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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
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106謎の影

普通の木や草に戻った展望デッキの階下部分だが、上の階と同じように木が密生しているのを考えると、例のウツボカズラの攻撃圏だろうと思われる。


誠と石巨人の戦いには静観を決め込んでいたようだが、もしかするとウツボカズラは独自に動いていて、本体がコントロールしている訳ではないのかもしれない。


「とにかくみんなで、ウツボカズラの本体を探し出して欲しいんだ」


誠の言葉に真子は、


「どんな姿形か判らないのでは、取りこぼす可能性が大きいわよ」


そこが一番の問題だった。

本体が人なのか、もっと怪物的なものなのか、それすら判らないのだ。


「とはいえ、発見できなければ負けだ。

とにかく探して、何か少しでも違和感のあるものをチェックしよう」


田辺が皆を励ました。


誠の周囲は偽警官に任せて、幽霊たちはフロア中に広がった。


偽警官は、誠の周囲の木から紫色のウツボカズラを探す。

が、誠の周囲にはウツボカズラは見られないという。


「動く敵だから、今しも近づいてるかもだけどね。

でも動きの遅い敵だから、急に誠っちゃんが落ちてきたんで、集まれないのかも知れないわね」


ウツボカズラが何に反応して人を襲うのか、も判らない。

本当の食虫植物なのであれば、振動を感知して口を閉める、ぐらいなのだろうが、この密林がウツボカズラの仕業なのだとすると、かなり謎の多い敵だ。


一方、石巨人だった少年は、未だ気を失ったままだ。

失血が多かったので、傷は治したものの、輸血も水分補給もできない状況では、目覚めないのかもしれない。


あの脳の中の蜘蛛は、学生連合の薬の影響だとは思うが、誠も主に治療を吉岡に習っているだけなので判断はつかない。

ただ生物が影の手を認識できるとは思えないし、まして噛みつけるハズがない。


影の体と誠は、影で常に繋がっているので、自由に会話できる。


「誠、本体どころか、ウツボカズラもいないぞ!」


颯太が言うと、次々と、


「こっちも見ないわね」


と中村、


「同じく〜」


と元キャバ嬢アサミも言う。


皆は放射状に広がっていたが、その範囲ではウツボカズラは見かけないという。


上の階の密生状態を考えると、明らかに少ない。


誠の探す本体が上の階にいる可能性は高い気もするが……。


「とにかく、まずこの階を徹底的に探そう。

中途半端で決めつけるのは危険だ」


誠は判断した。


「誠さん、ここになんか蛹があるよ」


ギャル男のハルが不思議なものを発見した。

それは、黒ずんだ、蝶の蛹のようなものだった。


自然の蛹とは考えられない。


昨日には無かった木々なのだから……。


「ウツボカズラが蛹になった、のかな……?


誠は考え込む。


歩くウツボカズラといい、脳内の蜘蛛といい、常識の通じない怪物だから、蛹になっても不思議ではない。


ただ、そうだとしても、蛹が本体とは、あまり考えにくい……。

だが……。


「みんなも蛹が無いか探してみて!」


誠は言って、自分は木を切りながらハルの方に向かう。


何の関連もない、とは考えられなかった。


調べれば、きっと本体の謎に近づくはずだ。


「これ、攻撃してみようか?」


ハルは蛹に近づく。

誠の脳内へは、幽霊は皆アクセス自由だから、知らない影に迂闊に接近するのはとてつもなく危険なのは判っているのだが、現実、ハルは己を過信していた。


誠が、強い影繰りだと勘違いしているのだ。


影には、強いも弱いも無い。

戦いはいつも状況に左右されるだけだ。


中間距離の戦いや、空中なら誠は有利に戦えるが、接近戦を余儀なくされればオーラが纏えないだけ不利だったし、透過では交わせない攻撃も少なくない。


その辺が新しく入った仲間には理解されていない気が、誠はしていた。


ハルになにか起こらないうちに誠が行ければ良いのだが、木や草の密生状態は上と同じで、切って進むのは限界がある。


透過すればもっと早いのだが、それだと思わぬ攻撃を食らいそうな気がしていた。


「ハル、今行くから、ちょっと待ってて」


誠は言うが、偽警官は。


「誠っちゃんは本体なんだから近づかないほうがいいわよ。

幽霊は、怪我なんてしないわ」


それはそうなのだが……。


迂闊な攻撃は、何かの引き金になりそうな予感が、誠の頭をよぎっていた。


ハルは、そんな誠のことはつゆ知らず、影の手で蛹を切断しようとしていた。


蛹は、一番脆い状態のはずだし、脱皮して何か危険な影になる前に仕留めるのは正しい選択だと、ハルには思えた。


ハルが影の手を振り上げた頃……。


「誠っちゃん!

ここにも蛹があったわ!」


偽警官の言葉に、えっ! と誠は立ち止まる。


すぐ近くの枝に、十センチあるかないかの、黒い蛹が、確かにあった。


ハルの目を通して見るより大きい気がする。

実際、昆虫は蛹状態のときは羽根はシワクチャな体の一部になっているので、かなり大型の昆虫でも、蛹はそこまで大きくはないはずだ。


オニヤンマもヨナグニサンも、蛹のときは胴体も成虫よりもずっとコンパクトだと聞いた。


と、すると、この蛹が羽化すると、何倍の虫になるのかは、虫嫌いの誠には予測もできない。


虫は皆、脱皮の度に大きくなる、とどこかで聞いただけの話だ。


正直、動かないとはいえ、虫に近づくのも嫌な誠だが、今はそれどころではない。


影の手を透過させて、内部を調べようと考えたとき、木々の奥から爆発音が聞こえた。

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