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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
110/153

110覚醒

激烈な痛みが誠を襲った。


足首は腫れ上がり、仲間が噛み跡に大量の傷をつけて血を出させ、それを偽警官が吸った。


しかし、そんな原始的な方法では足を救えないのは、誠も分かっていた。


すぐに血清を打つ必要がある。


ただし、スカイツリーにムカデの血清などある訳はなかった。


足はきつく縛られてはいたが、それで毒の広がりは止められない。


誰か本部の者に血清を運んでもらうことは可能だが、しかし……。


その血清が正しいかどうかは、甚だ不安だった。

なぜなら日本には体長一メートルなどというムカデはいないからだ。


日本にいない種類のムカデの血清など、相当特殊な病院でもなければ保管していないだろう。


誠は、考えながらも、痛みのために無意識に暴れたため、仲間たちに抑えられた。


急速にめまいがしてきて、呼吸は浅くなる。


口が、苦かった。


仲間は口々に誠を励ましたが、その声もだんだんと遠く聞こえてきた。


……血清がなければ、僕はここで……。


鈍い頭で、それだけ考えた。


血管を血が流れる音が、滝のように全身に響いている。


汗が、体中から流れる。


もしかすれば、ズボンが濡れているのかもしれない。


あ、いや、それは水を撒いていたから、きっと……。


ケケケケケと大きなカラスが、嘲るように誠を笑っていた。


何が無敵だ!

臆病者が!


同時に、


「慌てずとも良い」


と誰か幽霊が落ち着いた声を出していた。


「食すのじゃ」


誠は暴れながら、


「なにを!」


叫んでいた。


「毒の元があろう。

あれを胃の腑に入れれば、毒はお前の味方となる」


「妄想だ…」


と、誠は声を打ち消す。


見るのさえ嫌な毒虫を、手に触れ、そして……。


「馬鹿なことを言うな!」


「おい誠!

どうしたんだ?」


オロオロと心配して颯太が声を掛けるが、

誠は、信じられないほどの力を出して、暴れる。


「痛いのよ!」


真子は教えるが、誠は、誰に向けたものか、普段の誠なら口が裂けても言わないような罵詈雑言を喚き散らし、涎を流し、涙と鼻水が辺りに飛び散っていた。


「どうすれば……」


戸惑ったハルが、一瞬、誠の力に負けた。


誠は、ズタズタに切り裂かれたムカデに、頭からかぶりついていた。


そのまま、水か、ムカデの体液か判らない半透明の粘液を顔に撒き散らしながら、どんどん、まだうごめくムカデの体を噛み砕いていく。


「馬鹿、そんな物を食べたら、腹から毒が回っちまうぞ!」


裕次は止めようとするが、誠の体は鉄になったように、動かない。


最後の尻まで食い尽くすと、誠は、いきなり弛緩し、眠り始めた。


「やばいぞ!

誠が死んじまう!」


聡太はパニックだった。


周りの幽霊たちも、流石にムカデを頭から食べたのには言葉もなかった。


ちょっとこれは、駄目かもしれない……、と皆が思ったが、誠はスヤスヤと眠っていた。


「バイタルは、何故か安定している」


と田辺はみなに知らせる。


「見て……」


真子が誠の足を指さした。

血を出すためにつけた傷が、跡形もなく消えていた。


足首の腫れも、まるでアニメでも見るように治っていく。


「こいつ……、自分を治療しているのか?」


颯太が唸った。


誠は過去に、リーキー·トールネンとレディを若返らせている。


若返った訳では無いが、時間が逆行しているような回復なのは、颯太には同じに見えた。


「不死身なら、影のオーラなんて無くてもいいんじゃないの?」


横山が呆れたように言う。


「いや、もし敵が生きていれば、これだけの時間があれば命を奪えるからね。

誠の唯一のウィークポイントだね」


田辺は冷静に語った。


誠は眠り続けていた。







微かに焦げ臭い匂いがする……。


ユリは訝ったが、おそらく誠が敵と戦ったのだろう。


誠が負けるはずはないから大丈夫だ。


ユリは既に百近くのウツボカズラを倒していたが、木々は深くなるばかりだ。


敵は何処かに本体がいて、ウツボカズラは先兵のようなものだ。


だが木が邪魔で、とても本体を見つけることは不可能なようだった。

もし、眼の前の数本の木の裏側に本体がいたとしても、ユリには感知できない。


木を枯らす事が出来れば、事態はかなり変わってくるが、木を殺すのはなかなか難しい。


虫、5匹ではたぶん無理だ。


十でやれるかどうか、というところだが、あまり虫を出しすぎると、ユリはまた暴走してしまうかもしれなかった。


そうなったら敵味方、一般人も見境なく、あらゆる生物を殺してしまうことになる。


誠も危ない……。


ユリの虫はとても小さく、発見しづらいものだから、凶悪なのだ。


ともかく、五匹でやってみよう……。


と、虫を飛ばし、ふとユリは思った。


虫に羽が生えたように、木に穴を開ける牙を持った虫に形が変わったら、あるいは五匹でも枯らせるかもしれない。


手のひらに虫を戻し、カミキリ虫をイメージした。


ゆっくりと、虫は細長くなり、鋭い牙が生まれた。


極小のカミキリ五匹が、眼の前の梅の花の木に飛んでいく。


虫は、容易に幹に穴を開け、根元に潜り込んだ。


ハラリ……。


花が散り始めた。


数分の後、梅の木には、枯れ枝だけが残った……。

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