表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
114/153

114緑の魔境

早く早く!


ユリは手のひらの上の、小さな四つの蛹に囁いた。


ユリは自分の虫は無敵だと思っていたが、さすがに食虫植物はヤバかった。


ハエトリグサとモウセンゴケは、上と下からユリの虫に迫っていた。


(早く脱皮して!

仲間がピンチだよ!)


心で急かす。


ピクン、と蛹が微かに動いた。


だが………。


一番端のユリの虫が、モウセンゴケに貼り付かれた。

球体の体から飛び出したトゲのような触手が、ユリの虫にベタベタと付いていく。


ユリの虫は触れたもののエネルギーを奪うが、このモウセンゴケも似たような力を持つらしい。


ユリの虫の力が吸われ、大きさが少し縮んだ。


(急いで!)


蛹たちが、四匹とも動き出した。


他のモウセンゴケもそれぞれの虫に向かって用心深く蜘蛛の巣を進んでおり、また上からはハエトリグサが降りてきていた。


敵は食虫植物を使う術者なのか?


ユリは蛹を急かしながら、疑念が頭をよぎった。


たぶんそうなのだろうが、それならば…。


蜘蛛の巣は誰が張ったのか……?


無論ウツボカズラが何かを飛ばしたように、モウセンゴケやハエトリグサが蜘蛛の巣を張れるのかもしれないが、蜘蛛の巣は、今までそこに無かったものが突然に現れたように感じた!


十匹のカミキリが一斉にかかる巨大な蜘蛛の巣が、蜘蛛を見かけもしなかったのに現れたのだ。


あの女の能力なのかもしれない……。


それなら、食虫植物は誰なのか、など不明点が多いが、とにかく!


女の力が蜘蛛の巣だとすると、ユリの虫には最悪の相性、だと言える。


蜘蛛とは、全ての虫を殺すメカニズムだからだ。


今までのように虫を飛ばすだけでは、女まで行きつけないだろう。


どうしよう……。


虫たちを救出後、横に回り込む、ぐらいは可能だが、いずれにせよ女の力が蜘蛛の巣を作れるのなら、たぶん無数に蜘蛛の巣を張れるのだろう。


蜘蛛より強い虫……。


単独の蜘蛛という生物は、攻撃力は高いが、個体や種類により差はあるが、防御力はそれほど高い訳では無い。


それを即効性のある毒で補い、短期決戦で勝利する戦略に特化した生き物だ。


多くはカブトムシのような硬い鎧も、蜂のような敏捷な羽もない。


だが、蜘蛛の巣は、そんな蜘蛛の力を何倍にも増幅するいわば要塞であり、女郎蜘蛛レベルになると、小鳥までもを餌食とする。


本来、単体の蜘蛛なら、体も大きく、防御力も雲泥の差がある鳥に敵う訳もないが、一旦、蜘蛛の巣に捕らえさえすれば、後は鳥が疲弊するのを待ちながら、巣を強化し続ければいい。


蜘蛛の巣に鎮座した蜘蛛を倒しうる虫は、ほぼいない。


蜂やアリが、何万という数で攻めれば、犠牲は大きくとも、もしかしたら勝ちうるかもしれないが、ユリにそれは出来無い。


暴走になってしまうからだ。


可能性があるとしたら、ユリの虫が、蜘蛛の巣が保てないほどに重くなるか、大きく力強くなり、自らの力で蜘蛛の巣を破る他はないが、もし、女が蜘蛛の巣を自由に作れるのなら、二度目には、もっと頑強な要塞にすればいいだけだ。


もしくは……。


蜘蛛に対するならば、自らも蜘蛛になるか?


蜘蛛だから蜘蛛の巣を無効化出来るのか、ユリは知らない。


同じ種類の蜘蛛なら、或いは可能なのかもしれないが、相手はモウセンゴケにハエトリグサなのだ。


だが迷っている時間はなかった。

ユリの蛹から、小型の女郎蜘蛛がポンと生まれた。


特殊なのは、この女郎蜘蛛には羽があった。

ホウジャクにも似た、鱗粉を持った羽だ。


女郎蜘蛛たちは、音もなく羽ばたき、フワリとユリの手から飛び立った。






誠の影の手の一本が、巨大なムカデに変わった。


そのまま、どさりと地面に落ちて、草ゾンビの横原に飛びついた。


草ゾンビから蔓が溢れて、ムカデを覆う。


ムカデが草に覆われた。


と、見る間に、草ゾンビの顔面を食い破り、ドン、と跳ねて木の枝に飛び移った。


(誠さん、コイツラの腹に、玉ねぎみたいなのがあって、噛み砕いたら死んだよ!)


大地が教えてくれた。


「みんな、聞いた?

腹の玉ねぎを破壊するんだ!」


誠は透過と飛行を併用し、更に影の手で草ゾンビの腹を探った。


中に、確かに玉ねぎのような球根があり、これが砕かれると草ゾンビは形を保てなくなる。


弱点が判れば、数が多かろうが問題は皆無だった。


次々と草ゾンビたちは葬られる。


だが、問題は展望デッキを密林に変えている元凶が見つからないことだ。


ガサッ!


誠の左奥の榎らしき木の枝が、不意に揺れた。


(見てくるわ!

誠っちゃんは待ってて!)


偽警官は音のした木に飛んで行った。


と、ガサッ、ガサッと何かの生物が木の枝を飛び移るような音がした。


(猿か何かかな?)


と、田辺。


都会育ちの誠は、猿に遭遇したことなどないが、奈良の和歌山寄りの広大な山地を歩いたことのある田辺は、そんな感じなのだ、と教えた。


「猿?

猿の影繰り?」


虫になったりムカデになった敵もいたらしいし、今回の敵ならば、猿に変わってもおかしくはない。


確かに、この森の中なら、なまじの格闘自慢よりも、猿の方が手強そうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ