111花
ちょっと新しい機能に慣れてなくて、タイトルがずれてます。
これが覚醒で、この後に、花、の話に進むと思います。
枯らした……!
だがそれは眼の前の一本だけだ。
次々に枯らしていけば理屈の上ではいずれ、全ての木を倒せるとはいえ、果てしなない労力だった。
何しろ今や、歩けないほどに木は茂っており、また足元は草むらなのだ。
ウツボカズラを倒せば倒すほど、木と草の量は増えていき、決して減らないのだ。
それにしても、最初のウツボカズラの背に、ユリが亀の神社で乗せた虫が乗っていたのが、今となっては謎だ。
だから、あのウツボカズラが当人だと思ったのだが、考えてみると、あまりにも小さい。
だが、他にユリの虫が乗ったものは、どこにもいない。
それが、どんなトリックなのかは、ユリには見当もつかなかった。
とにかく、周りの木を枯らし続けよう。
ユリは改めて心に決め、奥の桜の木に虫を飛ばした。
(おい、誠が眠っている間は、俺たちが誠を守るぞ!)
聡太が叫び、影の体が誠を取り囲んだ。
誠が眠っていては透過は使えないので、誠の周りから草と木を取り除き、遠くに積み上げた。
第二、第三のムカデがいたとしても対応できる距離だ。
とはいえ、無論影の体の幽霊にはムカデの毒など意味はないが。
(田部さんはバイタルを見ててください)
真子は看護役を指名し、
(もし、危なそうなら、あたしが本部へ助けを求めるわ)
(今すぐそうした方がいいんじゃないの)
真子の言葉にアサミが疑問を投げかける。
(俺たちの存在は秘密だし、ほらバレると面倒くさそうじゃん……)
颯太は、いつまでもダラダラ遊ぶ生活を続けたいのを隠そうともしない。
(まー、誠だって、俺たちがいないとヘタレだってバレたくないだろー)
裕次も同調した。
(とはいえ、少しでも異常があれば、俺たちで誠を、この敵だらけのスカイツリーから運ばなきゃならないぞ)
田辺は現実の困難を教える。
透過できるのも、飛行できるのも、誠だけなのだ。
つまりエレベーターで外に出て、電車なりタクシーなりに乗せないといけなかった。
(誠って、俺たちを体に入れないんだよな)
体内からから操れれば、透過や飛行は使えなくても、二人羽織ぐらいには誠を操れる。
だが、寝ている誠にも、誰も侵入できないし、今も、誠は己の心に幽霊を入れないでいるのだ。
心はある程度覗けるのだが、中には入れない。
他の一般人なら、幽霊は簡単に憑依し、悪戯もできたから、誠の心はブラックボックスのように感じられた。
(仕方ない。
代わりに影の体を貰ってるんだからな)
田辺は言い、バイタルを調べる。
と……。
「う…、うう、ん……」
唸ると、誠の目がパチリと開いた。
「あ、あれ、僕はどうして……」
言ってから、あっ、と叫んで股間を触った。
(あー、そりゃ水だよ、水)
裕次は、多少失禁があったのは知っていたが、優しさを見せた。
「あ、そうか、僕はムカデに噛まれて……。
あ、まさか……」
誠の中に、それをむさぼり食う自分が、ぼんやり蘇ってきた。
げー、と誠は喉に指を入れて吐こうとするが、不思議と胃は空っぽのようだ。
やがて立ち上がり、
「忘れよう!」
心に決めたようだ。
(誠くん、立って大丈夫なの?)
真子が聞くと、誠は足を動かし、
「うん、痛みも嘘みたいに治ってる?
みんなが治してくれたの?」
(いや、君がおそらく無意識に治癒の力を使ったんだよ。
見ていて驚くような再生だった)
田辺が教えた。
「そうか、それでムカデを食べたのも治ったのかな?」
誠は言うが、
(いや、そりゃ俺が教えてやったんだよ)
え、と誠だけでなく、全ての幽霊が、木の横に立つ黒いシャツとズボンの少年を見た。
中学生ぐらいだが、ずいぶん痩せた少年で、しばらく床屋に行っていないのかボサボサの頭だった。
「君は?」
(お前が食ったムカデだった男さ。
大地って呼んでくれ)
ムスリと自己紹介した。
「えーと、でも何で、僕を攻撃しながら、僕を助けたの?」
かなりの矛盾だ。
(いや、お前らに殺されたからさ、見たら、お前、幽霊を使えるようだし、まだ死にたくなかったし、体は諦めて仲間になろうかな、って思ったんだよ)
目を反らしながら、大地は語った。
二一人目!
誠は驚きながらも、受け入れざるを得なかった。
断る方法を知らないのだ。
「そうなんだ。
でも、何であんなものを食べさせたの?
あれって、言ってみたら、君の体だろ?」
大地は頭を掻きながら、
(せっかくだから、プレゼントをしたのさ。
お前、ムカデが使えるぜ)
え、と大地の言うように影の手を出すと、それがツルンと、大ムカデに変身した。
手としても使えるし、遠隔でも使えるようだ。
「なかなか便利そうだね……」
やや困惑しながら誠は言った。
(もう一つ、蛹と炎の蝶も使える。
好きに使ってくれよ)
大地は肩を竦めた。
(それでな。
ガンチの奴はまだ生きている。
奴はあんたなら助けられるはずだ。
ガンチを治してくれ)
え、と誠は驚き、自分が切った道を戻って、まだ倒れているジーンズの少年のところに戻った。
(おいおい、これって復活するんじゃねーのか)
颯太が聞くが、大地は。
(いや。
頭の中の種を誠が殺したから、もう影は使えない。
ただ、病院とかに入れられたら、また薬を飲めば、あんたの言う通り復活する。
だけど誠の奴は、時間を戻して治せるから、あれなら、二度と力が使えなくなるんだ)
「あの力は、僕も後でどうなるのか分からないんだよ」
教えたが、
(いや、あれは悪い力じゃない。
ガンチを助けられる)
と頷いた。
誠は、仕方なく、ガンチを復活治療した。
「あ、あれ?
俺、なんでこんな森にいるんだ?」
どうも時間を戻しすぎて、そこから判らないらしい。
(なんか適当に被害者だとでも言っておいてくれ。
ついでに頼めれば、ガンチは家庭でDVを受けてトー横に逃げていたんだ。
トー横では、男としては恥ずかしい事もしていた。
今は忘れてるから、なんとか忘れたままで、ちゃんとした生活が送れるようにしてやってくれよ)
大地の言葉に、誠は恐る々々ガンチの脳に影の手を入れ、架空の家族とのスカイツリーでの死別の記憶を植え付けた。
ほぼ、マッドドクターの受け売りだ。
そして誠は、リーキーに連絡した。
「まー、僕のテリトリーじゃないんだけど、下手な児童相談所なんかじゃ頼りないから、しっかりした保護を約束するよ」
誠は、被害者で、一時的に記憶を失っている、とガンチに話し、総理大臣官邸のリーキーの研究室にガンチを運んだ。
再び展望デッキに誠が戻ると、
(ありがとう。
お礼に、これも誠にやるよ)
大地は、手のひらほどの蜘蛛を誠に渡した。
「え、これってまさか?」
(ガンチの力だ。
石の力の強さは、あんたも身を以て知ってるだろ)
(誠くん。
近接戦闘用のオーラがより良い物が、手に入ったね)
田辺に言われると、川上に泣かされたのを思い出し、誠は赤面した。