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差し入れと鬼騎士団長 3



 ***


 翌日。それほど種類豊富ではないワンピースの中で、一番質がいいものに袖を通す。

 髪の毛は、前日から巻いているからフワフワだ。

 いつもは仕事だから、ひとくくりにしているか三つ編みにしていることが多いけれど、今日は鏡の前でハーフアップにする。


 籠の中には、小さな袋に入ったクッキーを詰め込む。

 渡せるかは分からないけれど、クマのぬいぐるみのお礼なのだから、と自分に言い聞かせて準備した。


「いってきます」


 ベッドでいつも一緒に寝ているクマのぬいぐるみ。

 今日も抱きしめれば、くたっとしたなんとも安心できる感触だった。

 

「わぁ……。いい天気」


 外に出ると、すでに上がりかけた太陽がじりじりと地面を照らしていた。

 今日は暑くなりそうだ……。

 いつもだったら、もうすでにお店で働いている時間。 

 騎士団長様が、コーヒーを飲みに来ている時間だ。


 御前試合が行われるという会場まで駆けていきたくなるこの気持ちが何なのか、私はまだ知らない。

 それでも、水色のワンピースの裾をふわりとなびかせて、いつもより高いヒールの靴で少し足早に、私は王都の街並みを会場に向けて歩き出した。


 ***


「すごい。人がたくさん……」


 会場の入り口でチケットを渡し、半券を受け取った私は、指定されている自分の席を探す。

 ようやく見つけて、座ったころには、すでに第一試合が始まろうとしていた。


「騎士団長様……」


 競技場にいる騎士様たちの中には、騎士団長様の姿は見当たらなかった。

 もしかしたら、来ないのかもしれない……。

 少し残念だけれど、騎士様たちの試合を見たことがない私は、気持ちを切り替えてもう一度試合が行われる場所に目を向ける。


 一段高くなったそこから落ちたり、剣を落としたりすると失格になるそうだ。


 高く響き渡る剣が交わる音。

 目を離すことができない、真剣な戦いに目を奪われる。


 ……すごい!!


 王都で見かけるたびに、騎士様ってカッコいいと憧れていたけれど、これを見てしまったら、本気でファンになって、通ってしまいそうだ。

 すでに、ダリアは、何度も見に来ている、と言っていた。気持ちはわかる。


 いつも休みの日には、レシピ本を読んだりお菓子の試作をして過ごしていたけれど、時にはこうして見に来たい。

 そうね、今度はダリアと一緒に。


 その時、ひときわ大きな歓声が沸き起こった。

 王都では珍しい黒い髪、遠目にも分かるほど澄んだ、淡いグリーンの瞳。

 今回の試合で優勝した騎士様は、騎士団長様と試合をする権利を得るらしい。


 お隣で盛り上がっていた女性が教えてくれた。


 騎士団長様にエスコートされているドレス姿の女性は、焦げ茶色の髪の毛を美しく結い上げ、青い瞳は柔らかく弧を描いている。


 ……きっと、あの方が隣国の姫君なのね。


 正装姿が、あまりにも素敵な騎士団長様。

 騎士団長様に守られて凜と立つ姫君。

 物語から抜け出てきたようにお似合いの、麗しい二人の姿に、なぜか胸がチクリと痛む。


「別世界の、人なのに……」


 毎朝、かわいらしいおとぎ話みたいなお店の中で会っていたから、私は愚かにも勘違いしてしまったのだろう。

 私と騎士団長様の本当の距離は、こんなにも遠いのに。


 その時、なぜか淡い緑色の瞳と目が合った気がした。

 次の瞬間、会場がひときわざわめく。


 お店に来ているときと違って、厳しい表情をしていた騎士団長様は、なぜか私から視線をそらさないまま、微笑んだのだった。




 

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