魔女の家とカフェ 3
「さて、そろそろ戻らなくては」
「……お仕事ですか?」
「ああ、実はリティリアが心配すぎて抜け出してきた」
騎士団長様は、私に微笑みかけると席を立った。
テーブルには、空いたお皿とカップがひとつずつ。ちゃんと朝ごはんも口にしてくれたようでホッとする。
「……リティリア、しばらく忙しくなりそうだ」
「……どうしてですか?」
「シルヴァ殿不在の穴がな……」
「オーナーの……」
王国の筆頭魔術師であるオーナーは、魔獣が侵攻してこないように結界を維持し、自らも最前線で戦ってきた。
その穴を埋めるのは……。
「……っ、アーサー様」
「リティリアが気に病む必要はない。この職に就いたときから、当然のことだと思っている。ただ」
なぜかたくさんのクマたちが、花がたくさんついている枝を持って歩み寄ってきた。
そこには、いつものクマとリボンをつけた女の子クマもいる。
枝で隠された私たちは、周りから完全に見えなくなった。
隠れて、いたずらでもするように、唇と唇が合わさる。
閉じていた目をそっと開けると、南の淡いグリーンがかった海の色をした瞳が、私のことを見つめていた。
「……はあ。せっかく婚約したのに、落ち着かないものだ」
「……アーサー様?」
「遅くなろうと、全力で帰るから」
「……」
「だからどうか、待っていてくれ。……俺たちの家で」
この日から、ただでさえ忙しい騎士団長様は、ますます多忙になる。けれど、朝の短い時間だけ顔を合わせていた私たちは、以前よりたくさん一緒にいられるはずだ。
そんなことを思いながら働けば、久しぶりにお会いする常連さんたちが次々に訪れる。
そして、その常連さんたちは、滅多にお目見えできない人外の美貌を持つ店員に釘付けになる。
「えっと、オーナー?」
水色の裾が膨らんだリボンいっぱいのワンピースにフリフリのエプロンを身につけた私とダリア。
対するオーナーは、お揃いでありながら、着る人によってこんなにも印象が違うのかというほど素敵すぎる、白と水色が組み合わされた三つぞろいの服だ。
「似合うかな?」
「もちろん! えっと」
「しばらく筆頭魔術師は休むからね」
「ここで働くのですか?」
ポンッと頭頂部に大きな手が乗せられた。
その手は温かくて、しかもオーナーが幸せそうに笑ったから、私まで幸せな気持ちになる。
「……それに、魔力を預かって貰った対価が足りないらしく、毎日必ずケーキを届ける約束なんだ」
「えっ?」
「……まあ、カフェ・フローラのファンが増えたと思えば、それも喜ばしいことだ」
それだけ言うと、オーナーは淡いピンク色のクリームにキラキラ苺が惜しげもなく使われたケーキをお皿にのせた。
「ちょっと届けてくる」
「えっと、どこまで?」
「すぐ、そこまで」
オーナーが心配になって後をつけていくと、バックヤードにある扉が開く。
「……あ、あれ!? 魔女様の家が、カフェ・フローラと繋がっちゃった!」
扉の向こうに、赤い屋根の小さな家が、チラリと見える。
カフェ・フローラと魔女様の家が繋がってしまったのには、ある深い理由があるのだけれど……。
今はまだその理由が明かされるときではない。
振り返ったオーナーは、私に小さく手を振ると扉の向こうへ消えていった。
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