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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
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19アイドル

しかし、ここ数ヵ月で真子は同じ学生、田辺は年上の美容師、中村はアイドルのツカサ。


一人の人間と考えると、顔泥棒は容貌が変わりすぎている。

むろん顔は盗める影繰りなので、三つの顔を使い分けている、と考えられるが、三つの人物の共通点はとても美形な事だった。


真子や田辺、中村は、本人たちですら飛び抜けた容姿ではない、と語っている。


むろん、容姿も時と場合に合わせて、目立たない顔や、逆に醜くて目立つ顔なども集めた方が、自在に容姿を変える能力なら使い勝手がいい、とは言えるが…。


では三人の前に現れた同一人物ではなさそうな三人はなんなのだろう?


ツカサは、子役も演じられる華奢な男だが、普通に成人男性に外見は見える。


真子の出会った少年は、ツカサとは大分違うようだし、田辺も、もっと背は高かった、と言う。


そして中村の女の直感、女に興味がない、が事実なら、どうなるのか?


世間の狭い誠には判らなかった。






が、せっかくブラインドタッチが身に付いたのなら、一度してみたかったことはあった。


タブレットタイプのノートパソコンを持ち歩くことだ。


誠はそのまま家電量販店に入り、手頃な品を現金購入した。





山の中、ツカサ似の男が歩いている。


キリキリキリキリ…。


あちらから、向こうから、暗い森の冷たい地面を漂うように、物悲しげな鳴き声が聞こえていた。


森には、険しい岩場もあり、壁のように繁った背の低い灌木の繁殖地もあったが、男は都会を歩くように、足元も見ずに進んでいく。


やがて得体の知れない巨木の繁る一帯となり、さすがに男も草を掻き分けるように森を抜けるが…。


森の中に、植林地のように木の生えていない一角があった。


弱々しい枝のように、若木が一列に生えている。


男は、慈しむように若木を撫で、その先に進む。


巨木があった。


丈は他の木とそれほど違わないが、横幅が途方もない。


普通の木の幹と変わらないような枝が四方に垂れ下がっていた。


実が、ついている。


いくつも、いくつも。


黒々とした、人毛のような皮に覆われた、瓜のような実だ。


その、一つ一つが、逆さになった人の顔に見える。


ツカサ似の男は、実を持ち上げて、重さを確かめながら。


「うん、良いペナンガランじゃないか、シーツァ…」


大木が、ニヤリ、と笑った。

それは途方もない大きさの、人の顔の形をした幹であり、男と会話が可能なようだった。


と、男のスマホが、深山の中だと言うのにリズミカルに鳴った。


「あ、僕だよ、山元さん」


スマートフォンの光りに照らし出された男の顔は、紛れもない芸能人、ツカサだ。


「ん、そんな時間だっけ?

ちょっと散歩し過ぎたな。

いや、迎えは要らないよ。

五分で帰れるよ」


ツカサは、独特の少年のような声で笑い、じゃあ、とスマホを切ると…。


そのまま、霧のように消えた。






「なー、誠ぉ」


カブトが、誠の席の前に座り、スマホに目を落とした誠に声をかけた。


朝、ホームルームの前だ。

タブレット型パソコンは、まだカバンにしまったままだった。


同級生などガキの集団だし、見たら欲望のままに行動をするだろう、と誠は考えていた。


「ん、なに…」


目を上げると、カブトは自分のスマホに、ヌードを映していた。


「なにこれ…」


色白の、大きな球体は、どうやら、女性の尻のようだ。


「これ、凄いだろ?」


カブトが?


と、思いながらよく見ると、ほとんど女性にしか見えないが、どうもそうではないらしかった。


「え、レディさん?」


誠が聞くと、カブトは笑って。


「よく見なよ。

映画のワンシーンだ。

これ、ツカサだぜ」


ああ、あの話題になった映画か、と誠は納得した。


「こいつは、ちょっと別物だろ?」


同意を求められても困る。

困るが…。


「カブト、特殊メークとか知らないの?

今やスマホだってお尻を丸くするくらいの加工、出来るよ」


「ぶぁーか!

俺を誰だと思ってるんだ。

加工が見抜けないとでも思っているのか。

これは、とてもエロいが、天然の、ツカサの尻なんだ。

歌謡ステーションとかでピッタリしたジーンズを履いているツカサをみて、確認したんだからな。

こーゆう尻は、ちゃんとそれなりに意図して作らないと出来ない。

そして、確実に女に見せる尻じゃないんだ!」


男ってバカだよな…、と誠は思い。


「役作りって知ってる?

そのぐらいするから、超アイドルで何年も君臨できるんだよ。

たしかEテレの子供番組からデビューして、もう十年以上でしょ。

声とか、背とかホルモン調整している、とか言われてるけど、それにしても努力してるんだよ」


「あの声は兄さんと同じ、裏声だぜ。

少しは薬も使ってるかもしれないけど、だいたい地だよ。

奴は本物だ!」


中村はツカサ似のサラリーマンが女に興味がない、と言い切り、今またカブトが、本物のツカサをソッチのケがある、と言っていた。


まぁ、少年ぽいので、そう言われてしまうのだろうな、と誠は密かに有名アイドルに同情した。

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