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魔鉱石と妖精 2


「あの、アーサー様?」

「……笑って」

「へ? あの……」


 笑っているような状況じゃないと思うのに……。

 けれど、妖精たちは騎士団長様が作り上げた魔法の壁を越えることはできないらしい。

 薄暗かった洞穴が、妖精たちの光に仄かに照らされる。


「あの……」

「リティリアに、笑ってほしいから」

「――――そんなのっ!」


 ボロボロこぼれてしまったのは、不可抗力の涙だ。

 だって、私の笑顔は、幸せそうに笑っている騎士団長のそばしか、きっとない。

 どうしてわかってもらえないのだろう。

 きっと、私にとって何よりも大切なのが、騎士団長様なんだって、伝わっていないに違いない。


「えっと……。泣かないでほしいのだが」


 眉根を寄せて、本当に困ってしまった様子の騎士団長様を上目遣いににらんでしまう。

 口にしたら伝わるのだろうか……。


「騎士団長様が、私のために苦しい思いをしたら、喜べるはずなんてありません」

「……それは」

「何もいらないなんて、そこまでのことは言えないけれど……。でも、騎士団長様が私にとって一番大切な人なのは間違いなくて……」


 もちろん、オーナーのことも、弟のエルディスのことも大切で、誰かを選ぶなんて私には難しいのかもしれない。覚悟ないと笑われてしまうかもしれない。でも……。


「――――そうか。まあ、リティリアの大切な人たちごと守りたいと思ったのだが……。泣かせてしまうとは」

「騎士団長様の安全を確保してください!」

「はは、確かに自分の安全をまず確保してから行動するというのは、戦場の基本なのに、リティリアに教えられるとはな……」

「っ、それで、何を差し出したんですか?」

「大したものじゃない。魔力の一部を……」

「もっ、ものすごく大切な物じゃないですか!」


 驚きのあまり、私の淡い紫の瞳は、まん丸に見開かれてしまったに違いない。

 だって、王国でオーナーと並んで最も強いと言われている騎士団長様が、魔力を捧げてしまうなんて。


「まだ、差し出してない……。その前に、リティリアが、この場所に飛び込んできてしまった」

「……だって、私」


 ハッキリ言って、戦闘能力なんてこれっぽっちもない私が、この場所に来たからって、何の役にも立たないに違いない。


「嬉しいよ……」

「えっ!?」

「俺のことを思ってくれたって事だろう? 少しだけ、うぬぼれてもいいのかな」


 もう一度、私たちは口づけを交そうとした。

 けれど、あと少しでお互いの唇が触れそうになった時、ガッシャンと魔法の壁が割れる音が洞窟内に響き渡る。


「――――お楽しみのとこ、悪いけど。目的地見つけたから、行くよ?」


 振り返った先には、眉をひそめた弟、エルディスがいた。

 弟に、騎士団長様と口づけしようとしようとした瞬間を見られた私は、多分耳まで真っ赤になったに違いない。

 チラリと見た騎士団長様は、けれど口の端をどこか悔しそうに歪めただけだ。

 やっぱり、私の方が騎士団長様のことを大好きに違いない。私は、そう結論づけたのだった。



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