雲の上のお客様 3
お昼過ぎになっても客足は途切れず、ようやく休憩に入れたのはランチの時間を過ぎてからだった。
「お疲れさま、リティリア」
「ダリアも、お疲れさま。すごく盛況だったね」
「そうね」
今日もダリアは、可愛らしい。
金色の髪を巻いて小さな小さなティアラを飾り、瞳の色とお揃いの淡い水色のドレスに身を包んだ彼女は、王子様を待つお姫様のようだ。
私は可愛いものを見たとき特有の幸せな気持ちで、バックヤードでパクリと新作のオープンサンドを口にした。
多くのテーマが遠い異国の国で、オーナーが見た景色を参考にしているという。
「もう少しゆっくり休んでね?」
「ありがとう」
バックヤードに一人きりになると、決まって考えてしまうのは先日の出来事だ。
あの後から最近完全に引きこもりになってしまったオーナーは、不調を欠片も見せない。
お店の2階では、魔方陣を描いたり、魔法薬を作ったりと王国に貢献しているらしいけれど……。
魔法ひとつで大陸全土を自由に行き来できるオーナー。
けれど彼は、その大きすぎる魔力に呑み込まれる危険性といつでも隣り合わせで生きている。
――もう魔法なんて使わないでほしい……。
胸を締め付ける痛みは、私がオーナーのことを心配しているからだ。
そういえば、どうしてオーナーが魔法を使う度に、店内の装飾品やクマのぬいぐるみが消えるのか聞いてみないと。
パクリと残りを一口で食べきる。
甘酸っぱいベリーと合わさった、大陸北端のリーヴァ王国の生ハムとなめらかなチーズの組み合わせは、甘塩っぱくてほのかに酸味があって食べた者を虜にする。
オーナーが初めて作ってくれたそれは、パンからはみ出した生ハムと崩れたクリームチーズのせいで不格好だったけれど、一口食べてその味に夢中になった。
そこから試行錯誤を繰り返し、小さくて可愛らしいオープンサンドは完成した。
甘酸っぱいベリーは、魔女様に分けていただいた氷の山の奥底で密やかに実る氷結ベリーで作った。
青い果実は火を加えると、真っ赤に色を変える。
ジャムを作る度に、私はその変化に目を奪われる。
「リティリア」
顔を上げると、シンプルなシャツとカフェエプロンをに身を包んだオーナーがいた。
オーナーの顔色が悪いのは、いつものことだ。それすら、こんな世界に存在しないほどの美貌を今日も神秘的に際立たせている。
美しすぎてまるで非現実的にすら思えるのに、何かを見つけたのか軽く目を見開いたあとに笑った顔はどこか可愛らしくもある。
「リティリアは、本当に可愛くて欲張りだね」
胸ポケットからハンカチを取り出したオーナーが、私の口元をゴシゴシと拭いた。
欲張りすぎてたくさんかけてしまった氷結ベリーのジャムが口元についてしまっていたらしい。
「ありがとうございます……」
「いや。……元気がなかったみたいだけど、何かあった?」
「……それは」
どうしてなのか、オーナーは私に質問されたくないように思えた。
オーナーは、私にとって幼い頃から家族みたいに大切な人だ。
困ったような顔を見たくない。
「えっと、そろそろ休憩が終わるので出ますね?」
「……ああ、よろしく頼むよ」
ティータイムが近づけば、再び混雑してくる店内。王子様のようにマントと冠を身につけたクマのぬいぐるみとともに、私は慌ただしく働き始めたのだった。
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