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シャドウダンス4空飛ぶ怪異  作者: 六青ゆーせー
100/153

100水槽

スカイツリーに白骨死体?


そんな非現実的な事がある訳なかった。

山林でも古戦場でもない。

ここは地上三百メートルの上空なのだ。


これは…。


多分、あのトゲに刺さった人間の末路なのだろう。


体内の養分は全て植物に変換され、あとには枯れ枝のように白骨が残る…。


ユリは、背中の虫をお尻に移動させ、あの紫色のウツボカズラを見た。


動いていた。


奴は、天井に這わせた根のような足を蛸のように動かし、ゆっくりと、しかし確かにユリを追って近づいてくる。


あれがここの人を皆、殺したのか?


ユリはかすかに違和感を感じた。

それにしては、動きと人数が合わない気がした。


エレベーターに並んでいた数は、花よりずっと多い。


無論、この展望デッキもかなりの広さのはずなので、全ての人が花にされていたのなら数的には合うのかもしれない。


だが…。


あのウツボカズラもどきは、ずいぶんと、鈍い。

一匹でこの一フロアをすべて制圧できるのだろうか?


ユリの頭を、そんな考えがよぎるが、とまれ、まずは眼の前の敵をどうにかしなければ、その先は無い。


僕が負けたら、水族館に行ったはずの川上が困る。


ユリも川上には仲良くしてもらっていた。

川上は強い。


だが、遠距離攻撃は苦手だ。


そしてこいつは、花に擬態して遠くから人を狙うスナイパーなのだ。


川上との相性は最悪だ。

なんとか僕が、このホールの、たぶん全てのウツボカズラを駆逐しなければ…。


ユリは、ごめんなさい、と謝りながらホウセンカの枝を折り、奥に進んだ。


植物に虫が効くのか…。


思ったが、おやっさんはしょっちゅう殺虫剤を持って、植木にかけていた。


虫は、花を枯らすのだ!


そうだ。


花だと分かった時点で、僕は既に有利なんだ!


僕は、奴の天敵なのだから!





小百合の横を女子高生の三人組が横切っていく。


高校に通っていた頃、ユリコやハマユとは特に話もしなかったので、あんなにキャピキャピした女たちには、小百合は嫌悪感を持つ。


どうせ男を意識して可愛いぶっているのだ。


真ん中の女が、わざわざ二人の前に飛び出して、振り向いて大げさにおどけてみせた。


なんだ、クソ詰まらない…。


思うが…。


うちの高校に、あんなことする奴、いないよな?


昔、小百合が通っていた高校にも、あすこまでオーバーアクションの奴はいなかった気がする。


演劇部か何かだろうか?


だが、そうしてみてみると、カップルも、バカップルよろしく、抱き合ったり、ふざけたり、子供も、踊るように感情を表していた。


これは……。


差別的だと罵られるのを恐れずに言えば、聾唖者に見られる、行動ではないか?


手話まではいかないが、必ず相手に顔を向け、オーバー気味に感情を伝える…。


小百合も、数えるほどしか会った事はなかったが、コンビニでバイトをしていたため、何組かそうゆう人を見ていた。


彼らは表情が本当に豊かで、熱心に自分の気持を伝えようとする。


必ず、相手の顔を見て、向き合って意思疎通をする。


しかし、そんな人物が影繰りだったとして、これだけの人間を操れる場所などあるだろうか?。


小百合は、急に急いで敵に察知されるのを避けながら、先程見た、ソラマチの全体マップへ確認に向かう。


例えば、小百合の推測通りの人物が敵であったとして、それを自然にできる場所!


静かで、可能なら他人には見られない場所がいいのではないか?


落ち着き気味の急ぎ足で、小百合はマップを見た。


7階……。


プラネタリウム……。


多分ここだ……!


暗く静かで、誰も他人の表情などは見はしない。

天井の星を見ているのだから!


小百合は意を決し、エスカレーターを登る事にした。





リスの大きさのウサギは、前足を低くし、後ろ足をゆっくりと動かしながら、仕切りの先の暗闇に近づいていく。


闇に近づくにつれ、闇の中に、何か白いものが動いているのが視線に入る。


なんだ……。


川上は、唸った。


魚ではないような動きだ。

だが、ここは水族館だった。

魚しかいない場所ではないのか?


まあオットセイもいたし、魚と言っても色々だ。


敵にバレないよう、数ミリ単位でウサギを前進させていく。


無論、魚の正体などは何でもいい。

敵と、人質がどうなっているのかを知る必要があった。


もしかすれば、人質さえ開放できれば、敵は接近戦を挑むかもしれない。


だから、まずは現状を知ることが必要だ。


少しづつ……。


少しづつ……。


リスのようなウサギが、前進していく。


と……。


何だこれは……。


川上は、万華鏡を見ているような気分になった。


そこはたくさんの水槽が立体的に組み上げられ、その中一面に、無数のクラゲが、浮かんだり沈んだり、フワフワと漂っていた。


あっけに取られた川上だが、無論クラゲなどどうでもいい。


問題は、犯人と人質だった。


だが、今ウサギの見ている範囲にいるのは、無数のクラゲだけだ。


おいおい……。


どこにも、誰もいないじゃない…、か……、えっ……?


川上の額から、脂汗が流れた。


立体的な水槽などではなかった!


クラゲは、半数以上、室内の空中に浮かんでいるのだ。


慌ててウサギを前に出すと、高い天井に、クラゲに頭を抱えられた人間たちが、まるで風船のように、天井に綺麗に並んでいた……。


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