14妖怪
車を出してもらい、誠たちは井口がペナンガランに追いかけられた、という山道に向かった。
子供たちなりに会議を開き、ここが最も出現確率が高い、と判断したらしい。
誠がペナンガランを倒した野方の団地は却下された。
あれはおそらく目撃者が新聞部の記者であったため狙われたのだろう、という子供たちの推測だった。
が、楽しくおやつを食べ始めた彼らを見て、誠は、伊豆に行く、というイベントに子供たちがワクワクしているだけ、と気がついた。
カブトはさっさと助手席に陣取り、居眠りを始めた。
誠と川上は二列目、三列目に分乗し、子供たちの面倒を見る羽目になったが、なんと言っても実際にペナンガランと戦ったのは誠である。
興奮した子供たちに飲まれる結果になった。
「どんなだった?」
「強いの?」
「血は吸われたか?」
質問を前後左右から浴びせかけられる。
子供たちはお菓子まみれの手で誠にさわり、歌を歌い、山だ川だと大騒ぎをしている。
道を数時間走って、やっと山道へ行き着いた。
いくら釣りが好きとはいえ、よくこんな所まで来るな、というのが誠の感想だった。
行って帰るだけで五時間はかかる。
おそらく釣りを楽しむために、日の出前に出て、深夜近い時間に帰宅するのだろう。
そういうのが楽しいんだろうな…、とビジネスホテルに泊まって地下街を巡りたい誠は理不尽に呆れた。
まずは名古屋か仙台辺りに、誠は行きたかった。
仙台は地下街は無いが、地下鉄がある。シンプルなので一泊か二泊で端まで見られると思う。
名古屋は地下街も発達しているし、地下鉄も多い。
古い設備も多いので、今のうちに見届けたい。
と、またしても群衆の中で引きこもった誠だが、
「よし、これから山道だぞ」
とドライバーの声に、我に返った。
砂利道に、車は入っていく。
小さめのワゴン型四輪駆動車なので、その程度はまず問題ない。
ただし、川上は感知能力に集中するので、当然ながら誠が子供を担当することになる。
車内は、子供五人の声で大変な煩さだが…。
川上は、影のウサギを車の四方の屋根の上に配置して、その耳を使って周辺を警戒するつもりのようだ。
「そういえば、どうして新聞部の取材した飯森山じゃなくて、この渓流にしたの?」
誠は、愛理ちゃんに聞いてみると、
「だって道なら、車で逃げられるじゃない」
逃げる算段まで考えていたらしい。
「俺たちのロボット、空が飛べないんだよなぁ」
勇気は残念そうに語った。
なるほど、五人の合体ロボットは空は飛べないが、車になるので、最悪、それなら逃げられるという訳だ。
「その辺から川に降りられそうだぞ」
とドライバー。
子供たちのメインのイベントは、妖怪と邂逅する、というよりは川遊びなので、大喜びで車を飛び出した。
慌てて誠も追いかけるが、子供たちはいざとなれば変身できると思っているので、岩を飛び渡ったり、結構な流れに足をつけて喜んだりして、大騒ぎだ。
子供たちは沢蟹を見つけ、追いかけ始めた。
「げっ!
キモい虫がいたっ!」
おそらくヤゴか川虫を見たらしい勇気が叫んだ。
大騒ぎの子供たちを、誠は遠くから眺めた。
川上は、ウサギを増やして、集音に集中している。
ペナンガランは独特の鳴き声を放つ、と聞いているからだろう。
周囲は、林道をなんキロも進んだ先なので、深い山あいの渓流だった。
子供たちどころか、誠より巨大な丸石が、川原にはゴロゴロ存在しており、巨石が水の流れを複雑にねじ曲げ、加速させていた。
選定などされたこともない森林が、よじれた川の両側を覆い、川に適度な日陰を作っている。
魚にとって最大の敵は鳥なので、こうした木が川を遮っていることは、魚には好条件なのだ、と誠もどこかで聞いたことがあった。
しかし、ペナンガランには通用しないわけかな?
妖怪たる由縁なのだろうか?
影で倒せた訳だからペナンガランも影なのだと誠は思うが、しかし妖怪というものは、伝承でも僧侶や武士に倒されている。
本当の妖怪なのだとすると、血を吸われる、ということか?
たぶん…、と誠は考える。
ゾンビを作る影繰りがいたように、おそらくペナンガランを作る影繰りがいるのだろう。
静香が襲われたのも、その証拠だ、と思う。
目撃者をどこまでも付け狙う妖怪、と考えることも出来るが、ネットをある程度する人間なら、静香の存在も比較的簡単に突き止められるだろう。
そして、一人になるのを見計らって襲ったもの、と誠は考えた。
妖怪だから魔力で、とも言えるのだろうが、しかし妖怪であれば、動画撮影に参加していただけの静香を、そこまで付け狙う意味も、あまりないはずなのだ。
撮影していたのは別人だし、一年である静香は、この撮影に何ら主体的には関わっていないのだ。
怨み、などで行動する妖怪ならば、静香以上に襲わなければならない人間が、当日参加していない者を含めて、大勢いるはずだった。