星降る夜のカフェ 2
妖精が導く場所は、金色の美しい魔力で満たされていた。
緑色の宝石が小さく震えた気がして取り出すと、光が次から次へと吸い込まれていく。
「……オーナーの魔力」
「ああ、間違いない。シルヴァ殿の魔力だな」
「すごい魔力だ。でも、今にも爆発しそうだよ、姉さん」
「……エルディス」
「気休めかもしれないけど」
エルディスが、私の胸元に揺れるネックレスに、魔力を込めた。淡い紫色の光が、魔石に吸い込まれていく。
静かに輝く宝石が物珍しいとでもいうように、妖精が一匹、三人分の魔力が込められたネックレスの触れるか触れないかの距離に近づいて飛んでいった。
「……アーサー様」
「ああ。本来であれば、すでに俺たちは、以前のように子どもの姿になっているに違いない。この宝石のおかげかな」
緑色の宝石は、銀色にそして金色にキラキラ輝きながら、周囲の魔力を吸い込んでいるようだ。
「……こんなにすごいものを受け取るために、アーサー様は、魔女様にどんな対価を」
「静かに」
誤魔化されたような気がしてしまったけれど、それと同時に目の前の光の渦に、ただならぬ気配を感じる。
光に目が慣れてくれば、そこには夜に溶けそうな紺碧の髪と、あまりに美しい金色の瞳をした男性が一人立っていた。
その人外の美貌を持つ男性が、まるでこの世のものではないように妖艶に微笑む。
「……リティリア、会いたかった」
「オーナー!」
「……こんな場所まで来るなんて。最期に君の姿が、見たかった。そんなことを願ってしまったのが、いけなかったかな」
近づけば、微笑んだオーナーが、静かに私から目をそらした。
「ここは危険だ。ヴィランド卿、早く連れて帰ってくれないかな」
まるで、最後のお別れを告げられたように思えて、ズキリと胸が痛む。
「……や、いやです!!」
「リティリア、仕方がないんだ。この魔力は今にも、弾けてしまいそうだから」
ギラギラと眩すぎるほどの光の中で、そこだけ夜が訪れたような髪のオーナーは、今にも儚く消えてしまいそうだ。
どうしていいのか、解決の糸口も浮かばなくて、ボロボロと涙がこぼれ落ちていく。
チラリとこちらに視線を送ったオーナーが、少しだけ傷ついたように眉をひそめた。
「……泣かないでくれ、リティリア。僕の思い出の中の君は、いつだって笑っていてほしい」
「オーナーが助けてくださらなかったら、今も笑っている瞬間なんて!」
「リティリア。君には、ヴィランド卿がいる」
泣いているばかりの私。まるで小さな子どもに言い聞かせるようなオーナーの言葉。
小さな子どもに戻ってしまったように、涙がますますこぼれてしまう。
「泣かないで、リティリア」
一際光が強くなった瞬間、私とオーナーは、小さなカフェテーブルを前に向き合っていた。
「……ここは」
それは、あの日の夜空をモチーフにした店内だ。
「あの日、こぼれてしまった星の欠片が、カフェ・フローラに散らばったとき、リティリアが喜ぶかもな、と思ったんだ」
「……とても美しいと思いました」
「君に助けられなければ、僕こそもうここにいない」
初めて出会ったあの日、子ども姿のオーナーは、今にも消えそうだった。
けれど、助けたのは私ではなく妖精たちだ。
私自身には、なんの力もない。そう、今この瞬間のように。
目の前に差し出されたのは、七色の層の中、キラキラと星が閉じ込められたカクテルだ。
差し出されたそれを受け取った瞬間、爽やかでかぐわしいその香りが鼻腔をくすぐる。
「……大人になった君と、飲み交わすのを密かに楽しみにしていたけど」
「もう私は、大人です。オーナー」
「そうだね。いつの間にか、大人になってしまった。いつまでも、幼い君のままでいると心のどこかで思っていたのに。……僕の可愛いリティリア」
チンッと軽やかな音。二人が持つ華奢なグラスが軽い力でぶつかる。
その七色の液体が、オーナーの喉をゴクリと通るのをただ眺めているうちに、周囲が眩く染め上げられるほど、眩い光に満たされる。
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