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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
101/153

101田中圭介

誠は、透過して空に出ようと思ったが、スカイツリーを覆う謎の木の葉が気になった。


展望窓にも、一面に蔓の走る謎の木の葉は風にゆらぎながら、まるで手招きでもするように、揺れ動いている。


全長六三四メートルのスカイツリー全域を覆っているのだ。

必ず学生連合の怪物なのには間違いはなかった。


入るときには何の抵抗もなかったが、自由に出られるとは限らない。


いや、普通に考えれば、出られない罠のはずだ。


と、すれば、安全とは言い難いもののエレベーターを使うしかなさそうだった。


本来は、誠は密室には入りたくない。

何しろ、さっき密室で川上に負けて涙したばかりなのだ。


どう考えても誠は、中間距離からロングレンジで、敵と戦うべき影繰りだった。


何しろ近接戦闘のオーラが纏えないのだ。


無論、透過で避けまくって影の手や、内臓を攻撃したり、自ら影に入って撹乱することは出来る。


だが、それも本当に近接戦闘のスペシャリストが相手ではどこまで通じるのかはおぼつかない。


大人の、年輪を重ねた戦闘者となると、誠の小手先の技では、きっと手に負えなくなる。

常に誠はそれを恐れていた。


おそらく、アクトレス教官が本気になったら、誠は一分と生きてはいないだろう。


教わっているからこそ、誠には教官の実力が明確に判った。


とはいえ、立ち止まっていても仕方がなかった。


誠は死体を避けて歩きながら、エレベーターへ向かった。





どうするか……。


川上は、天井に浮いた人質たちを見上げ、そしておそらく、人質たちの中に隠れているのだろう犯人について考えた。


いわば、人質の壁を作り、中で薄笑いを浮かべているらしい犯人は、決して川上と接近戦などしないのだろう…。


内調にも近接戦闘のエキスパートというのは、いる。


中居が、もっとも川上に近いだろう。


中居は、川上に必殺兵器を見せてくれた。


シャツの裏に隠した、各種弾丸だ。


本物の近接戦闘のオーラをまとった影繰りは、普通の銃弾など弾くのだが、とはいえ、銃弾にも様々な種類がある。


マグナム弾、ダムダム弾、鋼鉄製のフルメタルジャケット。


対物用の大口径弾丸や小型のミサイルまで。


そーいうものを備えておけば、相手の気が変わることもある。


殴り合うほうが得策だと。


まだ実践経験の少ない川上は、そういう備えも無かった。


特に、今のような状況。


敵は天井に張り付いており、しかも人質の壁を作っている。


何か投げる?

しかし何を?

ソラマチの水族館である。

清潔で、落ち葉一つ落ちていない。


川上自身はジャージとハーパンであり、投げられるようなものはスニーカーぐらいしか履いていない。


だが……。


中に靴を投げたら、そりゃ敵も気づくに違いない。


それでは人質の安全は守れない。


川上は、小型うさぎを壁外に出して、壁に登れるか、試してみた。


いつもの戦闘ウサギは、影で作るにしてはヘビィウエイトで、跳躍力はかなりあるが、壁登りはやや苦手のようだ。


出来なくもないが、かなりトロイ。


だが斥候をした小型ウサギは、ほぼリスなので軽快に壁を駆け上った。


そうか……。


影は、色々に使い分ければいいんだ!


壁にはリス、水中には魚にもなれるかもしれない。


そして敵は、どうやら影繰りではないらしい。


つまり、もしかするとウサキが見えない可能性もある。


なら、相手の欠点を突くのも戦いの常道だった。


川上は、八匹のリスを、音もなく室内に忍ばせ、壁を登らせた。





ユリはホウセンカを抜けて、奥の通路に出た。

だが、多分だがウツボカズラは一匹ではない。あまり逃げ回ると、逆に新たな敵のテリトリーに入りかねない。


一匹づつだ!


ホウセンカの後ろへしゃがんで隠れたが、敵の動きは判っている。


ユリを追って真っ直ぐ近づいてきている。


天井に貼り付いたウツボカズラは、用心深く、足を一本づつ動かし、前進している。

一番前の足を大きく動かすときに、脇の三本は天井板の上を滑るように前進させる。


前足の動きは蛸のようだが、後ろ足はアワビなどの貝や、ウニなどのようだ。


ユリとの距離はおよそ二十五メートル。


決して動きは早くない。


そのウツボカズラの背中…、花の後ろの葉の裏にはユリの虫が付いていたが、もう一匹、ユリの肩に乗っていた虫の一匹が羽を広げ、ウツボカズラに迫っていた。


ピト、とウツボカズラの花の側面に虫が止まった瞬間、ユリは能力を発動した。


虫が止まった周囲から数十センチ、全ての生命活動が止まる。


血液は流れなくなり、筋肉もただの肉塊と化し、心臓があれば、心臓も止まる。


ウツボカズラは、一瞬、ビクンと動いたが、そのまま廊下に落ちた。





誠は、下行きのエレベーターのスイッチを押し、待った。


敵がいる可能性は、スカイツリー外側の様子を見れば少なくはないが、不明だ。


というより、何の目的でスカイツリーを襲っているのか、それすらが不明なのだ。


たぶん敵は、ペナンガランの襲撃やこの前の同時多発的な襲撃で、多くの被害者を出している。


だが襲撃する場所の一貫性も、何か標的が存在するのか、も全く判らない。


彼らの襲撃が成功しているのか、どうかも全く理解不能なのだ。


今回のスカイツリーはテレビ塔であり、もし東南アジアのマフィアであり、妖怪だという彼らにグーデター的な目的があるのなら、ここを占拠し、電波ジャックを行い、何らかの政治的な主張を宣言する、事は、一応は理にかなっている。


ただし、このSNSの時代であれば、必ずしも放送設備を占拠することは、東京全てを戦場にするつもりがないのなら、あまり意味は無いように思う。


むしろテレビ塔の攻撃は、軍事的な作戦行動に当たるため、流石に軍の出動に慎重な日本政府も黙って見過ごすことはできないだろう。


今回の敵は、今までのような影繰りとは違う。

銃で撃たれて死んでいるし、外見もまさに妖怪だと言えた。

ヤギョウの隼人によれば、影繰りの進化型のようなものらしいが、あの粘菌の化け物や、ペナンガランやカッパに船幽霊など、とう進化したら影繰りが妖怪になるのか、さっぱり判らない。


たぶん……。


目的を知っている人物がいるとしたら、顔泥棒ぐらいなのだろう……。


思ったときに、電子音と共にエレベーターの扉が開いた。


そこには、少年が一人、薄笑いを浮かべて乗っていた。


あの格闘チャンピオンを病院送りにしたという小柄な少年、山田圭介だった。


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