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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
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107火災

精密な行動をしようと集中力を高めていたところだけに、誠は飛び上がって驚いた。


「あ、ハル?

どうしたの?」


慌てて聞くと、ハルは、


「ごめん誠さん、破壊しようとしたら爆発しちゃった……」


ハルの行いが誠の頭でリピートされる。


颯太を始め、二十人の幽霊たちは常に勝手に楽しんでいるため、誠はいつもは心を閉ざしている。

どんな場所でも心を閉ざせる誠ならではの特技だったが、必要な情報はあとから幽霊個人が誠にテレパシーのように伝えられるのだ。


蛹に影の手が触れた瞬間、蛹はどんな原理なのか、まるで地雷のように爆発したらしい。

誠が習った言葉で言えば、ブービートラップだ。


無害だが、敵が気になるような物に見せかけて、手を出すと爆発するような罠だった。

傷を追った仲間とか、価値のありそうな品物などと爆弾を抱き合わせで仕掛けるわけだ。


脱皮する前に蛹のうちに破壊しようとハルが切ろうとした瞬間、蛹は木ごと吹き飛ばすほどに爆発したのだ。


だが、問題はそれだけではなかった。


このホールは、木が密生しているだけではなく、足元には草がみっちりと茂っている。


爆発した木は、破片となって草に落ち、すぐに白い煙を上げ始めた。


「火災か!」


蛹が、一種の爆発物である場合、火が回るととんでもない事態になりかねない。


「とにかくハル、周りの草や木を全部切って!」


言いながら、誠はハルの元に向かう。


影の体は、真子の切る力は使えるが、透過は誠でなければ使えない。


もはや木や草を刈りながら進んでいる場合ではなかった。


透過と飛行を合わせて、最速でハルのところに向かう。


ハルはせっせと木を切っていた。


周囲には白い煙が広がり始め、その奥にはオレンジ色の光も見えた。


火が出た!


誠は慌てて近づこうとするが、偽警官が、


「ここはスカイツリーよ。

あの程度の火を気にする必要は無いわ。

スプリンクラーとか、色々あるのよ」


と誠を諌めた。


だが、それはフロアが普通の状態だった時の話だ……。

こんな密林では、当然ながら火の回りは格段に早くなるはずだ。


それに……。


木は、スカイツリーの内側だけではなく、外周をも覆っているのだ!

これに火がつけば、途方もない火災になりかねない!


とにかく可燃物を下に落としながら、慎重に誠は進んだ。


煙は、一歩歩くごとに濃くなっていく。


可燃物は、どんどん階下に落としているが、火は燃え広がっているようだ。


こういう施設の内装は、防火だか耐火だかの加工がされており、燃えにくい、とは聞いていた。


だが全ての物質は、いずれ燃える。


防火も耐火も、燃えるまでの時間が数十分稼げるだけだ。


やがては手のつけられない火事になる……。


その前に消火できれなければ………。


誠は、立ち込める白煙を可能な限り透視しながら、草や枝を切り、落とした。


と、炎が何かを爆ぜさせたのか、パンッという小さな音とともに、何かが誠に飛んできた。


偽警官が、それを弾く。


火が、枝に回っているのか…?


誠の目には見えないが、必ずしも炎と接触しなくても、温度の上昇で蛹が爆発物なら破裂することもあり得る。


今までの倍の手を出し、木と草を刈る誠だが。


「おいおい、それ以上、近づくんじゃねぇ。

お前らは大人しく、このホールで蒸し焼きになるんだ……」


男の声が響いた。


どうやら敵が出現したらしい。


誠は動きを止めた。

煙は辺りに充満し、光源の炎は見えるものの、木や敵の姿は隠れている。


何か銃のようなものを撃ったのかもしれないが、影繰り相手に銃を撃つ訳もない。

何か、もっと危険なものだろう。


しかし誠の透視は、こういった森林や煙の前では、あまり役に立たない。


ある種、地上から地下駅を見るような能力なのだ。

元々は、誠の透視は、ある意味凄い遠視だったが、吉岡先生に習ってミクロの物も見れるようにはなった。


いわば双眼鏡とルーペを兼ねた視力であるが、中間距離は得意ではない。


誠は、とにかく炎にピントを合わせた。


それは、ちょっと異様な炎だった。

てっきり草が燃えているのかと思ったら、その炎は空中に浮かんでいるように見える……。


ただし誠と炎の間には流動する煙が常にあるため、そう見えるのかもしれない。


誠には、その炎は、一メートル近い巨大な蝶のように見え、空中で羽ばたいているように感じた……。


透視なので煙は見えないはずだった。

ならばチラチラと揺れているのは炎ゆえの特性なのか?


それとも煙のようなものは、完璧に感知から外すのは無理なのか?


確かに炎と煙のようなものは、一つの化学変化の結果で発生するものだし、どちらかだけ、と選ぶのは影能力でも無理な気がする。


今、問題なのは、謎の蝶ではなく、その付近から誠を見ている影繰りの方だった。


「誠っちゃん、あたしとハルで探してくるわ。

誠っちゃんは待ってて!」


偽警官とハルは、左右から炎に近づいた。


「誠っちゃん!

周りには誰もいないわ!」


えっ、と誠は思わず声に出しそうになった。


誠に動くなと言った奴は本体のはずだが、炎の蝶は、誠の予測では蛹から生まれたもののはずだ。


誠の見た蛹は、それでは偽物だったのか……、疑問は残る。


誠は、このフロアの木々にはかなりの数の蛹があるのではないか、と考えていたからだ。


読みが間違っているのか……。


だが、颯太と中村が、


「蛹、あったぞ!」


と同時に言うと、他の幽霊たちも次々に蛹を発見してきた。

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