冬の庭とデザート 2
騎士団長様が加わってから、氷結ベリーの収穫はどんどん進んで、あっという間に籠は青い氷のように輝く果実で山盛りになった。
「わあ! 宝石みたい」
「青色の宝石……」
物憂げに果実を見つめる騎士団長様は、もしかしたら私にまた何か贈ろうとしているのだろうか。
もう、クローゼットルームは満タンになってしまった。身体はひとつ、これ以上貰ってもつけるタイミングがない。
「あの、これ以上私には」
「……困ったわ」
そのとき、魔女様がため息交じりに口を開いた。
紫色の瞳は、深くて、それでいて吸い込まれそうなほど透明感がある。
あからさまに、騎士団長様が眉を寄せたのを視界の端に捉えた。
「思ったよりもたくさん採って貰ったから、対価のバランスが崩れてしまったわ」
魔女様がそう告げたとたん、氷の世界はいつもの見慣れた春の庭へと変わる。
赤い三角屋根の魔女様の家が、白く霞んでいた景色が消えると同時に現れた。
「もうすぐ消えてしまいそうだったから、対価に釣り合うくらいの収穫量だと思ったのに……。果樹園の手伝いをしたことでもあるの?」
「ん? レトリック男爵領で、魔獣被害で人手が集まらないと困っていた農家を少しだけ手伝ったな」
「えっ」
私の知らない間に、騎士団長様はレトリック男爵領の果樹園まで手伝っていたらしい。
また、騎士団長様の知らなかった一面と活躍を知ってしまった。
「なるほど、ね。さてさて、氷結ベリーは今回作りたい魔法薬のメインになる素材なの。だから、私にとってとても価値が高いのよ……」
頬に手を置いて困ったように首をかしげた魔女様。
どんどん表情が険しくなる騎士団長様。
そして、一人取り残されたように状況がつかめない私。
「ふふ、そんな顔しないの。悪いようにはしないから」
「……魔女殿は」
「そうね。……これくらいなら、調度いいかしら」
ふわふわと体重を感じないような歩きで騎士団長様に近づいた魔女様は、青い果実を一粒指先でつまむと耳元に口を近づけた。
私には聞こえないようにささやかれた言葉に、騎士団長様が淡いグリーンの瞳を見開く。
「待ってくれ、それは!」
そのとき、魔女様が指先につまんでいた氷結ベリーを騎士団長様の口に押し込む。
「質問は認めないわ? 今度は命がけで対価を払うなら別だけれど」
「……っ」
完全に騎士団長様が眉を寄せてしまったのは、魔女様の言葉のせいだけではないだろう。
気が付けば私たちは、カフェ・フローラのバックヤードに立っていた。
「あの、お水飲みますか?」
「……そうだな。頂こう」
――そう、加熱する前の氷結ベリーは、とっても酸っぱいのだ。
勢いよく水を飲む騎士団長様。
私が持つ小さな籠に詰められた氷結ベリーと、騎士団長様が持つ籠に半分ほど残された氷結ベリー。
青い果実はキラキラと溶けかけた氷のように輝いていた。
夜勤前にそっと更新。
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