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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
117/153

117水族館

川上のウサギが変形したリスが、壁をよじ登り偵察する。


ウサギ、リスと言っても影の動物なので、漆黒であり、また水族館も水槽の照明以外は、足元を照らす間接照明がわずかに灯っているだけなので、薄暗い。


加えて、壁も黒い壁紙だったから、ほぼ見えない。


天井には、何かクラゲのような生物に頭を掴まれた人間たち。


川上の鋭敏な聴覚、嗅覚が、全員の生存を伝えている。


およそ三十数名。


その中に、おそらく一人、敵がいる。


心臓の鼓動が、一人だけ違う。


安定した、何の恐怖も感じていない鼓動だ。


これだけの人質を取り、人質の壁の中で薄笑いを浮かべ、川上を待っているのだ。


そこは何かの特別展示の水槽だったらしいが、今、水槽には何の生物もいない。


それがどういうことなのか、川上には判らない。


まー、ともかく、敵をどう特定するかだな……。


無論、見つけたとして、どう引きずり下ろして接近戦に持ち込むか、など考えることは多いが、いずれにせよ、どれが敵かを見定めないと話にならない。


音にも臭いにも鋭い感知を持つ川上だが、こう密集されていては誰の心音が違うのか、までは判断できない。


どうするか……。


部屋に飛び込み、卑怯者などと相手をなじるか……。


いや、駄目だ。


そんなの笑われるだけだ。


まあ、爆笑でもしてくれれば、川上の聴力なら特定は難しくないが、それほどアホな敵が、人質の中に身を潜めたりしないだろう。


どうすりゃいいんだ……?


川上は部屋の外で頭を抱えた。


誠っちもユリも、新米の福たちだって、戦いは何度も経験している。


だが、俺ときたら、今までは誠っちやカブトに頼りっぱなしだった。


音を聞いて、教えたぐらいしか実績が無いくせして、十分戦えるつもりになってここまで来てしまった!


だけど敵は人質に隠れていて、川上は手を出すことも出来ないでいる。


こんなとき、どーすりゃいいのか、まるで判らない。


どうすりゃ敵を倒せるんだ!


考えたが、人質の壁に囲まれた敵を倒す方法など、いくら考えても判らなかった。


くそ……、人質さえいなけりゃ、殴って蹴ってぶちのめしてやれるのに!


壁にうずくまり、自分の足の中に頭を埋まらせた川上だが…。


誠っちなら、どうするだろう……。


ふと、考えた。


すると、何故か川上の中の誠が、あの高い声で叫んでいるのが聞こえた気がした。


(川上君!

人質の命が一番、大切だよ!)


そう…。


誠っちは、敵を倒すよりも、きっと人質を救おうとするだろう。

そういう奴だ……。


ん…!


川上は思った。


人質をみんな助けちまえば、後に残ったのはクソ汚い犯人だけだよな……。


川上は顔を上げ、耳を立てた。


心音を探し、絶対の人質、丸い集団の外側の、まず一人をウサギで助けるんだ!


誠っちなら、絶対こうする!


ウサギたちは素早く室内に突入した。




小百合はプラネタリウムの前までやってきた。


当然ながら、チケット売り場があり、まだ時間が早いのか、待っている客はいなかったが、係員が立ち、入口は閉じられている。


チケット売り場はガラスで仕切られており中は見えないが、二つある窓口の一つはカーテンが閉まっていて、たぶん中は売り子のおばさんが一人なのだろう。


この二人を、うまく、ソラマチ全ての人間を操る影繰りに気づかれずに倒し、劇場に潜入できればいいのだが、敵が予測通りにプラネタリウムに籠もっているとしたら、この二人は最終関門の守り手、という事だ。


何かあれば、気が付かない訳はない。


ならば逆に、この二人に気が付かれずに中に入れれば敵の不意をつけるはず。


影を纏って脇をすり抜けるか、それとも……。


小百合は、薄く笑った。


この手の潜入は得意技なのよ。


小百合の髪が逆立ち、天井に伸びると、そのまま小百合の体をクレーンのように持ち上げた。


天井に張り付くと、ゆっくりと前進を開始する。


ガラスの奥の売り子はもちろん、入口を見張るスーツの男も、影を纏って天井を進む小百合には気が付かない。


数メートルを進み、髪で扉を絡めると、まるで写真部の遮光カーテンのように真っ黒な髪が扉を包み、小百合は難なく星空の舞台に滑り込んだ。


天井を進み、プラネタリウムスクリーンの脇まで這っていく。


観客を、一人一人見ていく。


もしソラマチを操る影繰りがいたら、たぶん軽妙な演者の星空トークとズレた動きをするはずだ。


そして、皆が同じような顔で星を見上げるプラネタリウムでなら、それは如実に浮かび上がるはずだった。


小百合はゆっくりと進んていく。


演者はギリシャ神話の星座話や、特徴的な星の知識などを、流れるような話術で語る。


ときに笑いが起こり、ときに悲劇にどよめきが起こる。


星の不思議やギリシャ神話の放埒な神々の、やや不謹慎な恋や嫉妬。


観客の顔は面白いほど一様で、演者の解説に入り込んでいる。


一人を除いては……。


それは、大きなメガネをかけた、少年というより、男の子、に近い小さな半ズボンの子供だった。


あの子が……?


しかし、彼以外にはそれらしき人物はいない。


彼は一人、まるで無表情に天井を見上げており、その大きなメガネの中の目は、閉じられていた。

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