表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
113/153

113草と花

なんで動いているんだ?


誠は首をかしげた。


特に筋組織などはなく、極論すれば濡れたスポンジで草を栽培する✕✕シード等の名でスーパーで売られている、生えたての水耕栽培野菜のようなものだ。


ただし、中は緑の苔かマリモのような見たことのない円柱なので、何か動く理屈はその辺にあるのかもしれないが、誠には判らない。


腕に夢中になっている誠の背後で、木に突き刺さった草ゾンビが、瞬間、ドロリと崩れ、地面で再び草ゾンビに戻った。


(誠、蛹で爆発できるぜ)


大地が教えてくれた。


偽警官の影の体にしがみついていた腕に蛹を落とすと、モゾリと蛹が動き、腕に潜り込む。


誠が、起爆! と考えると、偽警官の肩ごと爆発した。


無論、影と幽体である偽警官はすぐに復元する。


火災が怖かったが、草ゾンビの体はかなり湿っていたので粉々になっても、燃えはしなかった。


爆発って便利だな!


今までの誠なら、粉々になるまで切るとか、非生物や物質を破壊するのは難しかったが、大地の力は誠に無いものを色々備えていた。


(誠、後ろ!)


裕次が叫ぶと、誠は振り返り、三つの蛹を影の手で草ゾンビに埋め込んだ。


絵面としては、誠が弾丸的なものを撃っているように見える。


そして……。


ドゴン、と草ゾンビは破裂し、粉々に崩れた。


気持ちいい……!


今までの自分に欠けていたものが手に入った気がする。


だが……。


(誠!

こっちにも草ゾンビが現れた!)


田中が叫んだ。


(こっちにも出てきたわ!

誠君の方に向かってる!)


真子も知らせた。


どうやら……。


このフロアが本命の場所らしい………。


誠は肌で感じた。





ユリは女を見つめた。


透き通るような滑らかな肌。

長い睫毛。

赤い唇。


艷やかな黒髪。


日本の人だ。


白人には、こういう髪や肌の人はいない。


厳密には、赤ちゃんや幼児には、瑞々しい肌はあるのだが、劣化が早いのだ。


日本ほど日差しが強い訳ではないのに、肌が弱いのですぐに劣化する。


ユリは、日本女性の秘部を見るのは初めてだったが、ウクライナのAの訓練所では女の人とシャワーを浴びたり、体を洗ってもらったりしていたので、それほどの動揺はない。


頭を一度開けられ、影繰りに人工的にさせられているせいか、ユリは大人になるのが遅れているのだ。


良治などに行為も教わるものの、生物学的な問題、という以上の関心は今のところ、わかない。

良治によれば誠だって川上だって、隠れてやってるそうだが、本当だろうか?


ユリは荒廃したウクライナで、ストリートチルドレンとして歪んだ性を見てきた事もあり、自分にそういう衝動が無いことに、むしろ安心していた。


それにしても……。


その人は、枯れた藤の奥の樹の下から、動かない。


死んでいるとは思えない。


死人の肌なら、ユリは腐る程見てきたのだ。

瞳の輝きから言っても、彼女は生きている。


だが、全く動かなかった。


被害者なら助けなければならないが、どうも動きが変だった。


怯えがない。


襲われていることに気がつかないか、もしくは……。


襲っている側、かだ。


それは正反対のことで、もし対応を間違えばユリに決定的な敗北をもたらす。


前には、誠に殺してくれ、と頼んだユリだが、今は死にたいとは思わない。


毎日楽しい。


学校も、内調も、家での暮らしも、全てが楽しかった。


だから判断を間違うわけにはいかない。


おそらく敵だ!


今まで無傷の人間など見なかったのだから、全裸であれ、敵の攻撃から避けられたはずは無い。


ならば、敵であるはずだ。


おそらくはウツボカズラを作っている本人のはずだ!


だが……。


無論、このまま、ユリは姿を隠したまま敵を倒すのが一番なのだが……。


何らかの理由で難を逃れた被害者でないと、確実に言えるのか?


微かに、それが引っかかっていた。


ユリは草の中からしばらく女を窺ったが。


やはり、確認する必要がある、と感じた。


ユリは、虫を飛ばした。


今や、十の虫を操るまでに成長したユリは、全てを女に接近させた。


十匹のカミキリは勇んで枯れた藤棚を抜けて、その奥の、樹の下に立つ女に向かおうとするが……。


不意に、虫は動きを止めた。


いや……。


止まった。


女の周囲には、いつの間にか、ほとんど見えない粘着性の糸が張り巡らされていた。


蜘蛛の巣!


ユリは驚いた。


今まで、この森にユリの虫以外の虫などいなかったのだから。


枯れた藤の周囲から、蜘蛛の口の部分がハエトリグサのようになった奇怪な植物虫が、またモウセンゴケに蜘蛛の足が生えたようなものも現れた。


糸に絡まってさえいなければ、こんな植物の化け物にやられるユリの虫ではなかったが、今は戦いにもならない。


ユリは、慌てて手に卵を四つ出した。


間に合え……!


草をちぎって卵の横に置いた。


卵が弾けて、幼虫が現れる。


幼虫はモリモリと、草を喰むが、モンセンゴケやハエトリグサは、ユリの虫に接近してくる。


ユリの手のひらでは、四つの蛹が、動きを止めていた。





草ゾンビは、颯太たちの影の体でも苦も無く倒すことが出来た。


動きが鈍いからだ。


だが、草ゾンビにも秘密兵器があった。


不意に胸が開くと、蔓が無数に伸びて影の体を押さえつける。


無論、影なので物質化を解いて、すぐに脱出はできるのだが、攻撃も中断を余儀なくされる。


一方、誠は、蛹爆弾で草ゾンビを破壊していくが、展望デッキの下は確か骨組みであり階段が上にも下にも続いているため、透過で落とすわけにはいかなかった。


上に来られるのも厄介だが、たぶん下には川上や小百合がいるはずだからだ。


そして草ゾンビは、どうやら徐々に、その数を増やしているようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ