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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
115/153

115正体

(猿を追えっ!)


颯太が叫び、幽霊たちが集まってくるが、猿は素早い。


展望デッキは、下まで降りてみると、どうやら上下三階の、ドーナツ型のフロアのようなので、誠や幽霊は中心を抜けて近道も出来る。

だが、猿は右に左に、また草だらけの地上を走り、逃げ回るので目を切るわけにもいかない。


大きさは、おそらく日本猿程度のようで、犬で言えば中型犬程だろうか。


少しでも姿を見た中村は、


(黒かったわ…)


と話していた。


ニホンザルとは少し違うかもしれない。


ただし、何にせよ中身は人間なはずで、それなりの知能も備えているはずだ。


簡単に追い詰められない。


「何の攻撃もないのは、逆に不気味だよ。

あまり近づきすぎないで!」


誠は注意をした。


大地に聞いても、


(友達のガンチは一緒に来たし知ってるけど、学生連合が他に誰を呼んだかなんて、たぶん誰も知らないぜ)


確かに、全てがSNSでの繋がりだった。

ポイントにつられて集まった近隣の学生、という以上は仲間でも判らない。

SNS犯罪と一緒だった。


(枝を切ろうぜ!)


国川が言った。

颯太たちのグループだ。


(悠長すぎる!

それに地上に降りられたら、いい隠れ家だ!)


田辺が却下した。


今は誠も幽霊たちも集まってきて、遠巻きに敵を取り囲んでいる。


だが、樹上の猿はすばしっこく、包囲は何度も破られ、そのつど誠と幽霊たちは混乱した。


(ち、俺が捕まえてやるぜ!)


颯太は叫ぶと猿に接近した。


だが……。


不意に木を突き破り、巨大な類人猿が現れた。


動きが素早すぎて、ゴリラともオラウータンとも判らなかったが、かなりなスピードの颯太を弾き飛ばすと、すぐに小型化して何処かに消えた。


(おい、なんだ!

奴は何処に逃げた?)


裕次が叫ぶが、辺りは静まり返っていた。


気配がまるでない。


「変身できるんだ。

巨大になったり、たぶん凄く小さくもなれるんだと思う。

人の指ぐらいの猿、いるでしょ」


誠は敵の正体に気がついた。


これは、相当の影繰りでも捕獲は難しい上、この森林では尚更、見つけるのも困難だ。


「誠、木を全部、透過しちまえよ」


颯太は猿にやられた怒りも露わに、怒鳴るが。


「駄目だよ!

ここは地上四百五十メートルなんだ。

こんな木を大量に落としたら、地上がどうなるか判らない」


すぐ横は東武線も通っているし、道路もある。


誠は慌てて断るが、しかし……。


森は静まり返って、敵は完全に見失っていた。


(あれを見つけるのは無理だぜ…)


裕次も言う。


敵は、ほんの小さな猿になり、この森に隠れてしまった。

探すのは困難を極めている。

だが、おそらく森の発生と猿の影は無関係とは思えない。

相性が良すぎるからだ。

そして森が無くならない限り、ここでの戦いもまた、終わらない……。


(むしろ、火をつけますか?)


真子が提案した。


え、と誠は驚くが。


上にいるユリは心配だが、このまま猿に隠れられては誠も動けない。


下で川上も小百合も戦っているのだ。


(こうゆうところの消火設備は万全のはずよ。

煙さえ外に逃がせば、火事にはならないわよ)


偽警官は再び自説を語った。


「透過を使えば煙は、逃がせるか…」


戦う敵ならともかく、隠れて持久戦に持ち込もうとする敵では、時間ばかりが過ぎて仲間と分断されてしまう。


「仕方ない。

火をつけて猿を炙り出すよ!」


誠は蛹を撃ち、何本かの木を発火させた。


それから、窓を丸く透過し、透過した部分に影の手を差し込み、ガラスを外した。


そこに猿が来たら分かるよう幽霊を残して、隣の窓に穴を開けていく。


上への階段とエスカレーターにも颯太と裕次を配置し、更に木を燃やした。


周囲には煙が満ちてきたので、誠は余分に窓に穴を開けた。


地上四百五十メートルだ。


均等に二十開けた穴から強風が流れ込み、すぐに煙は森に充満した。


風が渦を巻き、木々も烈しく揺れていた。


「やり過ぎたかな……」


穴のおかげで煙で視界が遮られる事はなかったが、しかし風は火を回らせる。


木は、すぐに赤く燃え始めた。


けたたましくサイレンが鳴る。


同時に、エスカレーターと階段、エレベーターの周囲に、天井から隔壁が降りてきた。


だが。


木が邪魔をして壁が折りられない。


「隔壁の木を切るんだ!」


皆がせっせと木を切る。

誠は蛹を発射し、辺の木を爆破した。


隔壁が閉まると、風は鈍くなる。  

だが、既に火は全ての木に燃え広がっていた。


(出た!)


窓の一つに立っていた、足を痛めた大工でわずかな時間、物を動かす能力を持った大工、大家の前に、巨大な類人猿が現れた。


大家は、短髪の髪がほぼ白髪になった中年から老人の間の人物なので、与し易いと思われたらしい。


だが、大家は足を痛める以前は腕の良い大工であり、なんなら若い頃は暴走族にも入っていた。


(ほう…。

力比べって訳かい、エテ公)


薄く笑うと、大家は、直立したゴリラのような、巨大な筋肉の塊に、突っ込むように殴りかかった。


圧倒的な筋肉を誇る類人猿は、大家のパンチを避けようともしない。


大家の年老いて痩せた拳は、類人猿の鼻っ柱を叩いた。

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