表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
140/153

140変貌

良治がバイクで、飯倉は鍛え上げた己の足で外周を回っている。


信介は和風雑貨屋に居ながら、アイチがこちらに向かっていること、大と小学生が内調の車でもうすぐ来ることを確認した。


作戦はうまく回り始めている……。


信介は歌うように考えたが……。


ピリッ……。


何かが信介の神経を震わせた。


敵の何かが変化したようだ。

今、この瞬間に、だ。


なんとなくカードを見なくても、どう変化したかは想像できた。


寄生虫は、ただ体を乗っ取るだけではない。

ハリガネムシならカミキリを水に落とそうとするし、鳥に食べられるように木に登らせる寄生虫もいる。


自在にコントロールが可能になったのなら、次は宿主を思うように動かす。


それは必然だった。


時間をかけ過ぎた……!


信介は愕然と気がついた。

何故逃げ回っていたのか、もう少し考えれば解ることだった。


寄生虫は成長するのだ。

卵は幼虫になり、どういうルートを通ってか、脳に向かう。


まずは親の指示に従いながら逃げ回るが、無論それがゴールではない。


幼虫は脱皮したり、蛹になったりして、然るべき成長を遂げると……。


真の目的のため動き出すのだ。


奴ら、何を狙っている?


信介は、指の間からタロットを一枚、取り出した。


カードの名は、悪魔……。


カードと共に、おおよそ、浅草の未来が見えてきた。




男は浅草演芸ホールに向かっていたが、不意に微かな痛みを首筋に感じた。


反射的に手で首を叩くと、小さな硬い虫に触れたが、虫は素早く男の手をすり抜けた。


蚊では無いし、アブほどの痛みもない。

既に最初の痛みは消えていた。


男は気にせず商店街を曲る。


あれ……。


道はどっちだったかな……。


演芸ホールには何度か来ているはずだったが、曲がり角でも間違えたのか、見慣れない街並みに出てしまった。


なんだか、雲でも差してきたのか陽も陰ってきたように薄暗くなる。


人々とすれ違うが、皆、一様におぼろげな影が歩いているように感じた。


まあ、演芸ホールなど昼の最初は若手の未熟な芸人しかやらないものだ。

少し遅れたところで何の損もしない。


しかし、迷子になったのは困りものだ。

たぶん、少し歩けば隅田川なり、大かな道路なりに出るはずなので、まっすぐ歩けば道は分かるはずだ。


と、何が気になったのか、男は狭い路地へ入ってしまった。


おかしいな。


知らない路地に、何故、俺は入り込んだんだ?


人一人が歩けばやっとの道に、飲み屋やらH系のDVD店などがゴチャゴチャと並んでいた。


あー、そういえば、いかがわしい本も欲しい気がするな……。


男はフラフラと、狭く急な階段を登った。


電子書籍などでも容易く購入できる本だが、紙媒体だとボカシなどが薄かったり、特典があったりする。


弾む心で考えながら、急な階段を登ると、狭い書店が現れた。


その手の月間漫画誌や写真雑誌が並び、奥にDVDやブルーレイ、土地柄かビデオテープも並んでいる。


好みのモデルを選んで手を伸ばす……。


あれ……。


俺の手か、これ……。


それは日焼けした、それに、やたらと指の長い骨張った手だった。


いつの間にか、爪も異様に長く伸びてしまっている。


前に切ったのはいつだったかな……?


昔は気の利いた床屋なら手の爪ぐらいは切ってくれたものだが、一回数千円もかかるような床屋には、もう何十年か行かなくなっている。


格安、髭剃りなし、などにも通ったが、今は電動バリカンで済ますようになっていた。


小遣いは上がらないが、何もかも高くなったからなぁ……。


牛丼ですら……、ですら……。


ですら、って何語だ?

知っている単語を思い出そうとしてみたが、出てこない……。


あれ、俺は何処にいるんだ……?


目の前には、色のついた四角や丸が、ぼやけながら揺れていた。


ぽた…。


顔を何かが流れた。


骨張った手で触ってみると……。


血だ……。


俺は、事故にでもあったのか……?





Hな本を扱う本屋のカウンターでは、直接客と顔を合わせない。


お互い気まずいだけだからだ。


ぼやけたプラスチックボードが客とカウンターを遮る。


が、無論、防犯カメラは無数に並んでいて、バイトはそれを見張ることになってある。


だが、昼間などろくに客などこないし、仕事慣れしたバイトは、いつものようにユーチューブをイヤホンで聞いていた。


バイトの横のモニターでは、男の変態が克明に映されていた。


顔が縦に裂けていく。


だが、思うほど血は流れない。


滴るぐらいだ。


縦に裂けた顔の中から、カマキリのような顔が、体液にまみれてヌラヌラと光りながら現れ、左右に割れた人の顔から、ゆっくりとカマキリの長い首が伸びていっていた。




午後の浅草は、観光の外国人や、デートをする学生たちで賑わっていた。


その雑多な人混みの中には、血だらけの服を着たカマキリも混じっていたが、歩き方は普通に人間であるため、ある種ハロウィンの仮装のように街に馴染んでいたためか、気づかれない。


女子高生たちが身を寄せ合って笑い転げながら、流行りのスイーツを頬ばっている。


髪を染めた大学生が、足を止めてディープキスをし始める。


老婦人の集団は、カマキリの横を夢中で話しながら大笑いしていた。


やがて地獄と化すだろう街は、今はまだ、華やいだ観光と遊興の空気の中でまどろんでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ