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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
150/153

150騒乱

「誠っちゃん、えらいことになってるよ!」


誠が各地に偵察に飛ばしていた幽霊の一人、偽警官が誠にテレパシーで交信した。


誠はあまり非科学的なことを信じたくはなかったが、幽霊と会話が出来るのは影で繋がっているから、と理解することができた。


偽警官の見たものが見えるので、六区が乱闘騒ぎになっているのが判る。


大人も子供も、男も女も、老人幼児に関係なく、闘っている。


殴る蹴る、噛みつく、棒などの武器を手にして突く、叩く、叫ぶ。


血を噴き上げて倒れる人、まだ正気で六区から逃げ出す人々。


自動車が倒され、EV車だったためか火を噴いた。

黒煙が上がり、老女が泣き叫んだ。


なんとかしなければならないが、見たところカマキリは動かないどころか、逃げている。


一般人の戦いを、どう止めれば良いのか誠には分からなかった。





「おい誠っち。

あの車、さっき自転車を跳ねた車じゃねーか?」


国際通り沿いに、確かにそれらしきトラックが横付けされた。


トラックの横側の壁が垂直に持ち上がっていく。


「なんだべ!

あれは!」


小百合も叫んだ。


トラックの中にいたのは、マネキンのように直立してキツキツに積み込まれた、人間だった。


彼らは、前から順に落ちるようにトラックから出てくると、観光客を襲い出した。


襲うと言っても、六区のそれとは明らかに違う。


彼らは人々にしがみつくと、首や手など剥き出しの肌を狙って、歯を突き立てたのだ。


「え……、ゾンビ……」


誠も言葉を失う。


怖い映画はまず見ない誠だが、幼い頃、ナイトオブ リビングデッドという白黒映画は知らずに観てしまい、しばらく外に出られないほどのトラウマになっていた。


目の前で、そのまま、映画の光景が展開されていた。


「ど、どうするよ誠っち?」


誠も呆然としていた。


「いや、どうするも何も……」


映画のゾンビはわかりやすい。

血みどろで、顔は青く、動きも独特だ。


だが、トラックから降りたゾンビたちは、明らかに異常なことは無かった。


ただ人に抱きつき、噛みつくのだ。


「あれ……、映画と同じだと思う?」


困惑して誠は仲間に聞いた。


「噛まれた人がゾンビになるのなら……、みんな殺すしか無いけど、現実には、そんなことは無いかもしれないよね……?」


確かに、コロナだって百パーセントの確率では感染しない。


噛まれたから、その人もゾンビになるというのは、明らかにフィクションのはずだ。

はずだが……。


もし、違ったら……?


初動を間違えば、浅草はあっという間に崩壊する。


一瞬の内に、走るようにトラックから出た人々は、観光客に混ざってしまった。


齧っていれば血が出るが、血を見るまではそれが恋人のキスなのか、襲っているのか、見分けはつきにくい。


また、誠たちは駅から外に出る人々を見張るために配備されてもいた。


「みんな……」


誠は呟いた。


「噛みついている、と明らかに分かる人たちは、できるだけ早期に排除しないと、大変なことになる。

それだけでも、取り除こう」


誠の言葉に、全員は頷いた。





スカイツリーから研究員は撤退し、猫も最後にエレベーターに飛び乗った。


「あれが駅に行ったら大変だよ。

エレベーターは止めて!」


警備班はスマホをかけた。


「階段がありますが……?」


「ソラマチに着く前にみんな、やっつけるよ」


猫は完全封鎖を目論むが……。


国際通りに来たのと同型のトラックが、スカイツリーの道路封鎖の先に、ゆっくりと止まった。




トンボ少年は、浅草寺上空で旋回していた。

良治がナイフで狙うが、トンボ少年はヒラヒラと巧みに逃れる。


大たちは浅草寺の屋根で待ち構えるが、トンボ少年は下降上昇を繰り返し、隙をうかがっているようだ。


下では子供たちが変身し、カバンを落とさないよう警戒している。


そこに勇気が走って来た。


「おーい皆、大丈夫か?」


レイナちゃんが教える。


「あいつが持ってるカバンが落ちたら、大変なことになるの!」


勇気は空を睨み、


「よし、合体しよう!」


ヒーロー姿の子供たちは各自の車を呼び出した。


素早く乗り込み、素早く合体する。


影の戦いは、一瞬でも遅れれば敗北に繋がることを、5人は学んでいた。


勇気のF1カーが2つに折れてロボットの顔になり、義郎のシャベルカーに前輪タイヤを入れる形で収まる。


樹怜悧の新幹線が二両に分かれて左右の手になり、愛理とレイナの車が足になる。


「飛行モードを試すぜ!」


背中にシュンと羽根が伸び、ゴウと背中と足から炎が上がる。


飛行力学は無視して、ロボットはあっさり空を飛んだ。


「ホーミングミサイルよ!」


愛理ちゃんの声と共にロボットの胸からミサイルが打ち出され、トンボ少年を追尾する。


良治もナイフで追っているため、流石にトンボ少年も動きが乱れた。


「レーザービームだ!」


まさに目から怪光線を発する巨大ロボ。


トンボ少年の飛行ルートは乱れるが、それでも攻撃は当たらない。


本気で逃げるオニヤンマを空中で捕まえようとするような騒ぎだ。


やがて福も駆けつけてきた。





「おいおい、こりゃなんなんだ?」


カブトが呻いた。


水上バス乗り場から、真っ黒な、そして腐敗した者たちが、隅田川から登ってきたのだ。


「ちょっとわりーけど、あたし、触りたくねーわ……」


ユリコは鼻をつまむ。


「爆発させると、なんか色々、飛び散りそーだな」


カブトも逃げたいような顔をしている。






水中から上がってくるのは芋之助たちのところも同じだった。


ここには、真っ赤な沢蟹の群れが、川沿いを覆い隠すほどの量、上陸していた。


「これは切りきれないな」


「芋之助君はカマキリの方を見て。

あたしが凍らせる!」


ハマユが前に出た。




「百メートルの古代ザメ?

マジか?」


リーキー・トールネンは唸った。


ムービーまである以上、未確認の、しかも百メートルのサメとおぼしき生物を、むげに駆除するわけにはいかない。


派遣した研究者たちは大発見に浮かれて、SNSに上げてしまっていた。


むろん東京湾各所にある定点カメラにも姿は映っており、これは世界で燃え上がり始めていた。


だが、おそらくこの生物も、浅草の騒ぎの一環のはずなのだ。


これが川を遡上し浅草に着いたとき、何が起こるのかリーキーは想像できなかった。




見えるゾンビは、小百合の髪、誠の影の体や透過、川上のウサギ、ユリの虫で片付けていた。


複数の救急車が呼ばれ、警察は首をかしげる。


襲った者たちが、皆、謎の横死を遂げているのだ。


何らかの病気の可能性もあり、負傷者は隔離された。


そのゾンビたちを運んだトラックには、いるべき運転手は消えていた。


それ以上に、来た警察官たちは、すぐに六区の乱闘騒ぎを鎮圧に向かわねばならなかった。





渡辺龍と長安が、マンションの裏口を滑るように進入した。


ヌーヌーの力で鍵を開けたのだ。


ここは日頃居住者が買い物にも使う裏出口なので、合法的に内側から鍵が開けられた場合に通報される事は無いはずだった。


階段を登り、ツカサの部屋へ向かう。


防犯カメラはあるが、渡辺が影を出しているから、普通の人間に二人が見つかることはない。


問題は居室の鍵だ。

秘密主義のツカサが鍵を開けているわけはなかった。


昔は犯罪まがいの行為もしてきた日本の芸能雑誌だが、現代は犯罪行為があった、などと分かれば社会から袋叩きに遭うだろう。


電子錠は、ほぼピッキングは不可能、とされている。


が、ヌーヌーなら内部から解錠出来るので、侵入は可能だ。


二人は滑るように居室に入った。


不思議な臭いが鼻を突く。

植物とも、腐った肉とも感じられるような臭い。


短い廊下を過ぎてリビングに入った二人は、息を飲んだ。


そこはスチール製の棚の並んだ、植物の栽培室だった。

人口投光器が照らす湿度の高い何段もの棚に、腐って干乾びた肉のような、植物のような、不思議なものが並び、そこに無風の草が生え、実をつけている。


奥に机があり、すり鉢と錠剤を作る形がある。

ここで薬を自作していたのだ。


……学生連合……。


渡辺には、全てが分かった気がした。


テレポートの出来るツカサが、ある時は白井邦一となり、ある時は福地祐介にも変身する。


顔泥棒……。

誠たちが騒いでいた、謎の連続殺人鬼であり、影繰りだった。


誠たちの推測は全て真実だったのだ。


つまり、あのスーパーアイドルのツカサが、顔泥棒であり、また別の顔も使って薬を配って回っていたのだ。


「おい、見ろよ……」


長安に言われて奥の部屋に入ると、無数の巨大な機械が唸っていた。


コンピューターのサーバーだった。


ここが学生連合の中心地だったのだ。


多分、また別のマンションに子供達の受付をするような職員もいるのだろうが、概ね秘密にすべきものは、このマンションの一室に集められているようだった。


長安に全てを語る訳にもいかない。

なぜなら内調の機密事項だからだ。

だが、後でコンピューターの分かるものを入れて調べさせなければならない案件のようだった。


「何をしていたんだツカサは……」


何週間も張り込んだ部屋の有様に、長安は途方に暮れた。





のんびりしたプロペラ音を立てながら、伊豆から飛行船が飛んでいた。


最近多い強化ビニールではなく、ヒンデンブルグやツェッペリンのような、装甲板に覆われた巨大な飛行船だ。


飛行船の各所からロープが下ろされ、巨大な木を、ぶら下げて飛んでいる。


今、飛行船は京急電車の上を過ぎ、東京都心に向かっていた。


木には、カボチャかウリのような、沢山の実がついており、しかも同時に、白い大きな花の蕾が枝いっぱいに揺れていた。





白井はラオス内戦の悪夢を見て、飛び起きた。


酔っ払いと思われたのか、道の端で寝かされていた。


しまった、まさかあんなガキが毒使いだとは思わず、油断した。


何分気を失っていたのか分からないが、タイムロスは浅草の現状をみるに、それほど大きくは無さそうだ。


ホレポレの木には火山が必要だったが、調べた結果、東京都内には地下深く穴を掘り、温泉を引いた施設が殊の外多い事に気がついた。


特に上野から浅草に、それは多い。

それらの穴は、温泉を引く以外にも利用は可能だ。


そして浅草が橋頭堡となれば、ホレポレの木はどんどん増やしていけるはずだ。


日本ほど火山の多い国は、そうはないのだ。


そろそろ第二ステージを始める頃合いだった。

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