124断鉄の蜘蛛
無論、逃げる気は無かったが、しかし、誠たちは一瞬で蜘蛛の糸の牢獄に捕らえられてしまった。
ただし、さっきの爬虫類人間に比べれば、小柄な少女は倒しやすい。
誠なら透過して接近も出来るし、ユリの虫や、小百合の髪の毛も、川上のウサギでも戦えそうだ。
誠は、彼女の鉄をも切断する糸から仲間を助けるために後ろに下がり、三人に頑張ってもらう事にした。
「誠っち、ここは売られた喧嘩は俺が買うぜ!」
川上は、ウサギを召喚した。
「影で、何かを作る系の能力か。
しかし、それにしたってウサギとはね!
笑えるよ」
廊下の奥で少女は嘲るが、ウサギたちは蜘蛛の巣を避けて、廊下に侵入し始めた。
「誠、助けないでいいの?」
とユリは囁く。
あの少女なら、三十の虫を操るユリならば、容易く倒せそうだ。
ウサギたちは飛び跳ね、壁を蹴り、少女に迫る。
だが……。
ウサギが、不意に空中で見えない何かに堰き止められた。
少女は爆笑する。
「ギャハハ、蜘蛛の巣だぜ、貼り付かないとでも思ってたかよ!」
どうやら、切断する糸だけでなく、見えない、相手を止める糸もあるらしい。
「ヤバイわね……」
小百合も呟く。
あの第二の糸があるとすると、川上だけでなくユリの攻撃も、もしかすると小百合の攻撃も止められるかもしれない。
誠は透過で避けられるが、下手に接近すると、今度は仲間から孤立する事になる。
誠は、ウサギの近くに蛹弾を撃ってみた。
蛹弾をも受け止める強度が、第二の蜘蛛の巣にはあるらしい。
蛹を発火させると、蜘蛛の巣は青い炎を発して一瞬で燃え、ウサギは自由になったが、見えない蜘蛛の巣を警戒すると、素早く前進する訳には行かなくなった。
「大丈夫。
後ろから援護するから!」
誠は叫んだ。
「へ、何が援護だよ、弱いくせに!」
口を歪めた少女が、右手を突き出した。
誠の体を糸が貫く。
うわっ! 誠は叫び、糸の刺さった部分からは血が微かに飛んだ。
「誠っち、任せたぜ!」
川上はウサギたちを前進させた。
が、またしても見えない網に引っかかる。
糸で串刺しになった誠は、口から蛹を吐き出した。
が、蛹は手前で、別の見えない網に捕まった。
「ヘヘヘッ、お前ら馬鹿じゃん!」
少女はウケるが、何故か蛹は網を抜けて、ウサギの網に到達した。
燃える網に、少女は激怒して悔しがるが、再びウサギは、後一メートルのところで捕縛される。
「ハハハ、どのみち、僕のところまでは来れないんだよ!」
言いながら、誠の体に、地面から新たな糸を数本、突き刺した。
誠はギャアと、叫ぶが。
ウサギは、ツルンと網を抜けると、少女に襲いかかった。
が、少女は天井に飛び上がり、自分の周りに切断する糸を張り巡らせた。
「馬鹿め、僕がウサギなんかに触れられるもんか!」
「そうかい?」
川上は薄く笑い、ウサギにジャンプさせた。
見えない網を少女は張るが、誠が透過したので、一瞬止まっただけで、ジャンプを続けた。
触れると切断される糸が四方に張ってあるが、ウサギは突然、リスになり、糸をくぐり抜ける。
そして逆さになり天井に貼り付いていた少女の背中を、力の限り蹴り上げる。
ぐわっ!
と少女は叫ぶが。
一瞬で、少年の姿は消え去った。
「な、何だ……?」
川上は愕然とするが、小百合が。
「蜘蛛になって散ったべ!」
え、とよく見ると、まさに蜘蛛の子を散らす、の言葉のように、小さな蜘蛛が四方に走り去っていく。
「やろっ!」
リスは追おうとするが、数メートル奥の網の先に、蜘蛛が集まり、少女に戻った。
「バァカ!
そんなんで僕がやられるかよ!」
網だけでなく本体までもが自在に変化するとなると、誠も、この小柄な少女をナメていた、と認めざるを得ない。
普通に戦っても強い敵だが、相手の陣地の中では、かなり手強い相手だった。
近距離の打撃では、倒しようのない敵だ。
しかも敵にしてみれば、積極的に誠たちを攻撃する必要はない。
時間を稼げば稼ぐだけ、スカイツリーの木は茂り、勝利は近くなってくるのだ。
なにか無いのか……。
誠は透視で周囲を調べた。
多量の電気を使うため、電気の配管、地下水を排水する配管、そして……。
地下水は電気設備の天敵だったため、予め幾つかの集積タンクに集められ、まとめて排水されていた。
排水は、目の前の北十間川へ排出されている。
「川上君、もう一度、奴を攻撃して!」
誠が叫び、瞬時にウサギたちは少女に突進した。
しかし、その間には切断糸や捕縛網が張り巡らされていたので、少女は余裕で嘲るような笑顔を見せた。
が、誠は全てを透過させた。
もう、敵を欺く必要もないのだ。
八匹のウサギが少女に殺到すると、少女は小蜘蛛に変じた。
そのタイミングで、誠は地下水のパイプを切断し、水を廊下に透過させた。
一瞬で少女は排水パイプに流され、更に地下の地下水プールに投げ出され、ポンプにより吸い上げられて川に排水された。
すぐに誠はパイプを修復し、水は流れ去った。
床には、何匹かの蜘蛛が、床に貼り付いてもがいていた。
ウサギたちが、それを丁寧に踏み潰した。