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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
153/153

153鉄になる

全ては計画通りに進んでいた。


白井は川辺のベンチに座り、内調の影繰りが悪戦苦闘する様をのんびり眺めた。


カマキリがハリガネムシを吐き出すのは、自然界に当たり前のことだった。


つまり、あのニメートルを超えるカマキリ怪人が出しても、ハリガネムシかと考える。


だが、それは計画された怪物であり、土に潜りながら徐々に土中の鉄を吸収、更に無数のハリガネムシが糸のように絡み合い、太い鉄の杭のようになりながら、どんどん地下に潜っていく。


そのときハリガネムシは、温泉のために掘られた竪穴を見つけ、それを利用しながら進むために、自ら土を掘るよりも数段速い速度で地下数千メートルに達し、岩盤に刺さって止まる。


そこにウミヘビが、ハリガネムシの掘った穴に沿って潜っていく。


穴には当然、水が溜まっている。

隅田川の水と温泉水である。


この中に蛇が突き刺さり、内部の核爆弾が破裂した場合、通例の爆発とは違う事が起こる。


水蒸気爆発である。


水は、蒸気になったとき、体積は千七百倍に膨張するのだ。

誰もが知る蒸気機関の原動力だ。


この力は、上にも作用するが、岩盤に突き刺さった鉄杭である、かつてのハリガネムシにも作用する。


古代より、石は鉄杭によって穴を開けられているのだ。


一方、上に向かった力は、火山の水蒸気爆発に似た巨大爆発を起こすことになる。


地震が起こり、それがより岩盤を傷つけ、また杭を深く打ち込むことになる。


これらが造山運動を起こす。


昭和新山は8日で32メートル隆起した。


これは理想的なホレポレの木の苗床となり、東京の中心地に大きな橋頭堡が築かれる。






あ、水か。


リーキーも遅まきながら気がついた。


ただの地面の穴で核爆発を起こしても大した人工地震にしかならないが、事は隅田川で起こっているのだ。


水蒸気爆発。


この破壊力は大地を揺るがすだろう。


リーキーは誠に通話した。


「え、地下のハリガネムシの穴から水だけを透過するんですか?」


「そうだ。

水蒸気爆発さえ起こらなければ、大した人工地震にもならないはずなんだ」


だけど透過には射程距離があって、そんな地下には……」


「自分で落ちればいいだろう?

いつもやってるじゃないか。

しかも空が飛べるのだから、戻るのも造作もない」


リーキーに言われれば、確かにその通りだった。


「原爆がこれから来るんですよね?

それを止めれば?」


「地上で原爆が爆発するとどうなる?」


確かに。


どの程度の爆弾か分からないらしいが、それは東京の中心で爆発する、と言う事だ。


なんとしても、穴の底で爆発してもらいたいが、そこに水があると途方もない事になるのだ。


「分かりました」


誠は隅田川に潜った。


水も透過しているので、服も濡れない。

穴は水中で一つの、数メートルの穴となり、はるか地下まで続いていた。





動いたか!


白井は、遊びで隅田川を眺めていたわけではなかった。


おそらく小田切誠が動くのは、過去の事例からも分かっていたのだ。


そのための切り札は用意してあった。

霧峰静香と言う、ごくありきたりな少女だった。


白井は彼女の肩を担ぐと、はるか地下を進む小田切誠のいる場所までテレポートを開始した。





目の前に白井邦一と霧峰静香が現れたとき、誠は驚愕した。


この人畜無害そうな上級生が、顔泥棒であり、またスーパーアイドルのツカサなのは既に分かっていたからだ。


「顔泥棒……」


ククク、と白井邦一は想像もできないほど邪悪に笑い、


「僕の事は分かっているようだね、小田切誠君。

それなら話は早い。

僕の計画を邪魔するのなら、この子を殺すよ」


眉毛一つ動かさずに、白井は言った。


「分かってないのはあなたの方だ。

今、あなたが僕と話していられるのは、僕があなたを支えているからです。


静香ちゃんだけを手にして、あなたを落とすなんて造作もない」


誠たちは、深い穴の中を降りていっていた。


「彼女はよく眠っているだろう?

これは薬物でも影能力でもない。

シーツアーの花の力だ。

僕を殺したら、彼女は一生目覚めないよ」


嘘かもしれない。

だが、彼らの能力は、ただの影繰りの力とは明らかに違っていた。


「浅草を爆破させてどうするんですか?

あなた達の目的が判らない」


誠は話を変えた。


「君に教える必要はないし、理解できないだろう。

だが、君に協力をお願いするんだから話しても良いね」


どうせ、すぐに蛇が来る。


「我々の力は自然と共にある。

元々我々はラオスの、桃源郷にいたのだが、内戦と経済発展のために桃源郷は失われた。


同じ条件の土地を探して、我々は日本を発見したのだ。

浅草を桃源郷にした暁には、我々は君らと敵対しないでも良い。

桃源郷の復活だけが我々の望みなのだ」


嘘ではないが、火山国の日本なら桃源郷は幾つも増やしていける。


「申し訳ありませんが、それはラオスでやってください。

日本に作るなんて迷惑にも程があります」


「もはやラオスではホレポレの木は育たないんだ。

大陸では、日本ほど火山は多くない」


「知りませんよ、そんな事」


誠は言った。


と、誠と白井の周りは不意に明るくなった。


誠は、周囲の水ごと、白井に黙って上昇させていたのだ。


「僕がテレポーターと言う事を忘れていたようだね」


白井は言ったが、誠は白井の胸に自分の手を入れ、脳に続く動脈を塞いでいた。


白井を昏倒させた後に、誠は水を落下させ、上空から蛇を探した。


蛇は穴に頭を入れていた。


穴の水に、反発の力を加えた。


隅田川の中ほどに、水が噴き上がったが、蛇も浮かんでしまう。


「透過」


蛇は、穴ではない場所で地下に落とした。


一瞬後、ズン、と浅草が揺れたが、瞬間的なことで、その後は特に何も起こらなかった。


が、浅草の騒乱は続いていた。

誠は、白井を隅田川沿いのベンチに腕を透過させて、拘束し、霧峰静香を高屋に預けた。


すぐに隅田川に戻ったが……。


ベンチは凄い力で破壊されていた。


白井邦一は、激怒していた。


「何年……!

何年かかって準備したと思っている!」


「知りませんよ。

あなたは人を殺し過ぎた。

あなたの苦労なんて僕の知った事じゃない。

あなたは殺人者で、泥棒だ!」


白井は顔をほころばせ、


「その通り。

俺の力は顔を盗む力だ。

君の顔だって一瞬で盗めるんだよ」


おそらく白井が、肉体も盗めるのは分かっていた。


ただし、顔を盗むほど簡単ではないらしいことも、元の顔泥棒の死体が見つかったことから判る。


問題なのは、なぜ穴の中で誠の顔を盗まなかったのか、だ。


誠の体を奪わないと影まで取る事はできないからかもしれないが、あの場合、瞬時に誠の顔を奪えば確実に桃源郷作戦は達成できたはずだった。


誠が考えても、かなり周到に準備された計画だったのは判る。


なぜ、誠を殺さなかったのか?

殺せなかったのか?


(誠さん、もしかすると顔泥棒の発動は相手の顔をみる必要があるのかもしれません。

私はそうでした)


ん、確か裕次は背後から襲われた、って言ってたよな?


(あー、あの時は皆に裸見られたりして混乱してたんだが、一瞬は振り向いた。

顔は見てたぜ)


と、すると顔を見る事で、顔を盗むのか。

穴の中は暗かった上、静香ちゃんがいたので、確かに目の端に白井を見たぐらいだったから死ななかったのかもしれない。


(誠、俺達が見てやるから、お前は目を瞑ってろ)


颯太が提案した。


誠は目を瞑った。


「バカだね君は。

顔を取られなくても、殴り殺されるだけじゃないか」


やはり白井の顔を見ることが能力の発動条件だったらしい。


「やってみますか?」


近接戦闘が出来ないのは自分で試して分かっていた。

別に颯太たちがいるし、誠は透過と影に潜り込む事に徹すれば、戦えるはずだった。


目を閉じた誠に、白井は簡単に殴りに来た。


颯太が綺麗にカウンターを決める。


白井は膝から倒れるが、コンビニ店員のさやかちゃんが、素早く腕十字を決め、しかも問答無用で腕を折った。


白井が悲鳴を上げる中、偽警官がアキレス腱を固め、足首を折る。


裕次が立ち上がり、横腹に蹴りを入れた後、白井の股間を踏みつけた。


だが、白井もラオス内戦の戦士だった。


片腕と片足を折られていても、誠の足に噛みついてきた。


誠は透過して足を抜くと、


「あなたは死んで当然の人です」


言って、隅田川の護岸のコンクリートの中に沈めた。





浅草では騒乱が続いていた。


その争乱を見つめていたカラスが呟く。


「リィーホが死んだか……」


ツカサが死んでも、芸能プロには何人も人材はいるのだが、ツカサの変えは流石に無い。


他人の顔を盗み、能力を盗む影が無ければ、あれほどの超越した才能は中々生まれはしない。


「一時戦力を回収し、次のチャンスに備える」


カラスは、ムクリと起き上がると黒いスーツの男、ツカサの芸能事務所の社長になった。


半魚人やカッパ、水死体は水に消え、白井が配置した花も回収された。


街で暴れるのを待っていた怪人たちもそれぞれ、被害者を装って警察に保護され、調子に乗って暴れていた一般人だけが逮捕された。


飛行船は、のんびりと伊豆に戻っていき、猫たちも死体が唐突に動かなくなったので、逆に大量の死体を前に呆然とすることになった。





誠は、


「だから風呂には入るなって言ってるだろ!」


一人で怒鳴っていた。


(いいや!

いいか誠、お前の体はお前一人のものじゃない。

だいたい、顔泥棒に勝てたのは誰のおかげか分かってるのか!)


颯太が、ここのところ立場を良くしているのだ。


誠も、自分に戦闘の才能が乏しいのは認めざるを得なかった。

訓練は無論、誠が続けるが、本当に勝たなければならない時には、やはり颯太や裕次、それに喜んでこの場にいる偽警官の力は借りなければならないようだ。


(だから何だよ!)


誠は、自分が怒鳴ったことに気が付き、声を潜めた。


(だから、たまには風呂に入りたいんだってさ)


田辺が教えた。


(僕のプラバシーが……)


誠は湯船に顔を沈めた。







静香は、自室で目を覚ました。


検査に異常もなく、霧峰家に入ってみると見かけない花があったことから、この花に一種の催眠成分が認められ、またツカサのマンションを捜索した結果、同種の花が見つかったことから、マンションに戻したのだ。


学生連合は、重大な違反行為があったとしてSNSから姿を消した。


サーバーは研究され、関わっていた人員は逮捕された。


白井邦一は行方不明になり、アイドルのツカサは引退するとの事務所発表がなされた。


長安の記事は、内調の圧力で没にされた。


誠は、夏休みに名古屋と京都に一人旅をしたい、と親にねだったところ、桔梗が何かの力を発揮させると、意外にも軽くOKされた。


「まあ、高校生なんだしな。

男だし、一人旅ぐらい構わないだろう」


父親が言い出し、あっさり許可されたので、誠と幽霊たちの力関係は益々均衡が崩れ始めていた。


(まー、色々助けてもらうし、仕方ないな……)


旅行が出来るというワクワクが、誠の心を緩めていた。

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