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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
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145浅草は燃えているか

とは言え、飯倉は数カ月銃の訓練をした素人であり、映画のように走りながら振り向き、しかも三八マグナムを相手に命中させる、ような離れ業は不可能だ。


全弾撃っても命中しないかもしれない。

いや、むしろ当たるはずが無い。


真っすぐ立って両手で構えても、この暴れ馬のような銃は狙って当たるような代物ではないのだ。


映画の、顔より腕の方が太いようなマッチョ俳優は自在に使いこなすが、あれはフィクションである。


至近距離で当てて影繰りにダメージを与えるのが目的なのであり、少なくとも飯倉にそんなアクロバット射撃をするような腕は無かった。


それでも銃を見せて相手がビビればホルスターから抜く意味があるが、カマキリが銃を恐れるのか、走る速度を遅めて試す価値はあるだろうか?


かなり迷ったが、このまま追われていては六区に出てしまう。


飯倉はブルゾンの中に手を入れ、マジックテープの固定具を剥がした。


プラスチックの軽い銃に手が触れた。


素早く片手の中に収め、カマキリに見えるように、わざと肩の上に掲げた。


カマキリの反応が見たいところだが、飯倉には背後をみる能力は無い。


走りながら様子をうかがうが、それだけでは昆虫の心理など理解できるはずもなかった。


どうするか!


内調支給の最新ホルスターには、予備の弾薬カートリッジも二つついている。


弾は一つの弾倉で十二発撃てる。


当たらないまでも威嚇射撃をして、カマキリの反応をみる余裕は、微かではあるが、あった。


飯倉は、振り向き、足を大きく広げると、迫りくるカマキリに向け、マグナム弾を連射した。


驚くことに、最初の一発がカマキリの目玉に当たり、血しぶきが飛び散った。


二発、三発は胸に当たった。


飯倉を追って走っていたカマキリは、ほぼ即死に近い形で、横の民家の玄関引き戸の左右に賑やかに並べられた植木に頭から突っ込み、絶命した。


やった!


思うが。


上空のカマキリは、立ち止まった飯倉に急降下してくる。


銃に残弾があるかどうか、生まれて初めて町中で発砲した飯倉には分からなかった。


ただ、カートリッジを変える時間はないことは理解できた。


相手は、鳥の速度で接近してくるのだ。


銃を上空に構える。


引き付けて、間近の敵を撃ったほうが無論、命中率は上がるのだが、飛んでくるボールに冷静に対処するほど飯倉は、球技には精通していない。


格闘技一本で生きてきたのだ。


ただ敵のいる方角に引き金を引くことしか、出来ない。


引き金を絞ろうとした瞬間!


「飯倉さん、ちょい待ち!」


明るい声が響いたと思うと、スケボーが空中を舞った。


飯倉は、何が起こったのか分からず、ただ驚愕していた。


スケボーに乗った青年、アイチが現れ、カマキリに腕を突き出した。


パンチではない。


ただ触れただけ。


そう見えた。


だが。


空中のカマキリは、高圧電流を流されたかのように、空中で弾け、全身から血を噴き出して、


どたり、とアスファルトに落ちた。


六本の手足が奇妙に曲がり、首は斜めに空を見上げていた。


ジャー、とスケボーをカーブさせて止まると、まだ少年の面影を残した青年、アイチは、へへっ、と笑い。


「派手にやったね。

合羽橋から銃声が聞こえたぜ!」


白い歯を見せた。


飯倉のような筋肉は無い、スマートな体だ。


だがスケボーの名人であり、運動神経の塊だった。


飯倉は、はぁ、と肩の力を抜き。


「助かったよアイチ君。

君は強いな!」


触れれば、誰であれ一撃で倒せる、というのは、かなり圧倒的な力だ。

特に、青年のしなやかな肉体と、運動神経、スケボーの腕が備わっているならば。


「やー、俺は飯倉さんみたいな筋肉に憧れるけどな」


アイチはスマートな腕を見せた。


「スケボーには邪魔なんじゃないか?

筋肉が硬くなれば、動きは鈍くなるぞ」


二匹のカマキリの死体を前に、世間話を始めた二人だが、信介からスマホが届く。


「五重の塔に着いた。

敵は塔の一番上にいる」


暗に早く来い、と言っていた。


浅草寺の塔になど、どう入ればいいのか分からないが、寄生虫を操る影繰りは、そこで全てを操っているらしい。


今戦って分かったが、これが二百もいたら、手のつけようがない。


飯倉はアイチに頷き、走り出した。






「全く忙しいね。

上野の次は浅草だって?

敵は観光客か何かか?」


カブトはスマホをつけながらボヤくが、井口は。


「いや、鳥には先に行かせてるが、とんでもないのがウヨウヨいるぜ」


教えるとユリコも、


「百五十って、どうにかなる数字か?」


金髪を搔き上げた。


「まー、最終的に誠がどうにかするだろ」


ケロっとカブトはゲームを始めた。


「奴は強いけど精神的に不安定なんだよな」


その、誠を揺さぶっている一人であるユリコが、呟いた。


「思春期の童貞だぜ。

不安定がウリみたいなもんだろ」


ケラケラとカブトは笑うが、手は両手で忙しくシューティングゲームを操っていた。


「奴ってあれか?

虐められてた、とかか?」


ユリコはカブトのスマホを覗き込みながら聞いた。


「と言うより自閉症気味の少年だってさ。

一人が好きなんだが、最近は影繰り仲間がチョッカイ出すから、余計不安定っぽいんだそうだ」


井口は吉岡先生の受け売りを語ってから、


「ま、しかし、何も知らない中学生が、急に影繰りの殺し合いに放り込まれたんだ。

無理も無いだろ」


全く血縁的にも関係なく影繰りに目覚める、というのは非常に稀な事だった。


桜庭学園の生徒でなくとも、大半の影繰りは、親類に影繰りがいるとか、霊能力者や超能力者がいる、宗教家の家系である、など、何らかの特殊な世界を知る立場にある場合が多い。


霊能力は、大概は影の力の薄いものだし、占いや超能力も軽度の影能力な場合が大半だ。


最近はほとんどサラリーマン化している宗教家も、本山や本社などの上に行けば、多少力がある者がいるか、影繰りを雇っている場合が多い。


バチカンのエクソシストたちも、影繰りに神学を教えさせて使っているそうだ。


誠が不意に影に目覚めたのは、内調が調べても、全く理由の分からない、それこそオカルトみたいな話なのだ。


ケケケ、とユリコは笑い。


「小百合の奴が男と話すなんて珍しいんだぜ。

男は臭せぇ、なんて言ってる奴なんだから」


「まー兄さんが気に入る程、中性的な奴だからね」


「レディはあれで女好きだからな」


井口は呆れたように言う。


「男は、ちょっと懲りさせちゃったんだよ。

誰かさんが」


本人がケロリと語った。


カブトはアメリカに渡る前、実の兄であるレディを殺そうとしたことがある。


それは逆にレディの影繰りの力を目覚めさせ、返り討ちにあったカブトは大学生と共にアメリカへ逃亡した。


帰国したのは昨年末だ。


その顛末を知っている井口は複雑な表情を浮かべたが、カブトはゲームに夢中だ。


「そろそろ浅草だぞ」


井口は言って隅田川沿いに車をつけた。


吾妻橋の下には水上バスの乗口がある。


先には松屋デパートがあり、この辺を押さえられると敵が暴れた場合、避難が滞る要衝だ。


「なんだ、あのカマキリ……」


唸るユリコに、井口が、


「あんなのが百以上、この街にウヨウヨしてる。

信介たちが元凶を倒しに行ってるから、俺達はこの辺を固めておく」


やがて地下鉄の入り口近くに、別の班も集まる予定だ。


陽気な賑わいを見せる街だが、カウントダウンは始まっているようだった。





誠、川上、ユリ、小百合の四人は本部に帰ろうとしたのだが、途中で止められ、雷門通りの端に降りた。


「ちょっとシャワー浴びたいんだけどな……」


誠のシャツは焦げ臭く、汚水の匂いもつき、水浸しにもなっていた。


「あんたなら平気でしょ。

その辺の公園で水でも浴びたら」


小百合は辛辣に語った。


「いくらなんでも無理ですよ」


誠は、まともに返答する。


「誠っち。

ジョークぐらい分かったほうがいいぜ」


川上が助け舟を出すが、ユリは。


「ホテルとか用意して欲しい」


とブツクサ言っていた。


「とにかく、ここは浅草線やつくばエクスプレスの出入り口だから、守らないと駄目だから」


生真面目に誠は言う。

道の先に遠く雷門が見える。

道のクランクを折れれば、歩いても一時間もしないで上野に出られる距離だ。


そちらまで怪物を進ませてしまえば、山手線、京浜東北線、数々の地下鉄を経れば東京じゅうに無数のカマキリが広がる。


誠たちは地下駅の入り口を守ると共に、地上の道路も押さえなければならなかった。





美鳥と中居、高屋の三人はつくばエクスプレスの先、浅草寺側の出入り口に車を止めた。


浅草三丁目交差点に近い場所で言問通りと国際通りの合流点近くだ。


浅草の外れになるので、さすがに観光客は少なかったが、それでもカマキリたちはウロウロしていた。


「この道の先は入谷の駅もあるし、重要やよ」


高屋が教える。


「まー心配ないだろ。

浅草近くに誠もいるし、松屋の方にはカブトやユリコもいるそうだ。

んで、言問橋には芋の助とハマユ、それになぜかちびっこ軍団の勇気と福も一緒らしい」


中居はジャケットの裏に収めた銃弾を補充していた。

対物ライフルレベルの弾丸なら、おそらくカマキリも仕留められるはずだ。


「嫌な予感がするわ。

この集まり方、新宿の時みたいに感じる」


美鳥は嫌な過去を思い出していた。


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