15森
「ほーら、蟹を捕まえたぜ!」
いつの間にか、靴を脱いでズボンを膝まで捲り上げたカブトが、子供たちに加わった。
精神年齢が近いのかもしれない。
と、自閉症気味の誠は断定したが、誠が自在に外部を遮断できるのも、ある種の幼児性であることは認識していなかった。
それにしても修学旅行では悔しい思いをした、と誠はまた、己の精神に入り込む。
奈良、京都を自由行動できたのだが、班行動だったため、地下には全く行けなかったのだ。
中二といえば、いい大人なのだから独り行動くらいさせてくれてもいいのにな…。
と誠は思う。
問題があったらスマホで連絡を取れば、大抵は済むはずだ。
あと、何故か大浴場に入れたがる学校側の姿勢にも疑問を感じる。
別に真子が誠の心にいなくとも、誠は他人に裸を見られるのは好まなかった。
男子の裸など見たくもないが、たまに物凄く見たがる奴もいる。
その毛のある奴なのか? とも思うが、普通に女子好きらしい話もする。
そういえば、川上も不意に誠のハーパンをめくって中を見たりした!
急に怒りが湧くが、まあ川上とは仲良くなっていたから許せるのだが…。
同じことをカブトもする。
これは趣味なのが明確なのだが、何故か見られてるのは誠だが、真子ちゃんも嫌がっていた…。
修学旅行といえば、宿の部屋には、ちゃんとバスルームがあるのに、使うなと言うのは学校の横暴ではないか?
と、誠が勝手に怒っていると、
「誠っち、西の方で怪しい鳴き声が聞こえるんだ。
見てきてくれないか?」
川上のウサギが一匹走ってきて、誠に語った。
「判った…」
誠は空に浮かんだ。
西方面にゆっくり飛行しながら、耳を澄ます。
西側は、傾斜の急な山に向かっており、川は左手に折れて鋭角に曲がり、渓流になっていた。
ささやかだが滝があり、その音もあって、鳴き声は聞こえない。
(川上君の耳は、ウサギの影もあって、凄い威力だな…)
誠の透視は、他人には羨ましがられるが、現実には衣服の透視などはできない。
わずか一ミリにもならないような透視をするのは、とても困難なうえ、衣服も肌も均等な厚みになることはほとんど無いからだ。
だいたい、裸がみたい、と思うのは、微かでも好きだからだが、その子の筋組織や血管を見たりしたら、好きな分だけ衝撃も大きい。
そして近くは拡大で見れる誠だが、何故か遠くを望遠鏡のようには見られないのだ。
透視はある程度の距離までできるのだが…。
そして、今のような大自然が相手だと、透視もあまり意味はない。
ある木を透視しても、その先にも木があるだけだからだ。
みんなの思う透視と、違い過ぎている!
不満が、自分への怒りに変わりかけた誠だが、
(おい、誠!)
颯太が誠を現実に引き戻した。
遠くで、りりりり…、というような微かな声が聞こえてきた。
誠は、影能力には不満があったが、颯太はとてもいい相棒だった。
無論、真子ちゃんも田辺さんも頼りになるのだが、なんとなく誠の魂に一番近い位置にいるのが颯太のようだった。
颯太がいなくなったら、僕は一/三ぐらいの力しか出ないだろうな…。
思いながらも、誠は音のする方へ向かった。
きりきりきり…。
物悲しげな、寂しい鳴き声だ。
誠は二度目なので、それがペナンガランだとすぐに判った。
どこだ…。
果てしない森林なので、敵の位置特定ができない。
山は平坦ではなく、木で見えないが複雑な起伏があるため、音は反射して、当てにできない。
と…。
きりきりきりきり…。
別の声だと判る鳴き声が、聞こえてきた。
カラスなどでも、一羽が鳴いているのと二羽なのでは、声の違いで区別できる。
同じように、微妙に違う声のペナンガランが、近くにいた!
どうする…!
カブトにも来てもらうか、と考えるが。
(待って。
二匹とは限らないわ。
カブトは子供の側にいるべきよ)
真子ちゃんがアドバイスしてくれた。
確かに、こんな距離で二匹もペナンガランがいるのだとしたら、全体ではどれ程のペナンガランがいるのが、想像もできない。
誠は、手間取ってはいられなかった。
(誠君、左下と右の先だよ)
田辺が言った。
(田辺さん、判るんですか?)
誠は全く判らない。
(俺は勘がいいんだ。
任せてくれ)
田辺に感覚を任せると、すぐ誠も判った。
見えないものが、急に見えた感じ…。
寄り目にすると立体に見える写真のように、不意にペナンガランの位置が判った。
同時に影の手で仕留め、死体は研究のために、持ち帰る。
(田辺さんの、これは感知能力なのかな?)
田辺には、不明な事がまだあるようだった。
と、田辺が再び語った。
(誠君。
どうやら、森に死体がある)
誠が見ると、首を吊って亡くなった遺体だ。
全裸であること、顔が抉れて無いことから、犯人は明白だった。