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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
116/153

116伸縮自在

大家のパンチは、さして強そうには見えない。


が、巨大な類人猿が盛大に倒れた。


「大家さん、強い!」


誠は驚くが。


(なーに、パンチと同時に、足を掬ってやっただけですよ。

相撲の投げみたいなもんさね)


大家は笑う。


大家の力は、さほど強くはないが、身体攻撃と合わせれば大きな力を生み出す。


喧嘩の年輪が違う、というような感じだった。


が、倒れたはずの霊長類が、ふっ、と消える。


地面は草であり、小さくなれば、なかなか見つからない。


隔壁が降りたためにフリーになった颯太と裕次も探すが、敵が見つからない。


誠は、隔壁の固定に腐心していた。


隔壁シャッターは、防火シャッター部分と、壁面から九十度開いた扉が合わさることで、逃げる人は扉を開けて、炎は防火のための分厚い鉄シャッターが堰き止める事で成り立っている。


中身は人間の類人猿なら容易に扉を開けて通り抜けてしまう。


それを防ぐために、誠は扉部分を透過で柔らかくして、そのまま防火壁と融合させた。


ドアノブの内部の金属部も溶かしたため、これならさすがの類人猿でも開きそうにない。


裕次の方も同じにしてから、誠も三人が戦っている方に向かった。


(おかしいわ……)


真子が言う。


(どんなに小さくても、草も揺らさずに移動できるはずがないわ!)


しかも、草もどんどん火が広がっている。

小型の猿では、かえって焼け死ぬ危険が高いように誠も思う。


「猿じゃないのかな?」


誠は首をかしげた。


(そーかも!

草を揺らさないあたり、昆虫かヘビかもしれないな)


自身は蛹から、火の蝶になり、毒ムカデにもなった大地が語る。


(しかし、この火の中を動けるか?)


颯太班の早川が疑問を呈す。


「ただの生き物ではなく、影繰り、または隼人君が言っていた妖怪に近い奴らなんだ。

おそらく、ただの火では倒せないと思う」


誠は答えた。


(誠、ムカデを使え!

ムカデは小動物を追跡出来る!)


それは画期的だった。


誠はすぐにムカデを草に放った。


と、すぐに……。


(何か、見つけたぞ!)


大地が言った。


ムカデは、嗅覚とも味覚とも、人間の身には区別つかない感知を駆使して、敵に迫っていく。


幽霊と誠は、その感覚を共有した。


草をスルスルと掻き分け、外骨格を火炎に焼かれながら、ムカデは敵を追跡する。


敵はどうやら、ムカデに気が付き、逃げていくようだ。


と、ムカデが跳ねた。


草が飛び散り、ネズミとも猿ともつかない生物に、大地のムカデは追いついた。


だが……。


ネズミは瞬間、毛の塊となり、四肢が生えて、黒々とした猿になり、木に駆け上った。


(皆、枝を払っちまえ!)


颯太が叫ぶ。


何十もの影の手が枝を切断する。


バサリ、と猿は草に落ちるが、猿は類人猿に変貌した。


偽警官、颯太、裕次と武闘派? 三人が同時に類人猿に襲いかかる。


誠は蛹弾で援護をした。


裕次が類人猿の顔面に踵落としを食わせるが、踵を頭に受けたまま、類人猿は裕次を弾き飛ばすと、背後の誠に飛びかかった。


(誠っちゃん!)


皆は叫ぶが。


誠は、腕をムカデにして、類人猿の喉首を引き裂いていた。


「やだなぁ……、僕だって、それほど弱くないつもりだよ」


ドサリと倒れる類人猿を見下ろしながら、誠は拗ねていた。





ユリの、ホウジャクの羽根を持った女郎蜘蛛が、蜘蛛の巣を避けながらハエトリグサを噛み砕いた。


四匹の空飛ぶ大型蜘蛛は、ホバリングをしながら、食虫植物を倒していく。


ホウジャクは、それほど早く飛べないが、ホバリングしながら蜜を吸えるハチドリの昆虫版のような虫だ。


ユリの虫たちが食虫植物を蹴散らしている間に、奥の全裸の女が、微かに手を動かした。


まるで見えないハープを奏でるような優雅な動き。


だが、ホウジャクたちに新たな蜘蛛の巣が襲いかかる。


だが……。


ホウジャクが蜘蛛の巣に捕まることはなかった。


ユリが立ち上がり、枯らした藤の蔓を鞭にして、蜘蛛の巣を破ったからだ。


そしてユリの虫たちは全裸の女に襲いかかった。


それは、誠が2階下で類人猿を倒したのと、ほぼ同時だった。


女は、声を立てずに叫んだ。


「えっ…?」


全裸の女に見えていたものが、はら、はらと乱れ散る花びらに変わった。


女は、溶けるように、花びらになって散っていき、そして……。


ユリの周りから、木や草が、萎れるように消えていき、そこは現代的な展望デッキのフロアに戻っていた。


「やったのか、な?

それとも誠が?」


ユリと同じ言葉を、2階下で、誠もつぶやいていた。





焼け焦げて水だらけになったフロアに、誠たちは生き残った。


(まー拗ねるなよ、心配しただけだろ)


颯太は言うが、顔はケケケと笑っている。


(心配するのは当然です。

誠君が死んだら、あたしたちはただの幽霊なんですから)


真子も真顔で言う。


ただし、誠は、自分が駄目な奴だと言われたようで、複雑な気分であり、また、気持ちが幽霊には筒抜けなので、かなり情けない気分だった。


「誠!」


誠が完璧に塞いだ防火壁を、ユリが叩いた。


ああ、と誠は防火扉を、窓ガラスと同じ要領で開けて、ユリを中に入れた。


「助かったよ、誠」


「いや、ユリのおかげかもしれないよ」


と話し合う二人だが、


(おい誠……)


と、颯太が囁く。


見ると、どうやら類人猿の原型だったのが丸わかりの、大柄で原始人めいた顔付きの男、いや年齢的には少年が、立っていた。


「えーと、君はもしかして……」


(高田類だ。

お前が俺を解放してくれたらしいな)


これは、ちょっと…。


誠も思ったが、周りも同じような意見なのが感情の波で伝わる。


(その、なんだ。

お前は、なかなか可愛らしい奴だな)


えっ……。


どうやら、偽警官寄りの人間であったらしい。


(ま、幽霊だから触れないが、見るのは自由だからな)


急に颯太はリーダーシップを取り始め、高田類も、やや頬を染めながら、従順に頷いた。

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