年のズボンを探ってみると、ポケットが二重になっていて、中に何かの錠剤がラップに巻かれていた。


ラップを二つ折りにし、間に錠剤を挟んだものなので、殆ど厚みもなかった。

縦横も三センチほどでペラペラなので、さすがの警察も見逃したらしい。


影の手でつかみ、誠は 本部に持ち帰った。





「成分的には、澱粉、粉砂糖、苦味の強い漢方生薬、主に胃薬のようなものですね…」


吉岡医師は首をかしげた。


「それに、何らかの方法で影の力を微量加えたわけか?

ペナンなんとかやら水の怪物やら、繋がりがあるのかどうかも判らないが、今までとはかなり違った連中だな」


永田はうんざり、愚痴った。


一つ一つは他愛もない子供の喧嘩だったり、山でお化けに追いかけられたり、お話にもならない。


ただ、顔泥棒と水の化け物は、殺人なので、もしこれらが一つの組織の意図するものなら、それが影繰りの犯罪であるなら、内調として対抗しなければならない。


だが、影の薬についても、あまり意味は判らなかった。


「影の薬は、それがプロの格闘家をひ弱な少年が倒せるほどの力を持つものなら、早めに取り締まった方が良いのではないでしょうか?」


誠は言ったが。


「誰が、どう売っているのか、ルートを掴めないとな。

この手の薬物犯罪は影繰りが戦ってどうなる、というもんでもない。

地道なローラー作戦で犯人を探し出すしかない」


と永田は肩をすくめた。


一般人に、わずかな時間、影の力を与える錠剤。


それに何の意味があるのか、誠にもよく判らなかった。




川上は、ごく普通の状態でも聴覚が鋭い。

影に目覚めてから、より耳は良くなった。


「なあ、学生連合って知ってる…?」


そんな言葉が、机に突っ伏して寝ているフリをしていた川上の耳に入ってきた。


川上は、何気なく影の耳を立てた。


この耳は、当初は犬か猫の耳のようだったが、だんだん大きくなって、今はリカオンのように、二つのパラボラ集音機のようになってきた。


まあ、ウサギの耳よりはだいぶマシだったが…。


「学生連合?

なに? アプリ?」


「ああ、無料のアプリなんだけど、課金で良い薬が手に入るんだ」


「なに? ヤバい奴?」


「違う違う。

暗記力が一日、良くなるとか、一時間、足が早くなる、とか、三分間、無敵になる、とかさ」


「なんだそれ、ゲームみたいな話じゃん?」


「いや、マジなんだよ。

俺、この間の中間テスト、百点だったから。

メッチャいいぜ、これ!」


その時、川上の耳が横に動いた。


小田切誠が校舎の屋上に着地し、透過して一階廊下に落ちる微かな音を捉えたのだ。


川上は、身を起こした。


カブトやユリや小百合に興味はないが、誠は気に入っていた。


彼は、圧倒的に強いのに、脆さも持っている。

だから、川上は誠の隣を自分の居場所にしたかった。


問題は、結構、ライバルが多いことだ。


一部、白人好きに大人気なのに、ユリも誠に寄ってくる。


カブトは、別の目的で、誠を気に入っている。

川上の思うに、奴はブラコンだと同時に、小柄な男が好きなのだ。


ユリも小柄だが、一時アメリカに渡っていたカブトは、たぶん白人は嫌いらしく、ろくに話しもしない。


また、新聞部の静香は誠と同じ中学で、一歩踏み込んだ仲になろうとしている。


まー男女の仲に割り込むつもりは、川上も無かった。

影繰りとして、ペアで動ければ、川上には大きなメリットがある、という話だ。


ま、何より誠っちといれば、必ず戦いになる。

どうやら影繰りを殺せば、影繰りは強くなる、というのは実話らしい。


ならば俺だって、いつまでも動く集音機でなくても良いわけだ…。


可能なら、これ以上の獣化は避けて、川上は強くなりたかった…。

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