星降る夜のカフェ 3
「オーナー!!」
カクテルのグラスのヒンヤリした感触だけを感じて、眩すぎる光の中、何も見えなくなる。
そのとき、大きな手が私の手を包み込み、グラスを奪い取った。
それと同時に、眩いばかりの光が収束していく。
「……何しているんだ。ヴィランド卿」
その光を収束させたのは騎士団長様だ。
恐らく無茶なことをしたのだろう、その頬から汗がしたたり落ちる。
「は……。決まっているだろう。シルヴァ殿を助けようとしている」
「は? どんな代償を払うことになるかわからない! ヴィランド卿は、リティリアをこれからも」
あまりにも美しく七色に輝いているカクテルグラスを星の光に掲げ、騎士団長様はひと息にそれを煽った。
「……幻覚とは思えないほど、精巧だな」
「本物だ」
「そうか、余裕があるじゃないか」
「……皮肉かな?」
「……いや。シルヴァ殿の覚悟は、理解している」
「それなら、もう……」
「だが、シルヴァ殿に、戦場で命を助けられたこと星の数ほど。まさか、見捨てるわけにもいくまい」
二人のやり取りは、まるで信頼し合った仲間のようだ。
少しの間、今の緊迫した事情も忘れて、舞台の一幕のような会話に耳を傾ける。
「それにリティリアを笑わせる役目は、誰にもゆずれない」
「……はあ、仕方ないな」
青みがかった長い前髪をグシャリと乱して、細められる金色の瞳。
その身体には、オーナーを手に入れることを諦めきれない金色の帯が巻き付き、連れ去ろうとしているようだ。
「リティリア、宝石を」
「……アーサー様」
「俺の心配はするな。命のやり取りなど、星の数ほどして、そしてこの場所に未だ立っている。それより、リティリアにがんばってもらわなければならない」
「私に……?」
もしも、私にできることがあるなら、なんだってするだろう。
いつも私を助けてくれる、大切な人たちのためならば。
騎士団長様は、金や銀の光を帯びた宝石をそっと手のひらで包み込んだ。
次の瞬間、宝石は元の騎士団長様の瞳によく似た色を忘れてしまったように、眩い銀色に光り輝く。
「ほら、シルヴァ殿、手を出せ」
「……本気か? どうして、他人のために命をかける」
「他人のためじゃない。リティリアの笑顔のためだ。……それに、存外あの店が気に入ってしまったからな」
その言葉に、金色の瞳を見開いたあと、オーナーはさもおかしいと言うように笑った。
「……ははっ。意外にも可愛いものが好きなのだな」
「当たり前だ。リティリアも、可愛いだろう?」
「違いない」
二人を照らす金と銀の光。
会話の意味がよくわからないけれど、意気投合したらしい二人。
オーナーが、宝石にそっと手を触れれば、騎士団長様が苦しげに低くうめいた。
「……ものすごい魔力だな。さすが、王国の筆頭魔術師」
「……これだけの魔力を受けて、まだしゃべれるなんて、ヴィランド卿こそバケモノか」
「ひどいな。だが、限界か……。リティリア!!」
顔を上げる。先ほどから私のネックレスにご執心で、近くにまとわりついていた一匹の妖精が、騎士団長様の言葉に反応したようだ。
「……お願い。助けて」
その言葉を受けて、ひらひらと飛んでいった妖精が二人の魔力を嬉しそうに吸い取った。
けれど、騎士団長様が力を尽くしても、私が妖精にお願いしても、きっとそれだけでは足りない。
「うわぁ……。この場所が、隔離されていなければ王都が吹き飛びそうだ」
光が収まらないことに絶望しかけたとき、いつも私を助けてくれる大切な人の声がした。
振り返るとそこには、たくさんの妖精に取り囲まれたエルディスの姿があった。
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