【銀賞記念SS】カフェ・フローラの指定席
SQEXノベル大賞銀賞の感謝を込めてSSを書きました。
この物語を書き始めたときの気持ちを思い出しつつ、ほのぼの可愛いをテーマにお届けします。
騎士団長様はお忙しく、ここ数日カフェ・フローラに来店できていない。
そのことを寂しく思いながら、まだお客様もまばらな早朝のカフェで、店内の様子を眺める。
今日のカフェ・フローラのテーマは、輝く水晶の洞窟だ。
「そういえば、騎士団長様が、水晶だけでできた洞窟があるって話していた……」
時々斜めに差し込む光もオーナーの魔法で作られたものだ。
そうだと理解していても、その度に水晶が七色に輝く様は美しくて、時間が経つのを忘れそうになる。
そして、店員の衣装も水晶にちなんで、キラキラと、きらめく布で作られた精霊みたいなワンピースだ。
水晶があしらわれた髪飾りは、動く度にシャラリと揺れる。
その時、玄関のチャイムが鳴り、我に返った私は、慌ててお客様を出迎えた。
「騎士様……?」
そこには、赤茶色の髪に柔和な笑顔の騎士様が立っていた。騎士団長様とお揃いの制服は、彼が騎士だということを明確に示している。
「いらっしゃいませ」
「一人です」
「かしこまりました!」
「ああ、目立たない席のほうが」
「はい、ではこちらのお席はいかがでしょう」
目立たないといえば、もちろんいつも騎士団長様をご案内するオブジェの影になった周囲から見えにくい席が良いだろう。
そう考えた私は、早速その騎士様をご案内することにした。
「……あれ?」
席にご案内して、メニューと爽やかな柑橘類の香りをつけたお冷やを用意しながら、ふと首をかしげる。
どこかで、あの騎士様にお会いしたことがある気がしたのだ。
(ずいぶん前のことだけれど、どこかで話題にも上っていたような……?)
「あっ!」
ふと浮かんだのは、レトリック男爵領が、危機に陥ったとき、助けてくれた騎士様たちの姿だ。
その中にはもちろん、当時は隊長だった騎士団長様がいて、その隣にいつもいたのは……。
(そう、確かにいらしたわ。それに、騎士団長様に聞いた副団長様の特徴に一致する。赤茶色の髪に柔和な笑顔だと聞いたもの!)
けれど、お客様としていらしているのだ。
余計な詮索は、無用に違いない。
そっとメニューとお冷やを席にお届けして、注文を待つ。
そしてメニューが閉じられたのを確認して、席に近づき声をかける。
「お決まりですか?」
「恋する苺のラテと、キラキラキャラメルのクリームタルト、それから手作りクッキーを」
「かしこまりました」
意外なことに、副団長様は、甘党のようだ。
それにしても、組み合わせのセンスが良い。
恋する苺のラテは甘くて、それでいて爽やか。キラキラキャラメルのクリームタルトは、サクサクとした食感にほろ苦い味がラテに良く合う。
そして、手作りクッキーは、試行錯誤の上完成した自信作なのだ。
少し楽しくなりながら、シャラシャラと鳴る飾りの音とともに席に戻ると、なぜか副団長様の代わりに騎士団長様がいた。
「あれ? 副団長様は」
「……早朝にどうしても打ち合わせがあると呼び出されたのだが、急用が入ったようだ」
「そうなんですか」
「……なるほど、甘そうだな」
いつもコーヒーばかり飲む騎士団長様の前に、色合いも鮮やかなスイーツと苺ラテ。
コーヒーに替えましょうか、と言いかけたとき、騎士団長様はおもむろに苺ラテを口にした。
「……あの、無理なさらなくても」
「……いや、リティリア嬢のように可愛らしく甘いな。悪くない」
「えっ、その!?」
「……いや、忘れてくれないか」
少し照れたように視線を逸らした騎士団長様は、タルトもパクパク食べている。
甘いものは、あまり好まないと思っていたけれど、意外に好きなのかもしれない。
「あまり時間がない。……このあと周囲の巡回がある。このあともしばらく忙しいのだが、少しだけでもリティリア嬢に会えてよかった」
「えっ!」
「では、失礼する」
私に会いに来たようなことを言って去って行った騎士団長様の背中を見送る。しばらくして我に返り、お皿を片付け始める。
「あれ?」
そのとき、ペーパーナプキンが、綺麗に折りたたまれておかれていることに気が付く。
「ここに来たあとの方が、団長はよく働くので……。あと、団長は意外と甘党です」
「副団長様……」
騎士団長様が、忙しくて中々来店できないことを気にして、手配してくれたのだろうか。
賄いに、恋する苺のラテを追加して、私は騎士団長様にお会いできた幸せと副団長様の気遣いに感謝したのだった。
まだ騎士団長様呼びのころの
お話です(*´▽`*)
ちなみに、副団長様は、まだチラリとしか出てきませんが、いい人で苦労人です。




