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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
128/153

128魚

警備員は慌ててハッチを開けると、走るように誠の横を通り過ぎて、穴に入った。


足元では、ドンッ、ドンッ、と魚が鉄板に体当りし続けている。


その度、椎茸程も鉄板は盛り上がり、もはや鉄板全体が持ち上がりかけていた。


「やべーな、いつまでも持つか分からないぜ、刑事さん、先に行けよ」


川上は自分より頭一つ大柄な刑事を先に行かせた。

刑事は小さく頷き、敏捷に走った。


すぐに誠の横を駆け抜ける。


「小百合さん、先に行けよ」


川上はハッチの前で声をかける。

が、


「馬鹿か!

いざというとき、新米やユリじゃ乗り切れないべ!

ユリと川上は、軽いから同時に行け!」


ユリと川上は顔を見合わせるが、モタモタしている間にも、魚は鉄板をこじ開ける勢いだ。


頷き、


「じゃ、頼むぜ、小百合さん!」


言って二人は同時に橋を走った。


天板は既に小山のように盛り上がり、両端のボルトの隙間からは泡立った水が滴っていた。


微生物のせいか臭いはないが、不愉快に白濁した汚水だ。


とても生き物が生命を維持できる水ではない。


やはり影には違いないらしいが、しかし、何故タンクの中にいるのか、あまり意味は判らない。


だが……。


一本のボルトが、真ん中で折れたのか、ついにキシッと音を立てて弾け飛んだ。


「早く来いよ、小百合さん!」


川上が声をかけるが。


ガンッ、と物凄い音と共に、鉄板の真ん中に穴が開き、凶暴そうな魚の顔が飛び出してきた。


誠は蛹を撃ち込む。


魚の頭が吹き飛び、辺りに赤黒い肉片が飛び散った。


「問題ない!」


小百合は言うと、髪の毛を天井に伸ばした。


ポンプの集まった部屋の天井には無数の配管が走っていた。


小百合は、髪を配管に巻き付け、空中を飛んだ。


魚たちは下で大暴れだが、小百合は一飛で誠の横に降り立った。


ほぼ同時に、幾つかのボルトが同時に飛び散り、鉄板が吹き飛んだ。


泡立った汚水が、雨水タンクから溢れ、無数の巨大魚が飛び跳ねる。


誠たちが新しく入った部屋は、巨大な倉庫だったらしい。


高いスチール棚に、沢山の段ボールが積み込まれ、何故か照明はみな、オレンジ色だった。


誠は、


「離れて……」


と皆を穴から離すと、引力で壁と棚を引き合わせ、魚の穴を塞いだ。


「小田切、進む先は判ってるの?」


小百合の言葉に、小百合とほぼ同じ身長の誠は頷き、


斜め上を指さした。


それは広い倉庫の、天井と壁の交わる部分だ。


今までと同じように、穴が開いていた。


蛍光灯らしき、青白い光がぼんやりと光っていた。


「おいおい、どうやってあそこまで登んだよ……」


川上が唸る。


倉庫は、無駄に広く、高い。


穴までは十メートル以上はありそうだった。


「僕が運びます」


誠は無表情に語る。


「それは無理だな!」


え、と全員が振り返ると、そこには、誠が水で流したはずの蜘蛛少年が、スチール棚に蜘蛛の巣を作っていた。


「あー、なんで汚水タンクに影がいるのかと思ったら……」


誠は影の正体にやっと気がついた。

少年はにやりと笑い。


「小蜘蛛は微生物を喰らい、魚に育ち、汚水タンクを破壊したのさ」


アハハハ、と少年は自分の言葉を気に入ったように笑った。


よく見ると天井の赤い光も、蜘蛛の巣に覆われていた。

いくらかの小蜘蛛は誠たちがポンプ室に入った時には脱出できていたようだ。


「まーよく、ここまで来たもんだ、とは思うよ。

とはいえ、誰が強いのかは、もう判っている」


言うと、一本の糸が斜めに走った。


それは、奥に立っていた小田切誠を斜めに切った。


鮮血が吹き上がり、誠はボロ雑巾のように弾け飛んだ!


「誠っち!」


川上が叫ぶが、誠はスチールの棚にぶつかり、そのまま床に落ちた。


Tシャツもハーパンも、中のボクサーパンツまで切断され、哀れな幼い裸を晒していた。


「キャハハハ!

ガキっぽいと思ったらツルツル君か!

皮も余ってるけど、意外にデカいんじゃないか、見た目と違って!」


少年は腹を抱えて笑った。


「川上、ユリ、集まるべ!」


小百合は素早く二人を集めた。


慌てて男二人は小百合の横に集まる。


「なんとかユリの虫で仕留めるしかないべ!

川上がウサギで相手の気を反らすべ!」


すぐにウサギが八匹、すごい勢いで少年に向かうが、見えない蜘蛛の巣に捕まる。


小百合の髪が、鋭い槍のようになり、蜘蛛の巣を切り裂いた。


予め川上のウサギに乗せてあった三十の虫が、その隙に飛び立ち、少年に向かうが。


虫たちは、少年の十センチ前で見えない蜘蛛の巣に動きを止められていた。


「駄目だよ……!」


ユリは嘆いた。


カカカ、と少年は勝ち誇り、


「影は相性なんだよ。

虫と蜘蛛の巣、最悪の相性なのさ!」


少年は学生服で大笑いした。


「そのようだね……」


不意に、自分の耳元で声が聞こえ、勝ち誇っていた少年は、鮮やかに化粧をしたような顔を大きく歪め、ヒッ、と叫んだ。


裸の誠が、少年の背後に忍んでいた。


「……し、死んだはずじゃあ……?」


「残念だね、体が切れたぐらいじゃあ、僕は死なない」


少年は怯えながらも。


「そ、そんなの僕だって同じだぞ……」


「まあね」


誠は、少年を石化した。


「みんなのおかげで、なんとか倒せたよ」


棚の上で声を上げる。


「誠っち、降りてこいよ?」


川上が言うが。


「あー、殺されはしないものの、僕って裸なんだよね……」


もう小百合にも見られてるよ、と川上は思うが。


「俺のTシャツを着ろよ。

誠っちなら、ちんこも隠れるだろ」


川上はシャツを脱いで誠に投げた。


確かに、川上より小柄な上に真子と体を共有する細さの誠は、川上のシャツでスカート並みに体を隠せるが。


両手で股間を押さえ続けていた。


「あんた、それじゃ戦えないべ!」


苛立って小百合は誠の尻を蹴飛ばしたが。


「いや、下手に動いたら見えちゃいそうで……」


さっきの鋭い殺意は何処に消えたのか、泣きそうな顔になって訴えた。

ちょっと、意外にデカい、と言った蜘蛛男の言葉が誠の胸に刺さっていた。


そう言われちゃうと、見られたら恥ずかしい……。


「僕、パンツ無くてもいいから、僕のパンツ使って」


とユリも言う。


小百合はニタリ、と。


「あたしが毛を生やしてやるべ」


誠は慌てて、


「や、止めてよ小百合さん!」


誠が心底嫌そうに悲鳴をあげると、みなが笑った。




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