プロローグ
いきなり、変な展開ですがストーリー上仕方ないので…。
「え、真子ちゃんって、家出扱いなんですか?
当人は自殺したって…?」
新基地の訓練室で、誠は美鳥から驚くべきことを聞いた。
「それが、奴の恐ろしいところなのです。
奴は、いつでも私の顔と声を使うことが出来るのです」
誠が、すっと真子になるのは、美鳥もよく見ていたが、未だに慣れない部分もある。
ユリコによると、匂いも女になっているらしい。
当人は確かめたことは無いらしいが、つまり体も? と考えてしまう。
何気なく胸を見るが、スポーツTシャツはそれほど大きくは変わっていない。
まあ、さすがに急に胸が飛び出してきたら当人も気づくだろうが。
そのまま目線を下げてみるが、誠は大概、スパッツの上にハーパンを着ているので変化は判らない。
「でも、彼は顔を盗んで何をしているんでしょうね?」
口調から、誠に戻ったらしいが、肉体的な変化は判らない。
が、ちょうど大汗をかいたユリコが通りかかって、
「おー、真子、久しぶり!」
と言って、なんと誠の股間を叩いた。
「見事に無いな。
どーなってんだ?」
と、言うことは、誠ではなく真子だったのか?
「わ、止めてください!
自分でも確かめたことはないけど、多分普段より小さくなってる程度ですよ!」
しかしユリコは、ゴリゴリ股間を揉みだして、
「え、無いだろこれ?」
とハーパンを脱がそうとし始め、
「ずっと真子ちゃんでいると、完全に女の子になるんですが、今は小学生男児程度にはありますよ!」
「確かめているの?」
美鳥は驚いてきいた。
誠は困惑しながら、
「つまり、完全に男のときや、今みたいに中途半端なときは、まだ男なんで、男性トイレを使います。
無くなれば、感覚で判るんで、トイレに行きたいときは真子ちゃんに行ってもらいます。
まれに、微妙なのがある場合があるみたいです、あ、真子ちゃんの証言ですよ!」
必死にハーパンを押さえながら、誠は話した。
「しかし、あんた、ユリコと結構な力勝負が出来ているのね」
美鳥は、別なところに感心した。
誠は、Aとの戦いのあと、相当に強くなっていた。
影を使わなくても、青山もてこずるほどのパワーを出すようになったのだ。
「どういう変化なのか、身体能力は普通に向上しています。
足も早くなったんです。
でも、不死身になったわけでもないし、ゾンビも作れません」
「バーカ、これがユリコさんのリアルパワーとでも思ったかよ!」
ケケ、とユリコはさすがに誠を圧倒し始めた。
「あー、今、少しづつ女になってるから、止めてください!」
声も高くなった気もするが、元々誠は、電話で少女と間違われるほどの高音なので、気のせいかも知れなかった。
「バカか、俺も美鳥も女だぞ!
女になってるなら、なにも隠すこと、無いだろうが!」
「基本骨格とか、やっぱり原型は男なんですよ!
それに、本当に変わるのは、何十分もかかるんです!」
悲鳴のように誠は叫んだが、あっ、とあっさり脱がされてしまった。
「いやぁ、こりゃ、ちーせいな」
誠は、ちら、と見て、目を塞いだ。
男性器もあるが、縦に筋も入っていた。
「あー、気が済んだならいいでしょ!」
誠は言うが、
「まあ待て。
これから、女になるんだろ?」
「なりますよ」
と、明らかに真子が出てきた。
「これも、もう男の子とは言えないんです。
ここをめくると…」
と手は真子でいじっているが、頭は誠で、
「止めてよ真子ちゃん!」
「いえ、こういうことはハッキリさせておかないと。
特に誠さんのとき、時々、男の目が気になります。
女性には理解してもらって、いざというときには助けてもらわないと」
結局、誠の体の時も、時おりは真子は出ているらしい。
しばらく女性三人? にもてあそばれ、誠は解放された。
しかし、と改めて誠は首をかしげる。
顔泥棒は、いったい何をしているのだろう?
例えば、網膜や指紋照合などで現金を奪う、ということもあり得たが、それでは真子は標的になり得ない。
無論、一つの目的だけがあるのではなく、その影能力をいかせるあらゆることをしている、とは考えられたが、それにしても一人一人の顔を盗んで財産を巻き上げるにしても、セコい儲けだろう。
無論、アイチさんのように収入よりも、自由に生活したい、という人もいるのだが、それでは顔泥棒は自由なのか。
時おり真子になって家族に連絡をしたり、もし仮に十人の顔を盗んでいたとしたら、結構忙しいのではないか?
しかも多分、誠の思うに、被害者は十人どころでは利かないのではないか?
影能力に目覚めてから、真子を襲った時のように、極めて手際よく顔を盗むには、相当な経験が必要なはずだ。
と、なるとこの男は、四六時中他人になって、知人と連絡を取りつつ、行方は眩まさなし続ければならない。
いったい、どういう奴なのか…。
学生服に戻り、大門の駅に着いた誠は、ポン、と肩を叩かれた。
「あ、静香ちゃん、今帰りなんだ?」
えへへ、と静香は笑い、
「新聞部は忙しいのよ。
今日も、なんとか言う昔の武将の首塚とか、お墓や井戸へ行ってきたの」
多分将門だろうか。
神田明神の神様なのだが、怪奇な伝承や祟りも色々伝わる、それを神の力、と考えると神徳のとても高い神様だ。
「うちの学校の新聞部って、そんなオカルトな事も取り扱うの?」
もっと学術的な事をすればいいのに、と余計なお世話に考えながら、誠は静香に聞いた。
静香は、高校では新聞部に入り、人が変わったように活発に活動している。
友達もずいぶん出来たようで、休み時間も部の仲間と賑やかに話している。
誠も誠で、カブトや川上、ユリが集まってきて、賑やかなので、学校では思うようには話せない感じだ。
朝は一緒に登校しているのだが、そのぐらいが二人の時間だった。
誠と静香は、同じ高円寺に住んでいるので、同じ地下鉄で帰ることになる。
「新聞部って忙しいんだね?」
「ええ。
壁新聞はもとより、今はWeb版も日々、新しい情報を提供しているから、毎日忙しいのよ」
静香はAに誘拐されたこともあり、今も、一応は内調のガードがついているはずだった。
とはいえ、誠にもどこにいるのか、見当もつかない。
影繰りであれば、かなり離れても静香の動きは追えるだろう。
現に、授業が終われば司令部に入る竜吉などなら、影のパソコンで全ての動きを把握できるはずだ。
静香はスマホを出して、新聞部のWebを出して見せた。
「ほら、箱根に飛び交う顔だけの妖怪、とか最新ニュースが見られるのよ」
箱根神社周辺に、顔だけのオバケが出るのだと言う。
「箱根まで取材に行くんだ。
大変だね」
webページにはふんだんに写真も載っていた。
「それほどでもないわよ。
ロマンスカーに乗って、箱根湯本まで行き、後はバス。
近いものよ」
静香は見違えるほど活動的になっているのだ。
誠は、あちこち行く事もあるが、ほぼ内調の車に乗っているので、1人で東京を出る方法もあまり知らなかった。
「ロマンスカーか。
昔家族で乗ったな。
先頭に乗りたいんだけど、無理だった」
勘違いしている仲間もまだいるが、誠は鉄道好きなのではなく、地下構造物好きなので、地方に行く意義をあまり持っていない。
それでも、名古屋や京都、地下鉄の発達した場所は魅力的だったが、さすがに箱根に地下鉄は無いだろう。
「見て、この写真!」
スマホをスクロールして、奥に進んだ。
ブレブレの写真だ。
フラッシュがきつかったのか、明るくなった顔が、光が飛んでいる。
「これが、正真正銘の妖怪よ!
あたしたちは本を漁って、ペナンガランと名付けたわ!」