冬の庭とデザート 1
ようやく仕事を終えた私は、在庫整理をしながら帰宅の準備をしていた。
「氷結ベリーのジャムの在庫がもうない……」
氷結ベリーのジャムを使ったメニューは大人気だ。
不思議な食材を多用しているカフェ・フローラ。
ジャムを作ることは難しくないけれど、問題は食材の仕入れだ。
氷結ベリーは、北端のリーヴァ王国、氷に閉ざされた高山に育つ希少な果実だ。
もちろん、入手先は一つしかない……。
「魔女様の家に寄らなくては」
けれど、今までと違って魔女様の家は、バックヤードの裏口隣の扉をくぐればすぐにある。
その場所が実際どこにあるのかはわからないけれど、とても便利なのだ。
「今日のコーヒーと氷結ベリーのジャムをかけたミニパルフェをお持ちしよう」
今日のコーヒーは、酸味が強い。
ブラックで飲むと美味しくて、酸味があるベリーのジャムとの相性が抜群だ。
パルフェとコーヒーをトレーに乗せて扉をくぐると、そこは一面の氷の世界だった。
「寒い……」
魔女様の家には、何回も訪れたけれどいつでも季節がバラバラだ。
オーナーが以前、時間や空間が捻れていると言っていたけれど、これほどまで顕著なのも珍しい。
庭を歩めば、一本の木が目に入る。
その木は氷で覆われていて、厚着をして籠を抱えた魔女様が腕を伸ばしていた。
「……魔女様?」
「あら、リティリア。そろそろ来ると思っていたわ」
「えっと……。収穫ですか?」
「そう。氷結ベリーを収穫しているの」
まさか、いつも分けていただいている氷結ベリーが魔女様の庭でなったものだなんて想像したこともなかった。
もしかして七色サクランボも自家製だったのだろうか……。
「まさか」
「え?」
「今回は、繋がってしまった場所との関係でたまたまよ」
「……カフェ・フローラ以外の場所にも繋がっているんですか?」
「どこにでも自由に繋がるわ。制約は重い代わりに……」
魔女様の微笑みは美しくて、つり目な印象の冷たさが雪解けのように柔らかく消える。
どこか儚いその美しさと紫色の瞳のせいで、今日も母のことを思い出す。
「さ、収穫を手伝ってちょうだい。そうすれば、対価として氷結ベリーを分けてあげられるわ」
「……いつも対価を払っていませんでしたが、大丈夫だったのですか?」
「今までは、対価分をシルヴァが働いてくれていたもの。もちろん、彼が作った魔方陣のスクロールや魔法薬はとても価値があるから対価として十分だけれど……。あなたも好きでしょう? 氷結ベリーのジャム」
「そうですね!」
ツルツル滑る地面に注意しながら、手を伸ばして実を摘んでいく。
けれど、私の背は小さいからすぐに取り切ってしまった。
「そうね。応援が必要だけど……。ちょうど良いわね」
ガチャンと扉が開く音がして振り返ると、扉だけがある不思議な空間の先に目を見開いた騎士団長様の姿が見えた。
「あなたを迎えに来たのでしょうけど、ちょうど良いから手伝わせましょう」
「え……。あの」
「あなたの好物のためだもの。喜んで手伝うわよ。あと、少しお屋敷に持ち帰って料理長へのお土産にすると良いわ。それで労働の対価としては十分でしょう」
魔女様が手招きをすると騎士団長様はためらうことなく庭へ入ってきた。
そして私のことを無言のまま見下ろすと、少しだけ眉を寄せ、マントを脱いだ。
あっという間に、私はマントでグルグル巻きにされてしまった。
「わ……。アーサー様、こんなにグルグル巻きにされたら氷結ベリーの収穫ができません」
「これを摘めば良いのか? リティリアが、風邪を引いたら大変だ。任せておいてくれないか」
「まあ、あいかわらず過保護だこと……。でも、代理での対価の支払いを認めるわ」
「感謝いたします」
背の高い騎士団長様は、あっという間に高いところの果実まで収穫して籠に詰めていく。
お仕事をして帰りに迎えに来てくださったのに、さらに働かせてしまい申し訳なくなる。
「あの……」
「家に帰ったら、料理長に何かデザートを作ってもらおうか」
「っ……!!」
まだ見ぬ美しいデザートに思いを馳せた私は、キラキラした瞳で騎士団長様が持つ籠を見つめてしまったのだった。
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