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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
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17霊魂

「毎日訓練も欠かしていない窪田さんの背骨を折る、と言うのは、相当に困難な事なのよ」


吉岡医師は、V字型に折れ曲がった遺体を検視台に乗せて、唸った。


内調で影繰りではない人員は、ほぼ警察や自衛隊からの派遣隊員だ。

皆、一定以上の優秀さと人格者であると認められたうえで、諜報機関である内調に迎えられるのだ。

窪田さんも中年とはいえ、空手、柔道の有段者で、毎日、誠たちと同じように訓練所で体を鍛えていた。


誠も何度か、水着の窪田さんを見たことがあるが、見事に腹筋の入った、しかもテレビタレントのファッション腹筋ではない、横幅もある格闘者の体をしていた。


お菓子のように真二つに折れるような体ではない。


吉岡は所見を書いていくが、何が起こったのか判るものではない。

身体に薬物などは見つからず、ただ腕力で二つに折られた、と結論した。

影繰りでしか成しえない破壊力だが、コンクリート建築をウエハースのように崩すユリコでも生きている人間を真っ二つには出来ないと思う、という。


抵抗もするし、逃げようともする空手、柔道の有段者なのだ。


「単純に言って、熊でも出来ないような事なのよ」


殺すだけなら内臓を抉る、とか喉を切る、など、遥かに簡単なやり方がある。

どんな野生動物も、たとえ相手がネズミでも、身体を二つに折ったりはしないだろう。


相手も逃げるし、意味が無い。


従って、何かの意図を持った影繰りの仕業、としか結論できない、と吉岡は所見を終えた。





「ペナンガランに顔泥棒、それに謎の怪力人間も出没しているってのか」


カブトや川上は唸るが、勇気は、


「あれはやっぱり本当の妖怪なんだよ!

影繰りじゃねーよ!」


相当に怖かったらしい。


「まー確かに、周りに影繰りらしき人物は確認できなかった、ッスねぇ」


川上も首を捻る。


「怪力人間もそう遠くにはいなかったはずなんだよ」


誠も頭を悩ませた。


楽しいはずの川遊びが、悪夢の時間に変わってしまった。

ただし、子供たちの当初の目的は、数十倍になって帰ってきた訳だが。


それもあってか、五人は思う程トラウマになっていない様子だった。


ただし、今は必至にペナンガランの回避方法を探していたが。


「アザミの葉が弱点らしいぜ!」


義郎が支給のスマホで発見すると、樹怜悧は、


「奴らには、実は手足があるのだそうです!

奴らが抜け出た後の手足に、ガラスの破片を入れると死ぬんだそうですよ!」


あの広い伊豆半島から、本体を探し出すという困難は、襲ってきてくれる顔を倒す数万倍の徒労だろう。


「ペナンガランが妖怪なら…」


不意に誠が思いついた。


「顔泥棒は、それを避ける方法を知っている、って事か!」


「確かにその可能性はありそうですが、探しても見つからないのが顔泥棒なのです。

何しろ、無数の顔を既に持っているのですから」


瞬間、誠が真子になったのは、声でも判る。

誠自身が高校生にしては高めの声なのだが、真子はまろやかな女子の声だからだ。


だが、これは真子の本当の声ではないのだと言う。

あくまで誠の声帯を通して、真子に寄せた声なのだ。

いや、真子が寄せた、と言うべきだろう。

誠自身は、器用に人真似ができるような性格ではないからだ。


しかし、と誠は思った。

真子が顔をとられてから数ヵ月が過ぎていた。

だが、顔泥棒は、田辺や今日発見した人物、また東京湾の死体、と年齢性別に関係なく、多くの顔を集め続けている。


だが、人の顔であり、時折、自分は生きている、と家に連絡までしていると言う。

無限に集めるわけにはいかないはずだ。


捜索願が出され、身元を洗われたら、いかに顔泥棒が無数に顔を持っていようが、何かしら痕跡は発見できるかもしれない。


誠はデバイスで永田に連絡をとるが、


「お前も判ってるだろうが、うちは影繰り対策機関なんだよ。

無論、他の事もするがな。

捜索願の出ていない家庭に首を突っ込む権限は、裁判所が警察に許可した場合、それに同行する、ぐらいしかないわけだよ」


内調も万能ではない。

FBIやCIAなら、独自の捜査権もあるのだろうが、内調という組織は、表向き、都市伝説としか思われていなかった。


「誠、海は無理だったけど、もし、あの首吊りが、あそこで死んでいたのなら、もしかすると魂を探せるかもしれないぜ?」


颯太の声に、誠はゾッとしたが、顔泥棒の足取りを追うとしたら、誠は霊を収集するしかないかもしれなかった。


訓練を終えてから、誠は空に飛び立った。


ペナンガランの群れが生息している、と判っている場所に大勢で行くのは危険すぎた。


謎の怪力人間は誠の手に負えるか判らなかったが、最悪空には逃げられるはずだ。


場所は、デバイスが教えてくれた。


(なに、地図アプリに手を加えた程度だよ)


とリーキーは笑ったが、その精度は木の一本一本を見分けるほどだ。


遺体は既に内調が回収していたが、誠は空中から颯太を外に出して、魂を探した。


だけど妖怪に魂…。

いったい僕は、何をしているんだ?


影自体が、既に理知外の話ではあったが、しかし現実社会の裏側、程度には理解はできた。

だが、妖怪、幽霊となったら、まさにこの世の埒外の話、心霊の出来事だ。


それに、神仏すら信仰していない誠が、何故か首を突っ込んでいる。


何をしてる?


自分に問うのも当たり前なのだが、しかし既にここまで足を踏み入れてしまったら、そこから辿るしか道はなさそうだった。


しばらく、颯太は帰ってこなかった。


誠の頭の中には、それでも真子や田辺は住み着いているのだが、誠の自閉症的な精神構造が己の中に閉じ籠らせていた。


と、


誠は微かな異物を感じた。


それは中村、という独身の大人の女性、の霊魂だった。



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