103密林
敵を十体以上倒したが、倒せば倒すほど木が茂っていく?
そして敵はウツボカズラだが、紫色の花だという。
外は、何十分も前から木に覆われているのを考えると、もしかしたら一つの影では無い事も、考えられる。
また、顔泥棒が死んだ敵に何かを入れると、より強くなって再生する、という話は中居やユリコたちに聞いていた。
そのどちらかなのか、と考えられるが、ただし敵が大量にいるらしい、というのは、あのサソリ少年のようにウツボカズラの親玉がどこかにいる、とも考えられた。
問題は、親玉がどこにいるのか、だ、。
このフロアで前からユリが戦っていたのだから、親玉はユリに接近している、とも考えられるし、ウツボカズラはいくらでも作れるのなら、むしろ親玉は隠れるべき、とも言える。
しかし、何にしろこの密林では、親玉もウツボカズラも、そうそう見つけることは出来そうにない。
誠は、颯太と田辺に、周辺のウツボカズラを探してもらった。
まず自分の身を守れないと、ユリを助けられない。
「誠、三匹いたから倒しといたぜ!」
と颯太。
「こちらも二匹倒した」
田辺も教えてくれた。
ジャングルは厄介だ。
歩くに歩けないが、枝を払ったとしても、ウツボカズラのいい隠れ蓑になってしまう。
「そうは言っても、これでは危なくて進めません。
枝を払う必要があります!」
真子が語った。
確かに、幽霊が探してウツボカズラを退治した枝から、切っていくしか方法が無いようだ。
誠は、真子の切断を使って、枝を払った。
進みながら枝を切っていくと、足元にも無数の花が生えているのが判った。
敵が複数いる以上、花も刈って前進する。
十匹のウツボカズラが見つかった。
颯太によると、動きはゆっくりだが天井や枝を這って歩く能力があるという。
「やっぱり、何処かにウツボカズラの親玉がいるんだ!
探して」
誠は幽霊に頼みながら、影の手で枝や草を払っていく。
ユリと合流するか、少し迷ったが、誠はユリとは逆方向に進む事にした。
何より、敵の本体を見つけなければ、何も変わらないからだ。
少し進むと、エスカレーターが見えてきた。
だが朝顔にも似た蔓植物が一面に絡みつき、その下には、金属を破ってイバラのような赤い花の茂みが道を塞いでいた。
「誠、下があるようだぜ!」
裕次が言った。
なんか呼び捨てなんだよなぁ……。
と、誠は不満に思う。
颯太は誠が、まだ己が影繰りとは気づかない頃、殺してしまった同級生なので、幼児の頃から顔は知っていたし、呼び捨てでも良いのだが、裕次に呼び捨てにされると、色々、知られたくない秘密を知られてしまったので下に見られている、ような気になるのだ。
学校では勉強ができる方なので、それなりに認められているように思うが、その実、かなり必死に努力してるのを見られたり、その他、誠がクローゼットの奥に隠してあるようなことも、元々頭を覗ける幽霊には秘密にはできない。
影繰りとしてはエースのように言われていても、その実、ヘタレで颯太たちに助けてもらっているのも、裕次には隠しようがない。
なんかなぁ……。
などと誠が拗ねている内に、
「先に階段があるわ」
元キャバ嬢のアサミが教えてくれた。
誠は、不満を頭の端に追いやって、階段に向かう道を切り開くことにした。
頭から垂れ下がる団扇のような葉の蔓植物をザクザク払い、広めに通路を確保する。
「このホールには、本体はいないんだよね?」
田辺は、
「いない」
と即答した。
「しかし、相手の姿が判らないのは確実性に欠けます」
真子は疑問を呈した。
「本体なら、あれがワラワラいるはずだろ?
いないんだから、間違いないさ」
裕次が口添えした。
確かに本体の姿が判らないのは、いくら二十人で探していたとしても取りこぼす元だ。
誠は、全ての幽霊に影の体をつけ、枝や草を刈りながら敵の捜索をしてもらうことにした。
木の密度が薄まれば、本体も発見しやすくなるはずだ。
階段があるということは、同程度の広さのホールが下にもあるのだろう。
エスカレーターの状態を見ても、下の階も相当に木が茂っているはずだ。
ユリと合流することも考えたが、このホールはユリに任せてもいい気がする。
何より、本体を見つけることが一番重要なはずだし、この階にはいないと田辺も言っていた。
うまくすれば、ユリとの合流にかかる手間で、本体と遭遇し、倒せるかもしれないのだ。
仮にユリがピンチなら、透過ですぐに駆けつけられる。
誠は階段へ向かった。
エスカレーターよりは頑丈ということなのか、階段は突き破って生えるような木は少なかった。
ただし草は所々に生えていて、だいぶ根元から刈ってあるが、躓きやすかった。
用心深く誠が降りていくと。
「ほー、木を切ってる奴がいると思ったら、弱そうなガキじゃないか」
全身が岩石でできた、二メートルを超える巨人だった。
胴体はスマートで、手足が長い、アフリカンのような体型の岩人間だった。
近接戦闘系か…。
誠は唸る。
影の手はあるものの、あの岩の体では、パンチやキックを一撃でも受けたら、誠の戦いは終わりそうだった。