冬の庭とデザート 4
フワフワする感覚。階段を上りながら、まるで雲の上を歩いているみたいだった。
食事をしたあと、完全に日が暮れる直前のほんの少し明るさが残った空をテラスから騎士団長様と一緒に眺めた。
火照ってしまった頬に、ヒンヤリとした風が心地よい。
「……まるで、さっき食べたデザートみたいな空ですね」
「ああ、美しいな……」
「ところで、魔女様に氷結ベリーを収穫したお礼に聞いたのは、どんなことだったのですか?」
「……そうだな。だが、冷えてきたから部屋で話をしよう」
騎士団長様の言葉に合わせたように強い風が吹き始めた。
強い風に運ばれてきたのか、一匹の妖精が星明かりに紛れてキラキラと私たちのそばを飛び回っている。
(なんとなく、この妖精はいつも私たちの周りを飛び回っている気がする)
そんなことを思っていると、そっと大きな手が、私の頬をもう一度撫でる。
そのまま手を繋いで室内へと引き返した。
淡いブルーのソファーに二人で並んで座る。
大きなソファーなのに、太ももが触れあうくらい私たちの距離は近い。
そうね……。婚約者になったのだもの。
いつになれば、騎士団長様のそばにいることになれるのだろうか。
ドキドキと高鳴りすぎて呼吸もままならなくなってしまい、そっと胸に手を置く。
どんどん熱くなってくる頬は、これからの展開を予感してしまっているからなのだろうか。
「……リティリア」
その声に見上げると、淡いグリーンの瞳に私だけが映っていた。
そのまま見つめていると、長い指先がそっと私の前髪をどかした。
「やはり、瞳の色が濃くなったようだ……」
「え?」
そのとき、脳裏に浮かんだのは、朝一番にお忍びでカフェ・フローラを訪れた陛下の言葉だ。
『……ふむ、淡いが美しい紫だな。しかし、以前得た資料に比べて幾分色合いが濃くなったか?』
毎日見つめている瞳の色が、ほんの少しずつ濃くなったとしたら、人は気がつくことが出来るだろうか。
ある日、ものすごく濃くなってから、違和感に気がついても……。
「……まさか」
柔らかく沈み込んだソファーから立ち上がるのは容易ではない。
少し苦戦していると、先に立ち上がった騎士団長様が手を引いてくれた。
「――すまない。レトリック男爵領から帰ってきたころから、違和感は感じていたんだ……」
鏡の中に映るのは、いつもの私に違いない。
けれど、記憶をたどってみれば、確かに以前よりも自分の瞳の色が濃くなっていることがわかる。
「どうして……」
「それ以上の質問は、受け付けてもらえなかったが、対価さえ支払えば」
「っ……ダメです! そもそも、オーナーを助けたときの対価だって」
「……それは、問題ないから」
「アーサー様は、いつだって自分が大変なことを隠してしまうから、信じられないです」
思ったことを告げてしまったあと、これでは騎士団長様を信頼していないみたいだったと後悔する。
けれど、お詫びの言葉を継げる前に唇は塞がれてしまった。
横目に見れば、大きな鏡には背中を大きく曲げて私に口づけをする騎士団長様と、不格好なまま固まってしまって抱きつくこともできずにいる私が映っている。
離れた唇と、熱い吐息と酩酊感。
まるで、お酒を飲んでしまったみたいにクラクラする。
「……あの、似合いませんか?」
「え……?」
「瞳の色が変わったといっても、ほんの少しですけど」
返事の代わりに、お姫様のように抱き上げられ、そのままベッドに降ろされる。
見上げた騎士団長様は、眉を寄せてほんの少し怒っているように見える。
「どんな姿でも愛している。そして、リティリアがどんな境遇に陥ったとしても、そばを離れない」
「……ふぇ」
頭の横に騎士団長様が肘をついて、頬に口づけが落とされた。
それは、幸せで、温かくて……。
「私も、アーサー様のこと」
その言葉は、急激に訪れた幸せな眠気に遮られてしまう。
テラスに向かう扉が少し開いていたのだろうか。
どこから紛れ込んだのか、一匹の妖精が天井を飛び回り、そして消えていった。
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