表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
11/153

11種床

誠は、芦ノ湖と同じように魂を探したが、見つからなかった。


「まあ、この食われ方を見ても、だいぶ沖に遺棄されたようだからね」


海上保安庁の中年職員は、東京湾をさして手をぐるり、と動かした。


遠くに房総半島が見えるが、黒く霞んでいる程度で、果てしない海原だ。


さすがに魂がどこにあるのか、など霊能者ではない誠に判るわけはなかった。


遺体は、死後それほどの時間は立っていないらしい。

ただ、沖で引き網にかかったので、どこ、と特定することは不可能なようだった。


奇跡的に頭が見つかったから顔泥棒と判明したが、それがなければ、よくあるバラバラ死体であり、東京湾ほど海上交通の盛んな場所は、いわゆる本職の仕事であり、ほとんど身元が判ることは無いらしい。


「しかし、海外まで行く航路なら、もっと沖で捨てても良いんじゃないですか?

外海で捨てれば、それこそ見つからないのでは?」


誠は言うが、海上保安庁の男性は。


「魚って言うのはね、大陸棚にいるんだよ。

本当に深いところで死体を捨てるのは、素人なんだ」


確かに、あと数日、網にかからなければ、顔にしても顔泥棒のものか、変な場所を魚に食われただけなのか、判断はつかなかっただろう、という。


「しかし、右手の痣で判るんじゃないですかね?」


これは大きな特徴に、誠には思えた。


「いやぁ、今は、こういうの取る技術も発達しているからね。

特に、ある人は、可能な限り隠すだろうしね」


まあ、そうかもしれない。


男性、それもおそらく十代か小柄な二十代、とは判っても、場所から、七分袖ぐらいを着ていたら隠れそうな箇所だった。


「男の子だから、この歳まで取らないでいたんでしょう。

女子なら小学生で取ると思うわ」


美鳥も語った。


「胴体もあるので色々判りそうだが、血液型も判らないように加工されていてね。

ヤクザやマフィア、つまりプロの仕事さ。

若者の分、病歴もないし、まず身元は判らない。

ニュースには絶対出ない話だね」


出るとしたら、観光客の目に触れる海岸に漂着したとか、隠しきれない場合だけだ。


「まー、そういうのはハングレとか、悪ぶっていても素人の犯行だけどね。

プロは潮の流れぐらいは知ってて捨てる訳だよ」


東京でも毎年1万人以上の行方不明者が出るという。

全国では9万人以上の人間が、現在でも消息を絶っている。


家族や地域で守られていない分、都市部の人間の消失は若年層にも及んでいて、事実、東京湾には古いものも、新しいものも、結構な遺体または遺体の一部の発見は後を絶たない。


むろん、捨てる訳にもいかないのだが、プロの仕事である血液型すら判らない、DNAさえ判明しない肉体は一定時間保存されるが、荼毘に伏されている。


「東京って、そんなに今でもヤクザがいるんですか?」


親の話では、銭湯に行けば入れ墨男の一人や二人は必ずいた、的な昭和の話は聞くことがあるが、今は温泉でも入れ墨お断りのはずだ。


「一目でわかるようなヤクザはいないがね。

海外のヤクザ、マフィアは今でも大勢入って来ていて、しかも国産の奴らよりずっと組織が大きいし、科学的なんだ。

中国、韓国、ロシア、それにもっと南のヤクザも今の東京にはいるんだよ。

隣の一家がペーパー企業に勤める外国籍の人間でも、全く判らないのが現状だよ」


確かに誠もマンションに住んでいるが、その百戸を超える全住民の素性など判るはずがなかった。

そんなマンションが東京にどれだけあるだろうか?

企業も街に行けば無数のビルが建っているが、全てがまともな職業なのか、また一見、オフィスでは正当な仕事をしていても、他の部署の事まで判らない社員もあまたいるのではないか?


「まー、魂が見つからないなら仕方ないわね。

帰るわよ」


「え、僕の仕事は、また霊魂探しだったんですか?」


「新しい死体だったら、と思ったんだけど、無駄足だったわね」


まだ田辺ならいいが、あまり変な同居者は歓迎できない、と誠は思った。




白井は捉えどころのない微笑みを浮かべて、グランドの端を歩いていく。


多くの運動部が活動をしているが、白井の薬を利用して力を増強させた者も少しづつ、増えていた。

その力の源が、影能力であることを知る者はいない。

影繰りの死者から加工した、影のサプリメントが、彼らの力を底上げしている。

そのためには大量の影繰りの死体が入手できたことが大きいし、むろん今後も安定供給される予定だ。


すぐにインドシナで大規模な影の闘いが起こる予定であり、その結果、人間の防衛本能として影能力を中途半端に身に宿した子供たちが大量発生することになる。


蒔いた種は、半年から1年で刈り取られ、サプリメントが生まれるのだ。


それらは、日本、韓国、中国などの富裕層の子供が消費することになる。


これらの国では、不自然に運動能力を発達させた者たちが生まれ…。


「おい、田中、どうした!」


スポーツウェアの少年の一人が、急に倒れた。


白井は、にんまりと笑った。


サプリが体に合わない人間も、多少出てくるし、彼らもまた、新たなサプリの原料になってくる。


顔泥棒、現在は白井少年を名乗っている、はこうして、新たなビジネスを育て、巨万の富を組織にもたらすことになっていた。

それは別組織の、第三世界のイエス計画、を育てる種床の一つでもあるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ