魔女の家とカフェ 2
「……案内してくれるの?」
モフモフの短い手が差し伸べられる。
しゃがんだ私が、そっとその手に触れるとクマのぬいぐるみは走り出した。
「じゃ、またあとでね?」
「はい! あとで日替わりコーヒーとお菓子をお届けしますね!」
「待っているわ」
扉をくぐった先は、カフェフローラのバックヤードだった。
不安定な体勢のまま、背の低いクマのぬいぐるみに着いていく。
そこは、茶色の木で出来たテーブルが並ぶオシャレな喫茶店だった。
フリルいっぱいの店内は、とても可愛らしいけれど、ごく普通のカフェと言えなくもない。
「やっぱり、オーナーの魔法がなくなってしまったから」
私がそう呟くと、クマのぬいぐるみがぶんぶんと首を振った。
「え……?」
わらわらと私の足下に集まってきたのは、森のクマさんシリーズのクマたちだ。
私が騎士団長様に貰ったのは、クマさんたちの中で一番人気だけれど、そのほかにもたくさんのクマがいるのだ。
「わ、わわ!!」
たくさんのクマたちは、それぞれがおしゃれに飾り付けられて、それ自体がカフェフローラの装飾品のようだ。
フワフワ飛んできた黄色い蝶々。それを追いかけて縦横無尽にクマたちが走り回る光景は、まさに不思議でいっぱいのカフェフローラだ。
そのあまりの可愛らしさと騒々しさに呆然としていると、もう一度手が強く引かれた。
「あっ、待って!?」
水色のワンピースの裾がいつの間にかフリルとリボンでいっぱいの裾が広がったデザインに変わる。
まるで魔法のように。
「ううん、魔法だよね」
オーナーは、ほとんどの力を失ったと言っていたのに、と首をかしげながら前を見た私の心臓がドキリと音を立てる。
お店の目立たない席に座る男性の黒い騎士服は、可愛らしいこの店の中ではやっぱり少し違和感がある。
「でも、クマたちに一番人気」
頭の上にまでクマが乗っているお客様は、見渡してみても彼一人しかいない。
「……リティリア」
頭にクマを乗せたまま、立ち上がった騎士団長様。私の手を離れたクマのぬいぐるみが、やはり騎士団長様に突撃していく。
クマのぬいぐるみが、騎士団長様に抱き上げられる。
いつの間にか、他のクマたちは別の場所に走り去ってしまった。
騎士団長様の頭に乗った一匹を除いて。
「ふふ!」
「なんだ。ああ、これか……」
クマのぬいぐるみは、頭から降りようとしたのだろう。
しがみついているせいで、まるで騎士団長様の頭にクマ耳が着いているように見える。
「アーサー様の頭にクマ耳が生えているみたいで可愛いです。あのときと、逆ですね」
「……そうだな。では、もう一度受け取ってくれないか」
森のクマさんぬいぐるみが、ピタリと動きを止めた。
(まるで、あのときの再現みたい……)
「ずっとそばにいてほしい」
「は、はい」
差し出されたクマのぬいぐるみを受け取って、思わず感極まって涙しながらぶんぶんと頷く。
――――パンッ!!
「きゃ!?」
途端に耳元でクラッカーの音が鳴り響いた。
飛び立つ白い小鳥と色とりどりの風船は、いったいどこから現れたのだろう。
動くぬいぐるみの存在以外、いつもに比べて普通に見えた店内が色とりどりの風船と白い小鳥で鮮やかに変化していく。
鳴り響くクラッカーと演奏を始めたぬいぐるみたち。その光景は、いつものカフェ・フローラ以上に、幻想的でにぎやかで、楽しい。
「すごい……」
気がつけば私は、騎士団長様の腕の中にいた。
「アーサー様?」
「愛している。どうか、これも受け取ってくれないか」
私の耳につけられたのは、銀色の魔石があしらわらイヤリングだ。
割れてしまった三連の魔石に負けないほど、その魔石は光り輝いていた。
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