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魔鉱石と妖精 1


 かつては、世界中に魔鉱石はあふれていたという。けれど、それはすでに昔話の中のことだ。


 私の淡い紫の瞳。妖精たちが愛するらしい魔力。

 この力で、見つけることが出来る魔鉱石は、時に宝石以上の価値を持つ。


「これは、魔鉱石の採掘場跡か」


 たくさん転がっているのは、ただの石ころに見えるけれど、知識ある人が見ればひと目で分かるだろう。

 この石ころは、抜け殻になった魔鉱石だ。


「……こんなにたくさんあったのに、どうして抜け殻になってしまったのでしょうか?」

「そうだな……。原因はいくつか考えられるが」


 抱き上げられたまま、荒れ果ててしまった採掘場を見つめる。


「リティリア。君は、あの場所に置いてくるべきだったかもしれないな」

「アーサー様、それはいったい」


 そのとき、今まで見たことがないほど興奮した妖精たちが、群れをなしてこちらに飛んでくるのが見えた。


「……一匹でも傷つけてしまえば、その人間を妖精たちは永遠に許さない」

「……えっ?」

「つまり、逃げるしかないか」


 私を抱え上げ直して、走り出した騎士団長様。

 本当に今日は、なんてめまぐるしい一日なのだろう。


「えっと、走れます!!」

「この方が、間違いなく早い。それより、宝石は持っているか?」


 宝石といえば、あのこぶし大の宝石に違いない。


「はい」

「紫色の宝石を妖精に向かって投げてくれ。くれぐれも傷つけないようにな」

「わかりました!」


 ポシェットをまさぐって、取り出した宝石は、運良く紫色だった。


(少しもったいないけれど……)


 宝石としても、価値が高いだろうそれを思い切って妖精たちの方に投げる。

 とたんに、妖精たちはそれに群がって、あっという間に距離をとることが出来た。


「あれはいったい」

「あの宝石には、魔女様の魔力が込められている。言うなれば、人工の魔鉱石だ」

「そんなことが出来るのですか?」

「……そうだな。魔女様であれば可能なのだろう。事実、ここにあるのだから」


 この宝石を得るために、騎士団長様は、対価を魔女様に払おうとした。それは間違いないだろう。


「なぜ」


 偶然見つけた洞穴。

 騎士団長様が、妖精が入ってこられないように、厳重に魔法をかけてくれる。

 何も手伝うことが出来ないことに、少しのいらだちを感じながら、思わず疑問を口にしてしまう。


「何がだ?」


 作業を終えた騎士団長様が振り返る。

 孤独も悲しみもあるのだとしても、騎士団長様なら何でも手に入れられるのに。


 それなのに、時々私のために全てを投げ打ってしまいそうな危うさを見せるから、いつかいなくなってしまうのではないかと不安になってしまう。


 今、ここには私たち二人しかいない。

 薄暗いこの場所では、誰にも遠慮はいらないはずだから。


「この宝石を手に入れるため、何を差し出したのですか?」

「……宝石を手に入れるためじゃない」

「……え?」


 薄暗がりで二人きり。

 そっと落ちてきた口づけは、まるで許しを請うみたいだと、なぜか思った。

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