表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
127/153

127汚水

誠たちは、足のスニーカーを濡らしながら貯水槽を抜けた。


「どう、川上君。

臭いは?」


「誠っち、それが汚水の臭いが強くて、ハッキリとは判らねーんだ。

だが。

なんか生き物はいるみたいだぜ」


貯水槽の先は浄化設備の操作盤や汚水タンクの駆動モーターで、独特の音がしていた。


ある種、心音のようにも聞こえる、ドッ、ドッ、ドッと振動を伴った駆動音だ。


「幾つかのプールを通して水を濾過するみたいだね。

汚物は一箇所に集められて薬剤で溶かされている」


誠が言うと、警備員が、


「ああ、それは微生物なんすよぅ。

それが汚物や紙やなんやらをみんな食べちゃうらしいスぅ」


何やら凄い設備であるらしい。

地下建築の愛好家である誠は、無論、内部のメカニックにも大いに興味があった。


特に地下といえば、排水や汚水処理は必須の機能だ。

なにしろ地下数十メートルから汚物とはいえ固形物を汲み上げるのは大変な作業だ。

それが、独自の施設で、ほぼ水になれば簡単に廃棄できる。


「あのね、そんなのどうでもいいべ!

何かいるなら、何処にどういう奴がいるのか調べるべ!」


小百合は苛立った。


とても汚水タンクに髪を突っ込む気にはならない。

川上が役に立たないなら、ユリにやらせるなり、誠自ら捜索するなり、積極的に動いて欲しかったが、どうも緊張感が欠けるように見えた。


使えない警備員などと雑談している場合ではないはずだ。


「ちょっと見てみるよ」


幽霊は嫌がったので、とりあえず影の目で汚水タンクに侵入してみた。


目だけなので臭いは感じない。

だが、水中を透視すると、なんと魚が泳いでいた。


「えっと魚がいますね……」


しかも、そこそこの群れのようだ。


「はて?

魚までは飼ってないと思いますよぅ」


確かに、汚水タンクなのだ。

動物の生息できる環境ではない。


となると、影、ということになる……。


「とりあえず一匹、出してみましょう……」


誠は一匹の魚をタンクから透過した。


とはいえ、魚の名前など誠は知らない。


切り身や開きより生の魚など、誠は見たこともなかった。


「見えた?」


仲間に丸投げして、誠は聞いた。


「見たことないよ」


元々、ユリは期待していない。


「俺、肉派なんスよね」


川上らしい答えだ。


小百合をチラと見るが、


「回ってない魚は管轄外ね」


あっさりと小百合は答えた。


「バスの一種のように見えるな……」


考えながら語るのは老刑事だった。


「バス?」


「魚の種類というより、スポーツフィッシングの対象魚、と言ったほうがいいかな?

引きが強くて、釣るのに面白い魚だな。

スズキなんかは食べられるが、普通は食べても美味くないから、基本キャッチ&リリースの魚だな」


誠の問に、刑事は簡潔に答えた。


井口と話すので、ぼんやりとは誠も判る。

ルアーを工夫したり、釣りの過程だけを楽しむ、と言うような感じだと思う。


「そのバスが何だべ!

早くタンクに戻して、橋を渡ればいいじゃない!」


確かに、汚水タンクまで気にしても仕方なかった。


が、それなら、何故、影が汚水タンクにいるのか説明がつかない。

タンクは無論、銀色の金属の天板で閉められており、臭いの拡散や汚物の飛沫防止をしている。

ある種の病気は汚物からも感染するため、必須の要項だった。


だから影だろうと妖怪だろうと、特に気にすることはない。


汚水タンクは一メートル溝を掘って作られているので、誠たちは、浄水側のハッチを開けて金網床の橋を十メートルほど渡り、先のコンクリートの壁に開いた穴から、奥に入るだけだ。


浄水と汚水の間は、柵と硬質ガラスで完全に仕切られている。


川が増水した場合、水が汚水タンクに逆流する可能性があるため、仮に汚水タンクが水没したとしても、浄水側には水は入らない仕組みなのだ。


なので間のハッチは頑強で、重い。

ほとんど船の外壁ハッチなみだ。


川からの逆流の水圧は、それほどに強いのだ。


「じゃ、僕から行きます」


誠は重いハンドル型の鍵を回して、金網の橋に立った。


下は数十センチで金属板なので、さほど高さは感じない。


ただし……。


ドンッ!


金属板に、下から何かが当たった。


見ると、板がべコリと膨らんでいる。


形で、それがあのバスの頭なのは容易に想像がついた。


「おいおい、ヤベーんじゃねーか?」


川上は心配するが、


「いや、鉄板はかなりの厚さだよ。

さすがに破れないよ」


言うものの……。


ガンッ!

ゴンッ!


鉄板のあちこちで、魚がぶつかる。

金属板は、見た目では五センチ近く飛び出していた。


まるで大型ハンマーで叩いたような膨らみだ。


体が五、六十センチはあったとはいえ、大した怪力だ。


普通の魚の力ではない。


仮に、もし鉄板が無かったとしたら……。


それはとんでもないパワーを発揮するだろう。


「小田切!

早く渡るべ!

後ろがつかえてる!」


ああ、と誠は先に進む。


橋の長さは十メートルなので、すぐに穴に行き着くのだが、その間も、天板はボコボコと魚がぶつかり、膨れ上がった。


「先に警備員さんに来てもらえますか?

この部屋の先に行くのに、穴がなければ鍵が必要ですから」


警備員は悲鳴を上げて怖がったが、小百合はマジの蹴りを大人の尻にぶち込んだ。


「喚くな!

早いほうが安全だって小田切は言ってんだべ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ