120蜂の群れ
爆炎で顔をそむけたスズメバチだが、なんと顔の半分を失いながら、平然と誠たちに迫ってきた。
「マズいぜ誠っち、どうやら奥にも蜂の巣があるようだ!」
川上が叫んだ。
誠は影の手で雀蜂を切り刻んだ。
外骨格は巨大さもあり、かなりの硬度だったが、吹き飛んだ頭から体内に影の手を入れると、筋組織を破壊し、なんとか蜂を撃退した。
そして、颯太たちに奥を見てきてもらった。
(やべぇぞ誠、ここを見てみろ!)
透視してみると、地下の底部分に、数十メートルに及ぶ巣が作られていた。
大きさ的には女王蜂がいてもおかしくないが、透視では蜂だらけでよく判らない。
大体が虫嫌いの誠は、どういう姿が女王蜂なのかも判らなかった。
ただ巣の大きさは車10台以上の平面の上、高さも同じほどはある。
「燃やそう!」
虫嫌いの誠は、即決するが、後ろの警備員が、
「待ってよ君ぃ!
大損害だよ、そんなの!」
と悲鳴を上げた。
誠は、影の手で十数メートル下の、巣の見える位置まで全員を下ろした。
「嘘だろ!
クジラ並みじゃないか!」
ユリも驚く。
「蜂がこっちに気づかない内に、燃やすしかないですよ」
誠は言うが、警備員は被害金額を口にする。
「馬鹿か!
あんなの駆除業者じゃ駆除出来ないべ!
あたしらも、あれだけの蜂をいちいち相手に出来ない。
放って置いたほうが損害がデカいべ!」
小百合のストレートな意見に、刑事も同意した。
「これは、確かに燃やせるものなら燃やすしか方法はないよ。
それに駐車場なら消火設備は万全だろう?」
「はい、窒素と泡消火が完備されていますが……」
おどおどと語る若手警備員に老練の刑事は、
「それなら構わないだろ。
あんなのが街に出たら、途方もない事になる。
焼き払えるものなら、早急にやってくれ」
おっとりしたお爺さんかと思ったら、なかなか決断力のある人のようだ。
「だけど、どう焼くべ?」
小百合に誠は。
「ガソリンを使います」
確かに駐車場なので車は捨てるほどある。
そして誠は、リーキーからガソリンの抜き方は教わっていた。
車から抜いたガソリンは、反重力でうまく巣にかけ、全体にガソリンが回ったところで、蛹弾を数発撃ち込んだ。
激しい爆発を、誠は無数の影の手で覆って仲間を守った。
だが、同時に羽音が密閉されたコンクリート空間に響き、十を超える雀蜂が飛び立ってきた。
「みんな、少し抑えていて」
誠は言うと、再びガソリンを抜く。
川上はウサキで応戦するが、重装甲の雀蜂にはあまり効果はない。
ユリは十づつ二つの虫の集団で雀蜂を倒しており、小百合は髪の毛で雀蜂を包込み、圧殺した。
ガソリンを反重力で蜂にぶつけた誠は、蛹弾で燃やす。
そうしている内に駐車場内に警報が鳴り出した。
三十秒以内に外に逃げろ、とアナウンスがある。
「大変だよ、窒素消火が始まる。
それまでに脱出口に行かないと、僕らも窒息してしまうよ!」
と警備員は、悲鳴をあげる。
誠は今あるガソリンを雀蜂にかけると、手早く燃やし、皆を連れて出口に向かった。
駐車場内には一秒ごとにカウントダウンが始まっている。
十秒を残して、誠たちは扉を出た。
「すぐに扉を閉めて鍵をかけるんだ!
あの蜂、この扉なら出られるぞ!」
老刑事が叫ぶ。
羽根を広げればぶつかりそうだが、確かに歩けば、ギリギリ扉から出られる可能性はあった。
誠たちは透過で外に出ると、慌てて鍵を閉めた。
蜂は、広い立体駐車場内を飛び回っていた。
ガツンガツン! と硬い頭で扉を破ろうとする音がする。
「おいおい、あんな怪物に耐えられるようには扉は作ってないよ!」
警備員は相変わらずのうろたえぶりだが、老刑事は、
「防火扉だ。
そうそうは破れんだろう」
と落ち着いていた。
幽霊の颯太たちは平気で中で蜂と戦っていたが、真子が急を知らせる。
(誠君。
巣の後ろ側に穴が空いているわ!)
雀蜂がコンクリを削ったのか、燃え落ちた巨大な巣の背後に、蜂が通れそうな穴が見つかった。
「あと7秒で窒息消火を開始します」
電子音の女性アナウンスが聞こえる。
だが、穴があったら消火できないのではないか?
誠は透過で駐車場に入り、透過しながら一気に地下の一番奥まで飛んだ。
そこに、いかにも虫が齧って明けたような直径一メートルほどの穴があった。
巣の爆発で壊れた車を置く鉄板があったので、それで塞ごうとするが、引力と反発の力を使っても、鉄板は重すぎた。
「あと六秒で窒息消火を開始します」
誠は焦った。
(ここを塞げばいいのか?)
高田類が聞いた。
「そうなんだけど……」
誠が焦りながら言うと、任せろ、と高田類。
木が生え、蔦が覆って、穴を塞いでいく。
「あと五秒で消火を開始します」
誠は、急いで仲間のところに戻った。
「誠っち、どうした!」
急に消えた誠に、皆、心配していた。
「穴があったんだ。
なんとか塞いできた」
改めて体中から汗が吹き出した。
「あと一秒で消火を開始します」
透視してみると、駐車場にはまだ多くの雀蜂が飛んでいる。
「消火を開始します」
サイレンと共に薬剤が噴出する。
と、同時に、巨大蜂が、ボトボトと落下し、痙攣して苦しみもがいた。